2010年08月30日 (月)アジアを読む 「パキスタン洪水、対テロ作戦への影響は?」
(冒頭V)
この夏、世界各地で続いた異常気象。パキスタンでは記録的な大雨で洪水の被害がインダス川流域に広がり、国土の5分の1が水につかる深刻な事態となっています。この洪水で死者はおよそ1600人、被災者は1700万人に上り、政府の対応や支援の遅れに不満が高まっています。
▼被災者ON。
「洪水が起きてから政府は何もしていない。子どもも家畜も失い、得るものはなく、生きるだけで精一杯だ。政府は何をやっているんだ。政府は責任を果たしていない」。
▼国連、パン・ギムン事務総長ON。
「世界中の多くの自然災害の現場を訪れたが、こんなひどい事態は見たことがない。災害の規模は非常に大きい」。
対テロ作戦を進めるアメリカは被災地でイスラム過激派が繰り広げる救援活動に危機感を強め、積極的な支援に乗り出しています。パキスタンを襲った洪水の現状と対テロ作戦への影響を考えます。
「パキスタン洪水、対テロ作戦への影響は?」
(岩渕梢キャスター)
Q1:パキスタンの洪水の被害はどれだけ深刻なのでしょうか。
(山内聡彦解説委員)
A1:この80年間で最悪の水害と言われています。
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これは洪水の被害地域を示したものです。赤が被害にあった地域、青い線がインダス川です。先月下旬、パキスタンの北西部で記録的な大雨が降り、洪水や土砂崩れが相次ぎました。洪水は国を南北に流れる大河・インダス川に沿って、中流のパンジャブ州や下流のシンド州に広がりました。国土の5分の1が水につかる深刻な事態となっていますが、これは日本の面積の4割に相当します。この洪水で死者はおよそ1600人、壊れた住宅は120万棟、被災者は1700万人以上に上っています。この1700万人という被災者はパキスタンの人口の10%にあたります。また被災者数は、6年前のインド洋沖の大津波、5年前のパキスタン北部の大地震、今年1月のハイチの大地震の被災者をあわせたものよりも多いということです。ですから、今回の水害はとてつもなく規模の大きな自然災害だということがわかると思います。
(岩渕)
Q2:発生から1か月たちましたが、被災地はどんな状況でしょうか。
(山内)
A2:インダス川は徐々に水位が下がってきていますが、下流のシンド州では先週、堤防が決壊し30万人が避難する騒ぎとなりました。全国では洪水でまだ80万人が孤立状態にあるということです。壊滅的な被害を受けた北西部のカイバル・パクトゥンクワ州では橋や道路が寸断され、多くの住宅が壊れ、腰の高さまで泥に覆われています。住民は高速道路の中央分離帯に数キロにわたってテントを張って避難生活を送っています。
▼被災者ON。
「政府はろくに支援もせず、我々のことを気にもとめていない。生活を立て直すにも貧しくて、その手立てもない」。
パキスタンは農業国ですが、農作物の80%が壊滅的な被害を受けました。穀倉地帯のパンジャブ州などでは綿花や米が被害を受けました。貯蔵していた種子も洪水に流され、今後深刻な食糧不足が懸念されます。
(岩渕)
Q3:支援が遅れ、被災者の不満が高まっているのではないでしょうか。
(山内)
A3:被災地では陸路が寸断され、物資の輸送が難航しているのに加え、被害の拡大で支援が追い付かない状態が続いています。このため、政府の対応の遅れに批判や不満が高まり、あちこちで抗議デモが起きています。
▼抗議デモON
「私たちには家がない。ここにいる人たちはみな家を失った。雨が降り続いており、食糧も足りない。政府からの支援はなく、私たちにはどうすることもできない」。
こうした中で、パキスタン政府は、ザルダリ大統領が洪水の最中に、1週間にわたってフランスとイギリスを外遊するなど、危機管理のなさを露呈しました。とはいえ被害はパキスタン1国の手にあまることも確かです。こうした混乱に乗じて、過激派が台頭することが懸念されています。
(岩渕)
Q4: 具体的にはどのようなことが起きているのですか。
(山内)
A4:大きな被害に見舞われたパキスタン北西部ではタリバンとの関係が指摘されるイスラム系の慈善団体の救援活動が目立っています。ここはイスラム教の学校ですが、今は被災者を収容するキャンプとなっています。このキャンプはイスラム教団体が設置したもので、食糧や医薬品を被災者に無料で提供しています。この団体は政府が過去に外国からの復興資金を流用するなど政府の支援のやり方が不透明だと強く批判しています。
▼イスラム教団体のメンバーON。
「住民は政府の支援のやり方にうんざりしている。5年前の大地震との時もそうだった。政府の信頼はゼロだ」。
パキスタン北西部は過激派の拠点で、イスラム系の団体は混乱や被災者の困窮に乗じて支持を広げ、組織への勧誘を行なっていると見られています。パキスタン政府はこうした事態に強い懸念を表明しています。
(岩渕)
Q5:そのパキスタンに対して、国際社会はどんな支援をしているのでしょうか。
(山内)
A5:国連は国際社会に4億6000万ドル、およそ400億円の緊急支援を呼びかけています。今月19日にはアメリカの強い要請を受けて、この災害に関する国連総会の特別会合が開かれました。国連のパン・ギムン事務総長は世界がこれまで経験したことのない規模の災害だとして、支援があまり集まらない現状に危機感を表明しました。
▼国連、パン・ギムン事務総長ON。
「パキスタンはゆっくりとした津波に直面している。破壊力は時とともに増え、大きくなる」。
パキスタンのクレシ外相は支援が遅れ、住民の不満が高まれば、過激派が台頭する恐れがあるとして、テロや過激派という言葉を何度も繰り返し、支援を呼びかけました。
▼パキスタン、クレシ外相ON。
「我々は過激派がこの自然災害を悪用することを許さない。このため、国際的な支援が早く行われることが非常に重要だ」。
国連によりますと、この会合の結果、当面必要とされる400億円の70%近い資金が何とか集まる見通しになったということです。
(岩渕)
Q6:アメリカが支援に非常に積極的なようですが、どんな思惑があるのでしょうか。
(山内)
A6:アメリカはヘリコプターで住民を救出するなど、洪水の発生直後から非常に積極的な救援活動を行なっています。アメリカが表明した支援額も国連加盟国で最大の1億5000万ドルに達しています。背景には、▼来年7月のアメリカ軍のアフガニスタンからの撤退開始を前に過激派の勢力拡大を防ぐことや、▼対テロ作戦を有利に進めるため、援助を通じてパキスタン国民の反米感情を改善したいという思惑があります。
▼アメリカ、クリントン国務長官ON。
「米国はパキスタンの危機に緊急に対応し、今後の復興を支援する決意だ。米国がこの危機に際してパキスタン国民の味方だということを知ってほしい」。
このようにパキスタンの被災地では、さながらアメリカと過激派の援助合戦の様相を帯びてきています。
(岩渕)
Q7:日本も自衛隊を派遣しましたね。
(山内)
A7:日本政府は12億円余りの無償資金協力や援助物資の供与に加え、陸上自衛隊のヘリコプター6機と200人規模の隊員を派遣することを決めました。岡田外務大臣はパキスタンが対テロ作戦に重要な役割を果たしていることも考慮したと述べています。
▼岡田外相ON
「今回の災害は極めて規模が大きいため、国際社会が協力して支援する必要がある。さらにテロの温床とされるアフガニスタンに隣接するパキスタンの重要性も念頭において、今回の派遣を決めた」。
自衛隊の部隊はパキスタン中部のムルタンを拠点に、およそ1ヶ月間、被災者や救援物資の輸送活動を行なうことになっています。
(岩渕)
Q8:今後の見通しはどうでしょうか。
(山内)
A8:当面必要なのは医療や食糧などの緊急支援ですが、その後はインフラの復興など中長期的な課題に取り組まねばなりません。これにはさらに多くの支援が必要です。パキスタンは対テロ作戦の最前線にあり、核を保有しています。社会不安が高まり、政権が揺らいで過激派が台頭すれば、この地域にとって非常に大きな問題になりかねません。アフガニスタン戦争が、来年、アメリカ軍の撤退開始という大きな転機を迎える時期だけに、パキスタンの不安定化は絶対に避けなければなりません。そのためにも、私たち・国際社会がパキスタンを支援し、支えていくことは極めて重要だと思います。
投稿者:山内 聡彦 | 投稿時間:18:29
