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福本智之「中国経済の先行きは」

大阪経済大学 教授 福本 智之

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中国経済の先行きへの懸念が強まっています。中国経済は改革開放政策が始まった1978年以降2010年代初頭まで平均二桁の成長を続け、世界の工場として、世界経済における存在感を高めてきました。その後、成長は緩やかに減速し始めましたが、それでも6~7%という高めの成長を維持していました。2021年時点で、経済規模は世界経済の18%を占め、いずれ、米国を抜いて世界第一位となることも有力視されてきました。

ところが、2022年の成長率は、感染力の強いオミクロン株に対してもゼロコロナの方針を続け、上海の都市封鎖など行動規制が強化されたため、3%と大きく減速しました。今年は、経済活動の再開に舵を切ったためV字回復との予想もありましたが、実際の回復の足取りは弱く、「日本化」、つまり、不動産バブル崩壊とその後の低成長、デフレを経験した日本のようになるのではないかとの懸念の声も聞かれます。一体、中国経済はどこへ向かうのでしょうか。

中国経済の「日本化」が懸念されているのは、主として次の点がバブル崩壊後の日本に似ているからです。
一つは、不動産不況が長期化、深刻化していることです。習近平政権は、「住宅は住むためのもので投機のためのものではない」との方針の下、2020年後半から不動産業者の債務を抑制する規制に乗り出しました。

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これに伴い、不動産市場は低迷しています。不動産販売面積、不動産開発投資いずれも前年割れが続いています。販売不振に伴い、大手デベロッパーの恒大集団や碧桂園の経営危機が表面化するなど、デベロッパーの経営は総じて厳しくなっています。

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もう一つは、物価の弱さです。消費者物価指数前年比は低下を続け、7月はついに前年割れとなりました。9月も前年比0%と低いレベルにとどまっています。

物価の弱さの背景には、間違いなく需要不足があります。特に、将来の所得に対する期待の低下と保有する住宅価格の下落によって家計が消費に対して慎重になり、お金を貯めこんでいます。

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個人預金の年間増加額は、2019年から2021年までは10兆元程度、日本円にして約200兆円でしたが、2022年は大都市の都市封鎖等行動制限が強化されたため、18兆元となりました。今年は、ゼロコロナ政策が撤廃されたため、ためこまれていた貯蓄が取り崩されると期待されていましたが、年初から9月までの個人預金の増加額は14兆元と昨年を上回るペースで増えています。

このように、一部の現象だけみれば、不動産バブル崩壊が金融不安を招き、その後緩やかなデフレが続いた90年代以降の日本を彷彿させるものがあります。もっとも、私は、政府の適切な政策対応が打たれれば、中国経済は、緩やかに減速しつつも、相応の高さの成長を維持し、「日本化」といった状況にはならないだろうとみています。それは、次の2つの理由によるものです。

第一に、中国経済の発展段階は90年代の日本と比べれば、まだ「若い」段階にあるということです。

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経済発展を考えるときに、先進国へのキャッチアップの余地が重要になりますが、中国の一人当りGDPは1.2万ドルと米国の約6分の1に相当します。日本の一人当りGDPが米国の6分の1だったのは1960年でした。つまり、経済の伸び代が大きいということです。

また、都市化の余地も大きいです。中国の都市人口比率は65%で、これは日本でいえば1962年の頃に相当します。日本では、農村部から都市部への人口移動が当時の日本の高度成長を支えましたが、同様のことが中国ではまだ期待できます。

一方、中国の場合、既に生産年齢人口のピークを2015年に迎え、その後8年が経ちました。日本の場合、生産年齢人口のピークは1995年ですので、これは既に日本が低成長になった2003年時点に相当し、この点は成長にマイナスです。もっとも、それを割り引いても、全体としてみれば、日本の1970年代後半から1980年前後の発展段階にあると言ってよいと思います。

第二に、中国政府のコントロール能力が強いことです。例えば、不動産市場に対して、中国は、政府が公有である土地の売却を抑制することで不動産の供給を抑えることができます。また、国有の銀行や不良資産買取り会社、不動産デベロッパーを有しているため、いざとなればこれらを活用して不動産会社の救済・再編を行うこともできます。

もっとも、懸念されるのは、中国政府の政策対応が鈍いことです。現在の景気の弱さについては中国政府も認めていますが、政策対応は小出しで、不十分と言わざるを得ません。金融政策については、中央銀行が政策金利を今年2度にわたり引き下げました。7月には、消費や民営経済の拡大の政府方針も発表しました。ただし、家計や企業のマインドが弱い状況では、これらの効き目は限定的だとみられます。私は、こうした時こそはっきりとした財政拡張が必要だと考えていますが、中国政府は、慎重なスタンスを変えていません。

不動産市場への対応も、問題先送りの姿勢が目立ちます。不動産市場の回復のため政府がこれまで打ってきた対応策は、住宅ローン金利の引下げや住宅ローンの最低頭金比率の引下げ、一部都市での2軒目以降の住宅購入制限の緩和・撤廃などです。

しかし、余り効いていません。それは、人々が、不動産デベロッパーの経営に不安を持っているからです。中国では住宅販売の9割が予約販売です。販売代金を支払っても、住宅の引き渡しは2年以上後になります。もしこの間に、デベロッパーが経営破綻すれば、住宅購入者は引き渡しを受けられなくなります。実際、デベロッパーの資金繰りが悪化して、建設工事が中断している物件も多いです。

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国際機関である国際通貨基金は、デベロッパーの3割近くが実質的に債務超過だと推計しています。デベロッパーの経営に不安がある以上、人々が住宅購入を躊躇するのも無理はありません。

私は、中国の不動産市場を安定化させるためには、需要喚起策だけでなく、供給側への抜本対応が必要だと考えます。建設が滞っている住宅の建設・引き渡しを加速させ、購入者を安心させること、経営難のデベロッパーの経営改善と業界再編の両方が必要で、いずれも政府の関与と資金支援が不可欠です。

しかし、政府は、経営難の大手デベロッパーの債務の返済を実質的に猶予させるかたちで問題を先送りしています。政府が、問題を先送りしている背景には、問題を過少評価している可能性や救済によって引き起こされるモラルハザードへの懸念があると考えています。この点は、1990年代の日本の状況に似ています。

ごく足もとは、製造業の在庫調整が一巡したことで、景況感が幾分持ち直しているため、今年は政府の目標である5%成長を達成するとみています。

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しかし、不動産市場の調整や消費の弱さが長引くようであれば、来年は4%台前半まで減速してもおかしくありませんし、その先も想定以上に減速ペースが速くなる可能性があります。国際通貨基金も中国の経済成長に関する中期見通しを過去2年間で大幅に下方修正しました。

中国経済は、いま、今後の中長期の成長の行方を左右する重大な時期に差し掛かっていると考えています。中国政府がどんな政策対応を行っていくのか、注目したいと思います。

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