NHK 解説委員室

これまでの解説記事

光原ゆき「病気の子どもや家族に必要な支援」

NPO法人 キープ・ママ・スマイリング 理事長 光原 ゆき

s230821_015.jpg

私たちは入院中の子どもに付き添う親の支援を行っています。活動の柱は食事の支援と生活物資の提供です。一般にはあまり知られていないことですが、子どもが入院すると、病気の種類や重症度、入院期間にかかわらず、大半の家族は病院から子どもに付き添うことを求められます。そして、病室のほか、ホテルや家族のための滞在施設などに泊まり込んで看病することになります。私たちはこうした生活環境を含め、入院中の子どもに付き添う家族の実態を明らかにするために昨年11月から12月にかけてインターネットによる大規模アンケート調査を実施しました。本日はその調査結果を中心に子どもの入院に付き添う家族の現状と課題についてお話しいたします。

子どもに付き添うのは主に母親で、小児病棟で過ごす生活環境は劣悪と言わざるを得ません。例えば、家族は病人ではないため、多くの病院では食事が提供されません。
私たちの調査結果では、病室に泊まり込んで付き添っている人の7割は1日3食を食べられていたものの、6割強の人は院内の売店で食事を調達していたため、おにぎり、菓子パン、カップ麺しか食べていない人も相当数いました。また、3食のうち1食は子どもの病院食の残りを食べて節約する人も多く、なかには3食とも子どもの食べ残しで済ませ、足りないときにコンビニのパンやカップ麺を食べている人もいました。
1日に1食または2食しか食べられなかった人にその理由を尋ねると「食べる時間がなかった」が6割強と最も多く、食事の時間もとれないほど、子どもの世話やケアに追われている実態も浮き彫りになりました。

s230821_017.png

睡眠に関しては、病室に泊まり込んで付き添っている人のうち、約半数は子どもと同じベッドに寝ていました。
添い寝や寝かしつけが必要な乳幼児ではこの割合が高くなる一方、簡易ベッドや布団のレンタル料を節約するために子どもと同じベッドで寝ている人も少なくありませんでした。
また、夜間に子どもの世話や看護をすることがあった人が9割を超える中、熟睡できなかった人は8割以上いました。
四六時中、子どもの世話をして、食べられない、眠れないといった付き添い生活が長引くと体調を崩す人が出てきます。
前出の調査では付き添い者の2人に1人が体調を崩した経験があり、かつ体調が思わしくないのに付き添い入院や面会を続けていた人も5割強いました。抑うつ状態になる人も少なくなく、カウンセリングを受けているケースも目立ちました。
さらに、自宅と病院との二重生活になるうえに働くこともできなくなるため、経済的な不安を感じている人が7割を占めました。年単位の付き添いになると有給休暇を使い果たして、退職に追い込まれる人もいました。
この大規模調査により親の付き添いの大変さが明らかになると、当事者や医療関係者を含め、ネット上では「小児の付き添いを禁止したほうがよい」という声も高まってきています。しかし、おとなの付き添いとは異なり、病気の子どもの観点からみると、親に付き添ってもらうことは「子どもの権利」とされています。

s230821_018.png

病院のこどもヨーロッパ協会、EACHでは1988年に「病院のこども憲章」を合意し、「病院にいる子どもたちは、親または親の代わりになる人にいつでも付き添ってもらえる権利を有する」ということを定めています。この考え方は日本の小児医療においても同じです。
私たちも親が付き添うことは病気の子どもの早い回復、そして成長・発達の過程においてとても重要なことであると認識しており、入院中の子どもがいつでも親と一緒に過ごすことのできる入院環境が保障されるべきであると考えています。しかしながら、先にも紹介したように小児病棟における付き添い環境は劣悪で、その生活は身体的にも精神的にも経済的にも過酷を極めています。この大きな原因は、現行制度では禁じられている「看護要員の代替または看護力を補充するような状況」が常態化していることにあると捉えています。
前出の調査において付き添い中に親が行っていた世話やケアを調べてみると看護補助者の業務、具体的にいうと食事、清潔、排泄、入浴、移動といった療養上の世話が多く含まれており、それに費やした時間を尋ねると1日6時間以上と答えた人が8割を占めていました。

s230821_019.png

さらに制度上、付き添いは任意とされているのに、親に選択権はなく、希望する・しない以前に付き添いが必須だったと答えた人が7割に上り、親の人権と尊厳がまったく守られていないこともわかりました。
そもそも親が安心して付き添える環境に置かれていないことは、病気の子どもの権利を侵害していることに直結します。「病院のこども憲章」では、親に宿泊設備が提供されることや付き添いのために経済的損失を被るべきではないことなどが明記されており、欧米では親が安心して付き添える環境が医療機関はもとより社会的に整備されています。
この視点が日本社会に欠けていることが問題で、医療者・医療機関のみならず、社会全体で共有・認識し、親が安心して付き添える環境や制度を社会的に整備していくことが重要です。そして親の人権と尊厳を守るうえでも看護要員の代わりに子どもの世話をする「労力提供型の付き添い」から親を解放することに向け、看護師不足の解消をはじめ、混合病棟の廃止、小児病床の集約化など小児医療体制を抜本的に見直していくことも不可欠です。いくつもの看護研究により小児のケアは成人よりも手間が何倍もかかることが明らかになっています。にもかかわらず、国から医療機関に支払われる報酬は成人と同額です。経営的に厳しい状況に置かれている小児医療の現状を変えないかぎり「労力提供型の付き添い」をなくすことは難しいでしょう。医療機関の努力だけではどうしようもできない現実があるのです。
そこで私たちは、2023年6月1日、こども家庭庁と厚生労働省の各大臣連名宛てに、付き添い環境の改善を求める根拠となる調査報告書を添えて要望書を提出しました。翌2日にはこども政策担当大臣が会見の場において「病気の子どもや家族が安心して入院生活を送ることのできる環境整備は重要な課題である」との考えを示し、厚生労働省と連携して今年度中に医療機関を対象とした実態調査を行ったうえで必要な対応を検討することを表明しました。欧州に遅れること35年、日本でもようやく親が安心して付き添える環境整備の第一歩を踏み出すことができたのです。今後は「親のケア参加」についてきちんと定義づけし、「親に期待されるケア」と「看護要員がやるべきケア」、この線引きをしっかり行い、子どもの病状や回復状況に応じてケアを分担していくような仕組みを作っていくことも大変重要であると考えています。
一連の報道を受け、私たちのもとには付き添い経験者からたくさんの声が届いています。その中にこんな声がありましたので、最後にご紹介します。

s230821_020.png

「病気の子どもたちの心の支えは家族です。さまざまな事情で親に付き添ってもらえない子どもは寂しさに耐え、つらくてご飯を食べられなくなることもあります。家族を支えることは子どもたちを支えることにほかなりません」。
私たちは新たな出発に際し、このことを深く心に刻み、きょうだい児を含む子どもたちの声にも耳を傾けながら、小児の付き添いについて捉え直すことを社会に働きかけつつ、親子が安心して過ごせる入院環境を整えていくことにこれからも注力していきたいと思っています。

こちらもオススメ!