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秋田喜代美「こども誰でも通園制度」

学習院大学 教授 秋田 喜代美

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「こども誰でも通園制度」は、本年令和5年6月13日に「こども未来戦略方針」において閣議決定したこどもに関わる新たな制度となります。この制度には次のような特徴があります。

まず第1に、対象となるこどもと家庭についての特徴です。現行のこどものための教育・保育制度給付は、基本フルタイム就労やパートタイムでの一定の就労時間以上等の保育の必要性を市町村が認定することが必要です。
これに対して、今回の通園給付対象は、親の就労要件を問わない、専業主婦(夫)等や育休中の在宅子育てをするご家庭等も対象となっています。つまり、親の就労ではなく、こどもは誰でも園に通うことができるという、名称通り「こども誰でも通園」の制度となります。実際には0-2歳のこどもが対象です。これは、これまで保育所等に通園していたこどもや子育て家庭には公的な支援が提供されたのに対し、未就園でのご家庭等への公的な支援もより手厚くされるようになっていく施策と位置付けられます。
 第2には、これは補助金事業ではなく、新たな通園給付という給付の形である点です。これは、現行の幼児教育・保育給付とは違う、新たな通園給付となります。つまり、国や地方自治体の政策目標に合わせ予算上限等により決まる補助金事業ではありません。国や地方自治体が財源を確保し、要件を満たした者が申請を行えば、必ず受けることができる安定した持続的給付制度ができることを意味します。これによって全国的な提供体制をとることができます。
具体的な制度の特徴は、第3に、こども1人につき、月一定時間までの利用可能枠の中で、時間単位等で柔軟に通園が可能な仕組みであることです。この時間数や定期利用か自由利用かによっても変わってきます。時間単位利用ですから、これまで「保育・幼児教育」での通常の保育とは違うものとなります。
なお、この月一定時間とは具体的に何時間であるのかは、国の予算が関係してきます。これから年末までの予算折衝の中で額が決まっていく予定と聞いています。
また第4に、保育所・認定こども園、地域型保育事業所、幼稚園、地域こそだて支援拠点などの幅広い事業者の取組を想定している点が特徴です。具体的に幅広い事業者としてどのような要件を備えた事業者が実施可能とするのか、「こども誰でも通園」で園に来るこどもを誰がその保育を担当するのか、保育士有資格や決められた研修を受けた人等誰が担当するのかなどの詳細の設計は、この秋から検討会議が設置され検討予定となっています。これまでの通常保育と今回の新たな通園制度との関係が、事業を行う園では今後時間数等によって、どのように実施体制を組むのかが大きく変わってくる重要論点と考えられます。

 この制度の特徴や意義に関して、私個人は現在の所、次のように考えています。

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これは、こどもの育ちと子育てをするご家庭支援の両面の意義を持つ制度です。まずこどもにとって、現在ご家庭がこどもが育つための社会文化的資源が十分にある場所になっているとは限りません。経済的に困難なご家庭も増えており、こどもが遊ぶのに十分なものがご家庭に整っているとは必ずしも限りません。こどもが地域の園に通園することで、絵本やおもちゃ、素材、自然などの豊かな環境にふれたり、同年齢異年齢のこどもたちと相互にかかわることができます。孤立した家庭での密室育児の場とは異なる環境に出会うことができる機会になります。兄弟姉妹等の数も減っている中でこどもが人生初期からこども同士がふれあい共に育つ経験の場にもなります。ただし今回の対象は0歳から2歳という保育の中でも生命に直結しやすい事故が起こりやすい年齢です。通常の保育とは異なり、こどもや家庭のことを日頃からよくわかっているわけではない場合を考えますと、メリットだけではなく、こどもの安全のためのリスク管理をどのようにしていくのかなどの検討が必須の内容となります。
また親の側にとっては、子育て支援として、ワンオペ育児で孤立して子育てに悩む保護者が、限られた時間でも「レスパイト機能」、つまり一時的にリフレッシュできることの支援になります。また子育てに不安をもつ親にとって相談や親子での遊びや関わり方について、専門家である保育者の姿や環境から学ぶことができます。親が親として学び育つことができる機会の提供にもつながります。その意味でこどもの育ちである子育ちと親育ちの共育ちの機会の提供になります。
この意味で保育の一時預かり事業とはまったく違うものです。一時預かりは、一時的に家庭で子供の保育が困難になった場合に、保育所やその他の場所で一時的に短時間、こどもを預かるもの、保護者の都合で園に預けるという目的とはもともとの主旨と性質の異なるものです。
ただし一方で、園などの事業を行う立場からみれば、現在行っている保育と異なる事業を誰がどのような規模でいつどこのスペースで行うのかは大きな問題になります。また親にとっても利用可能な時間と共に、定期的に特定の園を利用するのか、自由に親が都度その利用施設や利用時間も選べるのかなどによってもこの制度の受け止め方も意義も大きく異なると考えられます。
こどもまんなか社会の実現のためにすべてのこどもにとって園をはじめ地域でこどもが健やかに育つ子育ち子育てネットワークができることを可能とする一つの制度となりうるものと言えます。
 今後秋からの議論で、この制度の具体像が鮮明になると考えられます。ただし今すでにモデル事業が全国の31自治体50施設で実施あるいは実施予定とされています。これは令和5年度事業としては「保育所の空き定員等を活用した未就園の定期的な預かりモデル事業」として本年は立ちあがっていたモデル事業です。この事業結果をもとにしながら、今後こども誰でも通園制度の設計にむけて検討がなされる予定です。ただし、「こども誰でも通園制度」は「保育所の空き定員の活用」とは事業の主旨や目的は全く異なっていますし、園等に空き定員があるかは問題にしない予定と担当者からは伺っています。
本制度は、今後詳細に検討すべき論点は数多くあると考えます。こども未来戦略方針の加速化プランは2024年度からの3年間を集中取組期間とし、さらに実施に時間を必要とするものを含め、今後5年間の計画で進んでいきます。2024年度からの制度の本格実施にむけての集中的かつ詳細な検討が必要になります。「こども誰でも通園制度」が、親が預けるという発想から、こどもも保護者も子育てに関わる全ての人が、共に地域で育ちあう場を園や地域子育て拠点などを中心に地域に生み出す、こどもまんなか社会の実現に資する制度となることを期待したいと思います。

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