2008年08月26日 (火)アジアを読む 「北京五輪 中国に何をもたらしたか」

(冒頭V)
中国が「100年の夢」と呼び、国の威信を賭けて開催した北京オリンピック。
80を超える国の首脳が出席した開会式を始め、華やかな演出で世界を驚かせました。
競技では、中国選手が世界最多となる51個の金メダルを獲得。中国政府はオリンピックの成功を内外にアピールしています。
しかし、その一方で、中国が抱える様々な課題も改めて浮き彫りになりました。
国際社会が注目した人権問題や民族問題。そして、「報道の自由」は?さらに、減速傾向を見せ始めた経済はー。オリンピックという一大イベントを終えた中国はこれからどこに向かうのか? 浮かび上がってきた課題を探ります。

北京五輪 中国に何をもたらしたか

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(小林キャスターQ1)
北京オリンピックは、中国にとってどのような 意味があったといえますか?


(加藤解説委員A1)
中国は、今回のオリンピックを、国民の心をひとつにまとめる国威発揚の場。そして、世界に向けて、中国の国力をアピールする絶好の機会ととらえていたと思います。
その意味で、今回中国は、他の国を圧倒する51個という大量の金メダルを獲得し、初めて、金メダルの最多獲得国になりました。
国民の自信を高める上で、狙い通りの成果を収めたといえると思います。ただ、中国政府が何より安堵しているのは、17日間に及んだオリンピックが、無事終了したことだと思います。
事前にテロ攻撃があるかもしれないという予測があっただけに、テロを極度に警戒していたと思います。そのために、50万人以上の警備要員を動員し、地対空ミサイルまで配備するという、厳戒態勢がしかれました。力ずくでテロを封じ込めたといえるかもしれません。


(小林Q2)
開会式や閉会式は、膨大な人たちが動員され、大変華やかで、壮大なものになりましたね。


(加藤A2)
人の数もさることながら、登場した人たちの背丈が、アトラクションごとにみんな、ぴったりそろっていたことにも驚かされました。しかも、一人ひとりが、まるで、機械仕掛けのコマのように、一糸乱れぬパーフォーマンスを披露しました。
これはまさに、中国共産党の事実上一党独裁という政治の強力な権力基盤と、13億という巨大な人口を抱える強みがあればこそ成せた業と言えます。他の国には、とてもまねできない「中国の力」を見せ付けた形となりました。
ただ、開会式では、テレビの中継映像の中に、コンピュータで事前に作成した映像を忍ばせたり、会場で歌う女の子の声を、別の子供の声とかえて流したりする演出もありました。これには、違和感を覚えた人も少なくないのではないでしょうか。

(小林Q3)
中国の一般の人たちにとって、北京オリンピックは、どのような意味があったといえますか?


(加藤A3)
中国でオリンピックを開きたいというのは、多くの国民の悲願でもあったといいます。
オリンピックのために、積極的に協力したいという人たちも、非常に多かったのではないかと思います。
大会には、150万人以上のボランティアが参加しましたし、中国の人々の公衆マナーが、オリンピックを契機に大きく改善されたことも、オリンピックを成功させたいという人々の気持ちの現れだと思います。
例えば、バスや電車への乗り降りの時、以前は、我先に競って乗り込む人が多かったのですが、今では、列を作って、整然と乗るように変わりました。
一方これは、かつて中国で行われたサッカー試合の映像ですが、観客がペットボトルを投げ込んだり、対戦相手国のチームにブーイングをしたりと、マナーの悪さが目立ちました。
しかし、今回のオリンピックでは、そのような光景は見られませんでした。
人々の観戦マナーもずいぶん改善されたといえます。その意味で、今回のオリンピックは、中国社会の文化レベルを向上させる上で、一定の役割を 果たしたといえると思います。

(小林Q4)
今回のオリンピックでは、国際社会から報道の自由がどこまで認められるかという点も注目されましたが、どうだったのでしょうか。

(加藤A4)
中国は、オリンピックを開催するにあたり、表現の自由や集会の自由、そして報道の自由を尊重すると約束していました。しかし残念ながら、その約束は、十分守られたとはいえません。北京市内では、大会期間中、デモを行える場所が、3箇所設けられたのですが、70件以上の申請があったにもかかわらず、まったく許可されないという異常さでした。
オリンピック開幕に、あい前後して発生した新疆ウイグル自治区でのテロ事件の取材では、日本の記者が公安当局に身柄を拘束されたり、暴行を受けたりしました。都合の悪いことは覆い隠すという旧態依然とした厳しい姿勢があらわになったといえます。

(小林Q5)
それで、北京オリンピックは、成功したといえるでしょうか?

(加藤A5)
中国政府が、国の威信をかけて行っただけに、競技場などの設備は充実し、多くの献身的なボランティアに支えられ、沢山の記録が打ち立てられました。競泳では、25個の世界記録。陸上でも,ジャマイカのボルト選手が100mと200mでともに 世界記録を打ち立てました。
ただ、競技がうまくいったからそれでよかったかといえば、そうとは言い切れません。
中国にとって正念場は、むしろオリンピックが終わった、これからだといえると思います。大会期間中は、厳しい警戒態勢によって、押さえ込まれていた様々な矛盾や人々の不満が、オリンピックの後に噴出す不安を抱えていると思います。

(小林Q6)具体的には、どんな問題があるのでしょうか?

(加藤A6)▼まず、今回注目された、言論の自由の問題です。IOC・国際オリンピック委員会のロゲ会長は、オリンピックの閉幕にあたって記者会見し、次のように疑問を呈しました。

【ロゲ会長発言】
「抗議デモが1件も許可されなかったのは異例だ」

この問題を解決できてこそ、中国は国際社会から、先進国への切符を受け取ることが出来るでしょう。
▼また、今回のオリンピックを前に、チベットで暴動が起きたり、新疆ウイグル自治区でテロ事件が起きたりしました。中国が抱える少数民族問題。今後これをどう解決してゆくのかが、大きな問題です。中国は、オリンピックを前に、チベットのダライ・ラマ亡命政権との対話を再開しましたが、オリンピックが終わった後も、問題解決のために積極的に取り組むのかどうかが問われています。
▼さらに、地方政府の権力乱用や汚職腐敗に対する不満をどう解消するかも、大きな課題といえます。中国では、オリンピックを前に、各地で警察を襲撃する事件が多発しました。
厳戒態勢が解かれるオリンピック後に、そうした不満が再び噴出す可能性もあります。
▼そして、もう一つ気がかりなのは、中国経済の行方です。ここ十年来、過熱気味の経済成長が続きましたが、オリンピックの直前になって、上海の株価が大幅に下がり、経済成長の伸びにもかげりが見えるようになりました。また、インフレが、庶民の懐を直撃し始めています。経済が落ち込めば、社会の不満をさらに増幅しかねません。2年後の上海万博に向けて、経済をいかに上向かせるかも、侮れない課題です。
まさに、課題山積ということになりますが、これらを一つ一つ解決することで、中国は、よりよい方向へと、変わってゆくことになるのだと思います。

投稿者:加藤 青延 | 投稿時間:18:34

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