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大空幸星「なぜ減らない 子どもの自殺」

NPO法人 あなたのいばしょ 理事長 大空 幸星

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 警察庁の調べによると、2022年の子どもの自殺者数は514人で過去最多を記録しました。自殺者数だけではありません。私が理事長を務める、NPO法人「あなたのいばしょ」が運営するチャット相談窓口に寄せられる相談は増加の一途をたどっています。2020年に窓口を開設して以来、約3年間で70万件を超え、現在は1日1000件以上の相談が寄せられます。相談者の約7割が29歳以下の若年層です。相談の多くは「自ら命を絶ちたい」という内容です。
きょうは、「減らない、子どもの自殺」について考えます。

子どもの自殺を取り巻く環境はこの20年間、厳しさを増しています。全年代の年間自殺者数は2003年の3万4000人余りをピークに減少し、昨年は2万2000人近くで1万人以上減っています。しかしこの間、こどもの自殺者数は減ることはありませんでした。全体の自殺者数がピークとなった2003年の小・中・高生の自殺者数は318人ですが、昨年には514人と過去最多を記録しています。

少子化により出生数が減少し続けているにもかかわらず、なぜ子どもの自殺が増えているのでしょうか。

原因の1つに「子どもの目線」に立った政策や支援が展開されていないという問題があるのではないでしょうか。例えば、子どもの自殺を防ぐための相談窓口はいまだに電話相談が中心ですが、現在の子どもたちはほとんど電話を使用しません。
総務省の調査によると、13歳〜19歳の平日1日の平均利用時間として携帯電話6.3分、固定電話0.2分であるのに対し、SNSは64.2分でした。このように、友人との会話などの日常生活においても電話ではなくSNSを使用する現代の子どもたちが、深刻な悩みを電話で、しかも見知らぬ相手に打ち明けるのは非常に困難と言えます。

さらに「子どもの自殺=いじめ」という固定観念が、子どもの自殺の実態を正確に把握する障壁となっている可能性もあります。2011年の大津市中2いじめ自殺事件など、加害者の存在がある「いじめ」が原因・動機と推察されるこどもの自殺はメディア等においてセンセーショナルに報道されやすい現状があります しかし、いじめを原因・動機とする子どもの自殺は極めて少ないのが実態です。2022年の19歳以下の自殺者数の原因・動機の上位10項目に「いじめ」は入っていません。最も多かったのは「学業不振」の104人でした。一方で「いじめ」は9人で、「失恋」の47人よりも少ない数字です。自殺というのは、多様かつ複合的な原因及び背景があり、さらにそれが連鎖する中で起きているため原因を1つに特定することは困難です。
いじめ以外が子どもの自殺の原因・動機のほとんどを占めるにも関わらず「子どもの自殺=いじめ」という固定観念があることによって、他の原因・動機 への対応や原因究明が進んでいないという課題があります。子どもの自殺が、いじめにより生じた疑いがある場合は、いじめ防止対策推進法に基づいて、事実関係と再発防止のための調査が学校や教育委員会に義務づけられています。いじめが原因・動機ではない場合も、文科省は各教育委員会や学校に調査を求めていますが、これは義務ではありません。
本来であれば、原因・動機に関わらず、すべての子どもの自殺において調査が行われるべきですが、社会的関心がエビデンスではなく、いじめ自殺に関するセンセーショナルな報道に集まり、子どもの自殺としては他の原因と比べてそれほど多くない「いじめ」のみが調査義務の対象となるという、チグハグな状況が生まれてしまったと言えます。

子どもの自殺を防ぐための受け皿はどのような現状でしょうか。スクールカウンセラーの配置箇所は、今や3万箇所を超えています。しかし何度もお伝えしているように、この間も子どもの自殺は増加の一途を辿っています。学校現場における相談支援体制は確実に拡充されていますが、残念ながら悩みを抱える子どもの多くがそれらを利用するに至っていません。相談窓口では「スクールカウンセラーに行っているところを友人に見られるのが恥ずかしい」「自分が悪いのに頼れない」といった言葉が多く聞かれます。頼ることがはずかしい、相談することが負けといった、いわゆるスティグマ、すなわち「ためらい」は、悩みや失敗は自業自得とする懲罰的な自己責任社会の中で生まれた新たな価値観と言えます。そしてその価値観が家庭、子どもにまで蔓延している事により、相談できる場所を増やしても、残念ながらそこに辿りつく事に困難が生じてしまっています。

ではこの風潮をどのように変えていけば良いのでしょうか。ひとつの方法として悩みを抱えることや相談するという行為を普遍的価値観へと広げていくことが考えられます。冒頭紹介したように「あなたのいばしょチャット相談窓口」にはこれまで70万件以上の相談が寄せられてきました。相談内容は虐待、生活困窮、人間関係の悩みといった問題から、ペットロスまで多岐に渡ります。しかしその中から共通項を見出す事もできます。
それは「望まない孤独」です。望まない孤独とは、頼りたくても頼れない、話したくても話せないといった状態のことを指します。

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この望まない孤独とは英語でのLonelinessを指し、自ら望んでひとりでいる状態を指すSolitude、すなわち孤高とは区別されます。また孤独と相互互換的に使われることの多い、社会的孤立とも違います。孤独は主観的概念であり、社会的孤立は客観的概念です。社会的に孤立していれば孤独を感じる可能性は高まりますが、孤立していて孤独を感じない人もいます。一方で社会的に孤立していなくても孤独を感じる人もいます。学校や家庭の中で周囲から見ると良好な人間関係を築いている子どもであっても孤独を感じることがあるのです。この望まない孤独は人生のどこかのタイミングで多くの人が感じる可能性があると言われており、個人の問題ではなく、社会全体の問題であると言えます。
国も2021年に孤独・孤立対策担当大臣を設置したほか、2023年5月には孤独・孤立対策推進法が成立するなど、積極的に対策に乗り出しています。これまでの社会福祉政策では問題を抱える属性ごとに対策を講じてきた側面があります。しかし、望まない孤独は多くの人に共通する問題です。どれだけ科学技術が発展しても、人間は悩みを抱える生き物です。重要なのは悩みを抱えた時、孤独を感じる期間が長期化する前に、誰もが気軽に誰かと繋がれる環境を構築することです。同時に誰もが社会的つながりを強制されることなく、自分の好きな時に他者との繋がりを実感できる必要があります。地域の中において多様な「ゆるい繋がり」を構築するということが重要です。ゆるい繋がりをつくるためには、繋がりに多様性をもたらす必要があります。残念ながら現状では子どもや若者がつながりにアクセスしづらい環境があります。

夏休み明けは子どもの自殺が増加すると言われています。悩みを抱え苦しむのは自分が悪いからではない、決してひとりではないというメッセージを積極的に発信していくと同時にSNSやチャットを用いた繋がりを増やすなど、繋がりの多様化を進めていくことが大切です。

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