NHK 解説委員室

これまでの解説記事

川内潤「誰にでもできる仕事と介護の両立とは」 

NPO法人となりのかいご 代表理事 川内 潤

s231113_012.jpg

NPO法人となりのかいごで代表を務めている川内潤と申します。
私の両親が介護職についていた事もあり、私自身も大学で社会福祉を学び、介護スタッフとして訪問入浴や認知症の方のデイサービス、老人ホームなど様々な経験をさせていただきました。大切な家族を懸命に介護した結果、つい怒鳴ってしまったり、時には手を挙げてしまう現実を目の当たりにしてきました。

懸命に取り組んだ結果、仕事を辞めるなど自分の仕事を犠牲にして介護をして、厳しい状況に陥ってしまう前に支援を届ける必要があると考えました。そこで2008年に「NPO法人となりのかいご」を設立し、様々な企業と顧問契約をして、そこで働く従業者に介護セミナーや個別の介護相談を行っています。
この取り組みを通して、私は年間700件の個人相談を行い、700通りの家族孝行を一緒に考え「誰もが最期まで家族と自然に過ごせる社会」の実現を目指しています。
今回お伝えしたいことは、「誰にでもできる仕事と介護の両立」についてです。

s231113_001.png

まずは、私たち日本社会が置かれている状況をお伝えします。2023年の介護の全体像です。1980年には7.4人で1人の高齢者を支えればよかったのですが、2020年には2.1人に1人になってしまっています。
世界でも類をみない速度で超高齢社会となったのが日本ですが、介護に対する意識がこの変化についていくことができていません。

s231113_002.png

当法人が、働く世代の介護についての意識調査を行なった結果、
「介護を自分の手で行うことは親孝行になる」
「親・義理・配偶者が認知症になったら自分や家族がそばにいるべきだ」と答えた方は
いずれも60%以上という結果が出ています。
自分の両親が祖父母の介護をしてきたように自分もその時がきたら同じように介護をするものと考えている方がほとんどだと思います。人口構成上、現実的ではないことが理解できるかと思います。

85歳以上になるとおおよそ6割の方が何らかの介護認定を受けています。介護が必要となる家族は、自分の親だけではなく、配偶者の親ということもあるでしょう。あまり知られてはいませんが、子どものいない叔父叔母の介護を突然自分に負わされる、そんなケースもあります。
働いている間に介護と全く無関係でいられる人はほとんどいない社会であることを知っておいてください。

s231113_003.png

ここからは「誰でもできる仕事と介護の両立」で、絶対にやってはいけないことが5つあります。
1つ目は「見守り・介護をきっかけとした同居」
一人暮らしで物忘れがあっても、親戚や本人が求めてきてもやめたほうがいいです。安心したいと思って同居して見守れば、親の老いを直視することになり、さらに不安になります。
2つ目は「日常的に家族が直接介護に関わる」
介護が必要な方の依存を引き出し、介護状態がより促進されてしまいます。介護サービスの拒否の原因にもなります。
3つ目は「テレワークを活用した仕事と介護の両立」
仕事中に何度も話しかけられたり、ウェブ会議にも度々乱入されたりするため、生産性が落ちるのは当然です。家族介護の中で一番大事にするべき良好な親子関係を維持することが難しくなる原因となります。
4つめは「育児と同様に、介護休暇・休職を利用して直接介護をする」
実は介護休暇・休職というのは、あくまでも「介護の体制づくりのため」に使うものとして設定されたものです。育児と混同して、直接の介護のために使ってしまいがちですが、いつまで続くかわからない介護が93日の休職期間で終えられる保証はありません。
5つ目は「きょうだいで分担しての介護費用負担」です。
お金をいくらかけたとしてもいい介護にはなりません。そして、初めは分担できていた金額が、10年後分担できなくなってきょうだい間でトラブルになる、ということもよくある話です。親の長生きが喜べるためにも、親の収入の範囲で介護体制を組み立てることが重要です。

そして「仕事と介護の基本的スタンス」としてお伝えしたいのが、仕事と介護を天びんにかけないということです。仕事を取ったら親不孝もの。介護を取ったら自分のキャリアを諦めるべき。多くの方が仕事と介護をこういった天びんにかけてしまいがちです。
私は年に700件ほどの介護相談を受けているのですが、仕事を辞めた方が良い介護となるケースは1件もありませんでした。

s231113_009.png

重要なことは「介護が必要になった方にとって、穏やかで継続性のある介護環境をつくること。」「良好な親子関係を良好に維持すること。」そのためには、みなさんが自分の生活を優先されているほうがうまくいくのです。
「介護をどれだけ頑張ったか。」「家族のためにどれだけ犠牲を払ったか。」
これを証明するのが介護の目標でよかったのか、今一度考えていただきたいのです。

s231113_010.png

家族介護の中で「効果的な関わり方」についてお伝えします。
「家族の介護を受け入れる心構え」と「相談先を確保すること」「介護の全体像を把握すること」これに限ります。

s231113_011.png

逆に、非効果的関わり方を多くの方が介護と理解しています。
「歩行・入浴・排せつなどの介護方法」「認知症を進行させない声がけ」「介護保険制度を詳細に調べる」が上げられます。例えば歩行介助というのは、本当に難しく私も習得に1年半くらいかかるものでした。

効果的な関わり方をお勧めする理由として、
「事前準備が可能」「短時間で済むため、仕事と両立が可能」であること、そして何よりも「優しくできる余裕が持てる」ということ。
家族の間柄の中で優しく接するには気持ちに余裕が必要不可欠です。

非効果的な関わり方の理由として、
「習得に時間と労力がかかる」「事前準備が困難である」「変化に弱い体制となる」
もっとも重要なのは、「家族だからこそ強いメンタル負担がかかる」これは、我々のような知識、経験、技術のある介護職であっても、自分の家族介護には直接関わってはならない、と言われている理由でもあります。
効率的な関わり方に徹することで、だれでも仕事と介護が両立できるのです。

仕事と介護の両立において不可欠なのは、「とにかく早い段階で相談する」ということ。一生懸命やってきた介護に限界を感じてから相談するのでは遅いのです。まだ介護が始まる前、親が元気なうちからぜひ相談してください。
相談先として覚えていただきたいのが、地域包括支援センターです。
人口3万人に1つ、都市部であれば中学校の区画に一つ設置されており、地域の高齢者のよろず相談所となっています。まず親御さんがお住まいの所在で地域包括しセンターを検索し、10分でもいいので、心配する家族であるあなたが電話相談からはじめてください。
働く家族がするべき介護とは、「介護よりも愛情」を大事にすることです。介護と愛情を切り離していいのです。だからこそ、プロに頼って任せて欲しいと願っています。

愛情表現ができる余裕を持つこと、そのためには早めの相談が必要不可欠なのです。

こちらもオススメ!