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視点・論点 「"子ども・子育て新システム"について」2011年10月04日 (火)
恵泉女学園大学教授 大日向雅美
今年の7月、政府は今後の子育て支援施策の基本となる「子ども・子育て新システム」の中間とりまとめを行いました。私は新システムのワーキングチームにかかわってまいりましたが、本日は中間とりまとめの概要、特にその中の大きなテーマの一つである「幼保一体化」についてお話をさせていただきます。
新システムは、昨年1月、民主党政権下で策定された「子ども・子育てビジョン」を起点としていますが、90年の出生率1.57ショック以来、超党派で取り組んできた少子化対策/子育て支援施策の集大成と言えるように思います。
その特徴と意義は3つあります。
第一に、すべての子どもの育ちを社会の皆で支えるという、子育て支援の理念の画期的な変化です。
第二に、働き方を改革し、子育てと仕事の調和を図ることを目指しています。
第三に、何よりも、子どもの健やかな成長を保障することを議論の大前提としています。
なぜ、今、新システムの検討が必要なのでしょうか?
一言で言えば、子育てや働き方に関する従来の考え方や制度が、時代の変化と共に人々の生活スタイルや価値観に合わなくなっています。少子化が急速に進み、生産年齢が減少して、社会保障の維持のうえからも危機感がもたれています。
若い世代は子どもを産みたいと願いつつも産めない理由があります。高学歴化や社会参加の意欲の高まり、さらには近年の経済不況の影響もあって、働くことを希望する女性が増えていますが、依然として職場環境は厳しく、仕事か家庭かの選択を迫られています。
さらに安心して子どもを預ける環境の整備が遅れています。都市部では深刻な待機児問題が続いています。
しかし、保育所を増やせば問題は解決するかというと、必ずしもそうではありません。むしろ、就学前の子どもが過ごす場が、親が働いているかいなかによって、幼稚園と保育所に分かれている現状が、子どもの健やかな育ちを守り、同時に親が安心して働き続けるうえで、大きな問題を生んでいます。
それでは、幼稚園と保育所にどのような違いと問題があるのでしょうか。
幼稚園は文部科学省の所管の幼児教育を提供する施設として、学校教育法に位置づけられていますが、4時間保育を中心としているために、事実上、専業主婦家庭の子どもしか利用できません。その結果、幼稚園は入園希望者が減り、特に地方では減少の一途をたどっています。幼稚園のない自治体は2割。人口一万人未満の自治体では5割に及んでいます。生き残り策として、4時間の保育後に、預かり保育を実施している幼稚園も増えていますが、その多くが児童福祉法による保障のない無認可保育の状況です。
一方、保育所は厚生労働省の所管ですが、かつては働かざるを得ない家庭の子どもの保育を行う児童福祉法上の施設としてスタートしました。近年では働くことを希望する女性が増え、保育所の整備が追い付いていません。
女性の社会進出は日本社会の経済成長を支える鍵でもあり、保育所が果たす役割は今後さらに大きくなっていきます。
しかし、その保育所に対して、幼児教育をしていないという誤解が一部にあります。子どもを幼稚園に通わせるために、仕事を辞める女性もいます。
これは明らかな誤解です。保育とは養護(愛情をもって保護する)と教育が一体となったものです。保育所は幼児期の教育を十二分に行っています。ただし、学校教育法に位置づけられた義務教育の基礎を培うという意味での教育の保障は、幼稚園にしか適用されていません。
こうした問題の解決を目指した幼保一体化ですが、具体的な仕組みとして
(1)総合施設(仮称)を創設します。
保育所は、0歳から2歳児だけを保育する乳児保育所を除いて、総合施設に移行し
す。幼稚園も総合施設に移行するよう、財政的に誘導します。
その結果、就学前のすべての子どもが、親の生活スタイルにかかわらず、保育と学校教育法上に位置づけられた教育を受けられるようになります。
(2)市町村の権限と責任を明確にし、利用者の施設利用を保障します。
現在は保育に欠ける要件の認定と入所する保育所のあっせんの両方を市町村が行っていますが、保育所の利用を保障されるのは、あくまで行政が「保育に欠ける」と判断をした子どもとその世帯に限られています。しかも現行制度では「保育に欠ける」場合でも、待機児童の多い市町村では、認可外施設等に斡旋することが認められているため、自治体の財政事情によっては、認可基準を満たす保育所であっても認可せず、結果的に待機児対策を遅らせている一因ともなっています。
一方、新システムでは、すべての子どもを対象として市町村が事業計画を策定します。まず市町村は地域住民のニーズ調査を行い、地域の実情に応じて、必要な施設を計画的に整備します。財政上の理由で必要な施設の開設を抑えることはできなくなります。保育の必要性については市町村が客観的基準に基づいて認定し、それを受けて保護者は施設を選択して契約するいわゆる公的契約としますが、待機児童のある場合、また障がいや虐待、経済的事情などがある子どもの行き場がなくならないよう、市町村が調整に努めることも責務としています。
(3)保育の質の向上と恒久財源の確保を目指します
新システムは単なる待機児童対策ではなく、すべての子どもに良質な発達環境を整備することを目指しています。施設の物理的な環境整備に加えて、保育者の人員配置、待遇改善、研修システムの充実など、保育に携わる人々の就労環境の整備があってこそ保育の質が守られることは、いくら強調しても足りません。財源確保は最重要課題です。
そのためにも
(4)政府の推進体制・財源を一元化します。
これまで幼稚園は文部科学省、保育所は厚生労働省に所管が分かれ、財源も制度毎にバラバラでしたが、新システムでは「こども園」給付を創設して財政措置を一元化し、所管も一元化して、二重行政の解消を目指します。
就学前の子どもが過ごす場が親の生活状況によって幼稚園と保育所に分かれて60数年、幼保一体化は多くの関係者の悲願でした。新システム制度案要綱が目指す本来の幼保一体化に照らしてみると、中間とりまとめはプロセスであって、まだ完璧なものではありません。財源は一元化されますが、施設類型や保育指針の一元化、3歳未満児の保育に、法制度上の教育をいかに保障するか、また市町村との調整、事業主負担のあり方など、今後、引き続き検討を進めていく予定です。
幼稚園と保育所が持つ文化や歴史の違いを考慮して、改革を拙速に過ぎてはいけないという意見もあります。しかし、今日の子どもや親の生活の実態を見れば、改革は待ったなしです。子どもの今を、そして社会の未来を守るために、新システムの理念を実現すべく恒久財源を確保して、時代に即した新たな歴史を築いていくことが必要と考えます。
