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斎藤紋衣子「日本の支援で動き出した途上国のプラスチック汚染対策 カンボジアからの報告」

国連開発計画 環境政策専門官 斎藤 紋衣子

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今や、海洋プラスチック汚染は、全世界の海洋生態系を脅かす地球環境問題です。そればかりか、私たちの健康をも脅かす深刻な問題になっています。
2019年6月に開催されたG20大阪サミットで、日本のリーダーシップの元で、「大阪ブルー・オーシャンビジョン」(2050年までに 海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロとすることを目指す)が合意され、世界規模でのプラスチック対策支援が大きく動き出しました。

日本政府は、その実現に向け、カンボジアを含むASEAN諸国などでの海洋プラごみ対策に積極的な支援を行ってきました。特に海洋プラスチックごみのおよそ7割が、中国や、東南アジアの途上国が発生源といわれ、「これらの国々での汚染対策が本当に進むのか」、大きな関心が寄せられています。

きょうはカンボジアで活動する国連開発計画の環境政策専門官の視点から、お伝えしたいと思います。
東南アジアの途上国のカンボジアでは、近年、急激な経済成長、人口増加に伴い、ごみの量が急増しています。増え続けるプラごみの量を大幅に削減するとともに、適切にリサイクルする、循環型社会を実現することが急務となっています。

では、日本の資金援助により、大きく動き出したというカンボジアでのプラスチック汚染対策。どのような対策が行われ、どのような成果をだしているのか、ご紹介したいと思います。
カンボジアでは、2021年1月から3年近く、国連開発計画とカンボジア環境省が共同で「海洋プラごみ削減プロジェクト」を実施してきました。

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本プロジェクトは、海洋プラスチック汚染を防ぐために、循環型社会への移行を掲げ、主に 4つの分野, 1.政策、2.国民や企業の意識改革、3.循環型ビジネスの推進、4.主要都市のごみ処理能力の向上、において、積極的な支援を行なってきました。

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一番目の政策に関して、まず、新しい規制として、使い捨てプラスチックの制限やプラスチック代替品、リサイクル産業の振興を図るための法律の原案を作成しました。
また、生産者が、製品の生産から廃棄・リサイクル段階までのすべての工程に責任を負う「拡大生産者責任制度」というカンボジアにとっては新しい制度の導入も検討しています。

二番目のプラスチック対策を効果的に実施するための意識改革ですが、具体的には、啓もうビデオを300ほど作成、ソーシャルメディアを通じてこれまで合計200万人以上の幅広い世代に対し、戦略的にメッセージを発信してきました。

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例えば、シニア世代に影響力のあるお坊さんや、国民に人気のある王女様によるプラごみ削減を呼びかけるビデオ、若い世代向けに、プラスチックモンスターのアニメーションや人形劇を作成し、随時発信してきました。3年前と比べ、国民の意識は大きく変わり、首都の大手スーパーでのプラスチック製のレジ袋の使用は50%ほど減少しています。

三番目の循環型ビジネス支援に関しては、まずプラスチック製品を使わないことで、プラごみの排出量を減らすことが汚染削減の最優先の事項であり、そのためには代替品の開発が重要です。
代替品、具体的にはバナナの繊維を使用した包装品開発などに支援をしました。

更に、排出されたプラごみに関しては、適切な方法でリサイクルすることが必須です。
今後の課題として、「リサイクル事業拡大のためには、新しい技術や投資が必要であること」などを明らかにしました。

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更に、日系企業による新しいリサイクルビジネス事業に支援を行いました。それは、再生プラごみを利用した、アスファルト製造の実用化に向けたパイロット事業です。

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第四番目の主要都市のプラごみ削減の能力向上のために、各地域で大々的にプラスチック削減キャンペーンを実施し、更に 海の近くにある水路には、プラごみの海への流出を防ぐため、ごみ箱やネットを設置しました。

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また、プラスチック汚染が深刻な海辺にある、シアヌークビル市では、社会的な問題解決を目指す現地のビジネス事業への支援を行いました。この取り組みを通じ、現在まで、およそ450人の女性を含む現地の住民が新しい収入源を得ると共に、3000トンあまりのプラごみがリサイクルのために回収されています。

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更に、全国のおよそ100の小中学校に浄水された水道水を提供することで、1年間に30トン分のPETボトルの使用の削減と、全国の10万人以上の子供達に安全な水を提供することを実現しています。

当プロジェクトは、およそ合計3500トン余りのプラごみの削減、回収、リサイクルに成功し、今後の汚染対策の根幹となる法案の作成、啓蒙活動、循環型ビジネスモデルの構築など、大変意義のある成果を出しています。量としてはプラごみの国内全排出量のまだ1%以下ですが、ゼロからのスタートと考えますと、確かな一歩を踏み出したと思います。
このプロジェクトを機に、環境省はプラごみ対策を最重要課題と位置付け、美しいカンボジアを守るために「今日はプラスチック袋を使いません!」というキャンペーンを、9月より全国3万の小中学校の生徒を対象に開始しました。
このように、途上国における日本支援は非常に重要な役割を担い、目に見える形で成果を上げ始めており、日本に感謝される機会が数多くあります。
一方で、世界では、ますますプラごみ対策の緊急性が増しており、新しい動きが出ています。
2022年3月ケニアで開かれた国連環境総会で、プラスチック汚染を終わらせるための、法的拘束力のある国際条約を策定することを目指す歴史的な決議が採択されました。
国際条約の原案は、「持続可能な生産と消費の促進」、「環境上適正な廃棄物管理」、「国別行動計画の策定・実施」が含まれており、現在、日本を含めて、173の国々が締結に向けて交渉しています。
今後の課題は、まず、173の国々が来年の2024年末までに“解決に必要なレベル”、かつ、“実施可能な”対策に合意できるかどうかです。
更にプラスチック汚染の問題を本当に解決できるのかどうか。その鍵となるのは、主な発生源であるアジア諸国による、国際条約に沿った、国別行動計画の効果的な実施です。
私たち、国連開発計画は、アジア太平洋諸国はもちろんのこと、全世界での循環型社会の実現を目指し、プラスチック汚染問題の解決に必要となる政策、意識改革、ビジネス開発、能力向上に、今後も積極的な支援を継続していきます。

日本政府にも、カンボジアでの実績をもとに、地球環境を守ために、プラスチック汚染問題が解決するまで、引き続き強いリーダーシップを発揮し、主導的な役割を果たしてほしいと思います。

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