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宮本勝浩「阪神日本一 経済効果と地域の活性化」

関西大学 名誉教授 宮本 勝浩

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Ⅰ.はじめに
私が経済効果の分析を始めたのは、2003年に阪神が星野監督のもとで、開幕から優勝街道を驀進して、18年ぶりの優勝が実現しそうになった時です。私の専門は「数理経済学」という数学や統計学を用いて経済を分析する学問分野で、ゼミの学生は難しい数学の授業に四苦八苦していました。それで、ゼミの学生に経済学に関心を持ってもらうために「今年阪神が優勝したらどれだけの経済効果をもたらすか、みんなで計算してみようか!」と提案すると、ゼミの全員が「やろう!やろう!」と賛成したので、ゼミの学生を連れて阪神百貨店のタイガースグッズ売場、甲子園球場周辺、尼崎商店街などに出かけました。そして、阪神ファンの人たちから買い物などについてのアンケートを取り、それに基づいて阪神優勝の経済効果を計算しました。その結果、マスコミから注目をしていただいて、その後いろいろな経済効果の計算の依頼が来て現在に至っているのです。
私の経済効果の分析の姿勢は、「社会が明るく楽しく元気になるようなイベント・出来事の経済効果」を分析するということです。

今年はスポーツ界で明るいニュースがたくさんありました。野球では、関西対決となった日本シリーズ、大谷選手の二度目のMVPの獲得、WBCの侍ジャパンの優勝などがありました。また、バレーボールやバスケットボールのオリンピック出場権の獲得、ラグビーワールドカップに出場するなど、たくさんの明るく胸がワクワクするような出来事がありました。今日は経済効果という視点でスポーツの地域経済への貢献についてお話しをします。

Ⅱ.経済効果とは
1. 経済効果の内容
「経済効果」とは、あるイベント・出来事に消費者、企業、政府・自治体が消費・投資した金額の合計のことです。

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そして、経済効果は「直接効果」、「一次波及効果」、「二次波及効果」の3つの効果を合計したもので、「産業連関表」を使って計算します。「直接効果」とは、例えば野球ファンが球場や百貨店で買い物をした金額のことで、「一次波及効果」とは買われた品物の原材料の売上額のことです。「二次波及効果」とは、直接効果、一次波及効果に関係した企業、店舗などに勤務する経営者、従業員の所得の増加による消費増加額のことです。時々誤解されるのですが、経済効果は「利益」ではありません。動いた金額の総額です。「利益」は、この経済効果から原材料費や人件費を差し引いた残りになります。

2. 経済効果の推計において大切なこと

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(1) イベントの主催者が自ら経済効果を推計するのではなく、忖度しない利害関係者ではない第三者機関に計算をまかせることです。
(2) 分析報告書をきちんと公表することです。
(3) イベントが終了した時に事後的な分析を行い、検証することが大切です。

Ⅲ.具体的な経済効果の例
1. 阪神とオリックスの優勝の経済効果

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こちらの表から、阪神もオリックスもファンの飲酒代が一番多いのが分かると思います。つまり、ファンは応援するチームが勝利すると、気分が高揚して、飲み屋やビアホールなどの外でも自宅でも飲酒量が増加するのです。二番目はやはり球場に応援に来てくれる観客の消費額です。チケット代、交通費、飲食費、グッズ代なども大きな消費額になっています。三番目は、百貨店などの「優勝祝賀セール」です。今年の阪神優勝の翌日には阪神百貨店には開店前から約2,000人が行列を作りました。オリックスの優勝が決まった時も近鉄百貨店がセールを行い、大阪では阪神百貨店と近鉄百貨店をはじめほとんどの百貨店でも9月の売上が対前年比で大幅なアップを記録しました。

阪神の経済効果がオリックスよりも大きいのは、阪神ファンが全国で約950万人、他方オリックスファンが約200万人と推定されているからです。また、阪神は18年ぶりの優勝で盛り上ったことも影響しています。特に、阪神ファンは非常にテンションが高くて、喜ぶときは財布のヒモが緩むのでしょうね。
これらの消費額を基にして「産業連関分析」で経済効果を計算したのが、優勝の経済効果で、阪神が関西地域で約872 億円、オリックスが約323億円となりました。

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こちらは過去18年間の代表的な優勝チームの経済効果の表です。今年の阪神の関西地域での経済効果約872億円は過去18年間では最高額です。やはり、ファンの多い人気チームである巨人と阪神が優勝した時は、他球団が優勝した時と比べて経済効果が大きいのがお分かりいただけるかと思います。

2.阪神日本一の経済効果
そして、日本シリーズの経済効果は、全国で約1,449億円、関西地域で約1,304億円と言う大きな金額になりました。これは、阪神とオリックスのシーズン、クライマックスシリーズ、そして日本シリーズの経済効果をすべて合計した金額です。

Ⅳ.経済効果による地域貢献
スポーツなどのイベントで大きな経済効果を生むことができれば、その地域が活性化します。例えば、市民マラソンはその代表でしょう。市民マラソンは運営費などがあまりかからず、しかも非常に大きな経済効果を与えてくれるスポーツの大会です。
2011年の第1回大阪マラソンの経済効果は約133億円もありましたが、経費は大阪市が1億円、大阪府も1億円、経済界や市民・府民の支援が約8億2,000万円の合計たった10億2,000万円を支出しただけでした。それが約13倍の133億円の経済効果をもたらしたのです。市民マラソンは、少ない費用で地域に大きな経済効果をもたらすだけではなく、開催地域の知名度をあげて、観光客などを増加させることにより地域の活性化に貢献しています。ただ、最近は経費の高騰などの課題も発生してきています。

スポーツは人々に「感動と生きる力」を与えてくれるだけではなく、地域に大きな経済効果をもたらしてくれます。
新型コロナの冬の時代が終わって、これからは各地域でスポーツをはじめいろいろなイベントが再開され地域が活性化されることを願っています。

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