2010年08月26日 (木)アジアを読む 「アフガニスタン/米軍機密情報流出の衝撃」
(冒頭V)
イラク戦争が始まって7年。アメリカの主要な戦闘部隊が先週、イラクからの撤退を完了しました。同時多発テロ事件を受けて、アメリカが進めてきた対テロ作戦は今後アフガニスタンに重点が移ることになります。そのアフガニスタン戦争をめぐって、先月末、アメリカ軍の機密情報がインターネット上に大量に流出するという異例の事件が起きました。戦争の実態が深刻であることを示すもので、今後のアフガニスタン戦争に影響が出る可能性も指摘されています。
▼機密情報を暴露したウェブサイトの創設者ON。
「最終的に犯罪かどうかは司法が決めることだ。文書の中には戦争犯罪の証拠と見られるものがある」。
▼アメリカ・オバマ大統領ON。
「文書にはアフガニスタン問題に関して国民に知らされていない問題はない」。
アメリカ史上最大の機密漏えいの1つとされる今回の事件。アフガニスタン戦争に与える影響と、インターネットに機密が流出した意味を考えます。
「アフガニスタン/米軍機密情報流出の衝撃」
(吉井歌奈子キャスター)
Q1:アメリカ史上最大の機密漏えい事件の1つということですが、事件にはどんな特徴があるのですか。
(山内聡彦解説委員)
A1:最大の特徴は機密情報が新聞など既存のメディアではなく、インターネットのウェブサイトに公開されたことです。「ウィキリークス」という名前のサイトで、4年前に創設され、内部告発者からの情報や映像を公開しています。
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このウィキリークスの存在を一躍有名にしたのが今年4月に公開されたこの映像です。3年前、イラクの首都バグダッドでアメリカ軍のヘリコプターがイラク市民を無差別に銃撃し、11人を殺害したものです。映像はアメリカ軍の内部告発者から提供されたもので、大きな反響を巻き起こしました。そのウィキリークスが今回、7万6000件にのぼるアフガニスタン戦争に関する軍の機密情報を暴露したわけです。
(吉井)
Q2:どんな機密情報が流出したのですか。
(山内)
A2:アフガニスタンに駐留するアメリカ軍部隊が作成した日常の任務の報告書、いわば戦争の日誌のようなものです。内容は「トップ・シークレット/最高機密」ではなく、1ランク下の「シークレット・機密」にあたるもので、ブッシュ、オバマ両政権の6年間にわたっています。戦争の実態を裏付けるもので、情報は信ぴょう性があると、ウィキリークスは主張しています。
▼ウィキリークスの創設者アサンジ氏ON。
「文書の信ぴょう性も疑いはない。最高機密は含めていないが、米軍の日常活動のほとんどを含んでいる」。
これは今回明らかになった主な新事実を列挙したものです。▼大勢の住民が戦闘の犠牲になっており、これまで公表されなかった事件がかなりあること、▼アメリカの特殊部隊が秘密裏にタリバンやアルカイダの幹部2000人以上を拘束・殺害しようとしていること。▼パキスタン政府がアメリカから多額の支援を受けながら、一方でタリバンと共謀していること。こうした事実が新たに明らかにされました。
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(吉井)
Q3:具体的な例としてはどんなものがあるのですか。
(山内)
A3:特殊部隊の活動は秘密とされていますが、今回、その作戦によって大勢の住民が犠牲になっていることが明らかになりました。例えば、3年前の6月、南東部のパクティカ州で特殊部隊はイスラム教の学校に対して5発のロケット弾を撃ち込み、過激派のほか子供7人が死亡しました。アルカイダの幹部の殺害を狙ったものでしたが、幹部はおらず、作戦は失敗に終わりました。しかし、特殊部隊の作戦だったことや最新式のロケット砲が使われたことなどはこれまで一切明らかにされていませんでした。
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(吉井)
Q4:パキスタン政府とタリバンはどのように共謀しているのですか。
(山内)
A4:パキスタンの情報機関がタリバンに武器や資金を与え、訓練を施すなど、共謀していることが、およそ200件に及ぶ報告書の中で指摘されています。例えば、3年前の4月、パキスタンの情報機関はアフガニスタンの2つの州で自爆テロ攻撃を行わせるため、タリバン系の武装勢力にモーターバイク1000台を送ったとされています。しかし、パキスタン政府は去年から、アメリカと協力関係を強め、タリバンに対して大規模な軍事作戦を行なうなど強い姿勢を取るようになってきています。
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(吉井)
Q5:今回の情報流出をアメリカ政府はどう受け止めているのでしょうか。
(山内)
A5:オバマ政権は戦争の方向性を変えるような驚くべき事実はなく、これまでのアフガニスタン政策を変える必要はないとしています。
▼オバマ大統領ON。
「アフガニスタンでは今後も大きな問題に直面するかもしれないが、重要なのは、我々が目標に集中し、成果をあげていることだ」。
同時にオバマ政権は膨大な機密漏えいは国家安全保障への脅威であり、前線の兵士や情報を提供した協力者を危険にさらすものだと強く非難しています。
▼アメリカ、ゲーツ国防長官ON。
「国防総省は全力をあげて漏えいの原因を捜査している。責任のある人物を特定し、漏れた情報の内容を評価する」。
(吉井)
Q6:この事件はアメリカのアフガニスタン政策にどんな影響を与えるでしょうか。
(山内)
A6:今回の機密漏えいは戦争の実態が深刻で、軍事作戦がうまくいっていないことを示すものです。オバマ大統領に与える政治的な打撃は少なくないと思います。今回の事件は来年7月のアメリカ軍の撤退開始まであと1年と迫った中で起きました。アフガニスタンでは先月、月別では過去最高の65人のアメリカ兵が死亡するなど、治安は過去最悪の状況です。世論調査でも、大統領のアフガニスタン政策を支持する人は過去最低の45%に落ち込んでいます。今回の機密漏えいによって、アメリカでは戦争の行方や大統領の政策に対する懐疑的な見方がますます強まるのは避けられないだろうと思います。今後、11月のアメリカの中間選挙や、12月に行なわれる来年の撤退開始をめぐる情勢の見直しに向けて、オバマ大統領は一段と難しい状況に直面することが予想されます。
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(吉井)
Q7:機密を暴露したのがインターネットだったことはどんな意味があるでしょうか。
(山内)
A7:インターネットの新しい時代を象徴するものだと思います。アメリカではかつてベトナム戦争に関する国防総省の機密文書・ペンタゴン文書が新聞にリークされました。アメリカの歴代政権がベトナム戦争の実態を国民に隠していたことが暴露され、内外に大きな衝撃を与えました。衝撃度や内容面ではペンタゴン文書の事件の方が上ですが、流出した情報量では今回の事件がはるかに上です。大量の一次情報がノーカットで、しかも、全世界で同時に公開されたことは、まさにインターネット時代ならではの大きな変化です。その背景にはインターネットのインフラの整備や情報源を隠すための暗号技術の大幅な進歩があると専門家は指摘しています。
(吉井)
Q8:今後インターネットへの内部告発が増えることになるのでしょうか。
(山内)
A8:アメリカでは安全保障や情報関係の分野で機密情報にアクセスできる権限を持った人は85万人にのぼるということです。今回の事件をきっかけにインターネットへの内部告発が増えることも予想されます。その一方で、ウィキリークスには、寄せられた情報が果たして正しいものなのかどうか、きちんと検証し、裏付けを取って伝えることが大きな課題です。また機密を暴露したことで、情報を提供した協力者に危険が及ぶ懸念があり、今後、慎重で責任ある対応が求められると思います。
(吉井)
Q9:アフガニスタン情勢は今後どうなるでしょうか。
(山内)
A9:今回の機密漏えいは、来年7月にアフガニスタンから撤退を開始すると自ら期限を切ったオバマ大統領に、その実現に向けてさらなる圧力をかけるものになると言えます。大統領は今後、増派によってタリバン有利の戦況をくつがえし、撤退開始の条件を作りだすことがこれまで以上に強く求められることになると思います。しかし、9年間に及ぶアフガニスタン戦争の歴史は、短期間で具体的な成果をあげることは極めて難しいことを物語っていると思います。
投稿者:山内 聡彦 | 投稿時間:18:11
