2010年08月30日 (月)視点・論点 「女の円 男の縁」
東京経済大学教授 関沢英彦
今年の夏休みは、円高を利用して海外へ出かけた人々が増えました。ヨーロッパ旅行をしてきた女性は、円高で旅行費用が安くすんだので、ブランド品のバッグも買うことができた、と喜んでいます。円高で輸出産業は厳しい状況ですが、消費者、とくに女性たちは、円の強さをうまく活かしているようです。
消費の分野では、女性の存在感は大きいものがあります。独身女性はもとより、結婚している男女でも、財布のヒモは妻が全面的に握っているという家庭は6割以上と高いのです。夫が握っているという家庭は2割弱。あとは、夫婦平等ということですから、8割ほどの家庭では、女性の意見が多かれ少なかれ消費を決定します。
消費において大活躍の女性たちですが、労働の現場ではどうでしょうか。昨年、日本の女性労働力人口は、いままででもっとも多い2771万人となりました。日本の場合、25-29歳で働いている人の率と、45-49歳で働いている人の率が高く、まんなかの30代が低くなっています。アルファベットのMの字になるのでM字カーブと呼ばれますが、昨年は、その底の部分が過去最高で高くなり、M字がだいぶ台形に近くなってきました。
このように労働の現場でも存在感が高まっている女性ですが、働く形としては男性と違いがあります。企業などに雇われている女性の場合、正規の職員・従業員、いいかえれば正社員的な形とそれ以外がほぼ1対1の比率です。一方、男性では4.4対1。日本の場合、正社員で働いている女性が少ないのです。
正社員の比率が低いのですから、管理職になる人も少なくなります。管理職に占める女性の割合は、2008年段階で、アメリカとドイツが4割、イギリス、スウェーデンが3割です。これに対し日本は2009年で1割となっています。
男女雇用機会均等法ができて四半世紀。消費の場では、お金の円を上手に使っている女性たちですが、労働の場では、彼女たちの学歴や能力に見合った円を稼げてないようです。女はもっと経済の最前線に出てたくさんの円を手に入れましょうというのが、今日のテーマの前半です。
では、男性たちはどうなのか、ということになります。不景気の中、男性も、お金の円を欲しいことに変わりはありません。しかし、女性との対比でいえば、男性には、人とのご縁という時の、糸偏の縁が欠けています。
国民生活に関する世論調査によれば、自由時間の過ごし方として、知人・友人と過ごすという人は、女性4割に対して、男性2割。充実感を感じるときとして、友人や知人と会っているときと回答した女性が5割なのに対して、男性は3割でした。
誰かと群れていなくてもハッピーならば、それでもいいのですが、生活は楽しいと思っている人、幸福と答える人の率において、男性はつねに女性よりも10ポイント近く低いのです。
今年の6月から施行された改正育児・介護休業法の目玉の一つが男性の育児参加を進めること。6歳未満の子どもがいるわが国の家庭において、男性の家事や育児の時間は、週平均1日1時間。スウェーデン3時間21分、アメリカ3時間13分、フランス2時間30分、ドイツ3時間と比べると大変少ないのです。
男性は、友達とのつきあいにおいて、あるいは家庭内における子どもとのふれあいなどにおいて、もっと熱心になっていいのかもしれません。というのも、仕事上のつきあいがなくなった退職後、プライベートな人間関係が希薄ですと、退屈な毎日になってしまうからです。
女性は、経済にもっと参加すること。男性は、社会にもっと加わることが求められるのでしょう。
もっとも、最近では、新しい兆しも出てきています。まず、女性のほうですが、経営についての本が売れています。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という本が代表例でしょう。100万部を超えたそうですが、女性読者が半数近いとのこと。ライトノベルの雰囲気でもっとビジネスの面白さを学べる本を出そうと各社は張り切っています。
一方、大学進学においても、卒業後は、ビジネスで頑張りたいという女性が増えています。実利的な勉強をしたいというのです。とくに経営学部において女性の志願者が増えています。
バングラデシュのグラミン銀行をご存じでしょう。貧しい女性たちに少ないお金ですが何かを始められる事業資金を、安い利子で、担保無しで融資しています。女性たちに物理的な支援をするのではなく、経済的な自立を手助けして社会を変えていくところが新しいといえます。2006年にはノーベル平和賞を受賞しました。国の成熟段階は違っていても、日本でも、もっと女性が経済活動の中心を担うように、政策を進めることが必要だと思います。
男性においても変化の兆しが見られます。人としての縁を大切にしようという動きです。例えば、育児をする育メンはまだまだ少ないですが、社長、市長、区長といった地位にいる男性が育児休暇を取り始めました。自分の意思が通りやすいポジションにいる彼らが率先して育児休暇を取ることで、社会的にもう少し父親の育休への理解が進むでしょう。
最近では、祖父が孫育てに加わることも増えています。昔ながらの遊び方を教える、地域の遺跡に連れて行く、技術者だったので、博物館で理科の楽しさを教えるなど、さまざまな刺激を孫たちに与えているようです。
プロボノという言葉を聞くようになりました。ラテン語の公共的な善のためにというフレーズの一部をとって名付けたもので、自分の専門を活かして、ボランティアをすることです。
プロボノはもちろん、専門職の女性にも求められますが、仕事好きの男性がひとまず、社会の人々との関係をつなぎ直していく第一歩としては、ぴったりなものかも知れません。
お話ししてきたように、女性の労働力率は上がっていますが、経済の中枢にはまだまだ少数しか入っていません。もっと労働の場で女性が活躍し、彼女たちにお金が回れば、男性以上に消費をしてくれるという利点もあります。
男性については高齢化社会のなかでもっと地域とのつきあいをしていかないと、毎日毎日ひとり遊び、という可能性があります。
女性はもっと経済のまんなかへ
男性はもっと人間のまんなかへ
女の円 男の縁 がいま求められていると思います
投稿者:管理人 | 投稿時間:23:31
