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大元鈴子「地域から創るローカル認証」

鳥取大学 准教授 大元 鈴子

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私たちの食べ物の供給は、資源の枯渇、新型コロナウイルス、戦争などの影響で、以前よりずっと不安定になっています。また、気候変動による食生産への影響も顕著化しています。
これからは、無責任に食べ物の生産を生産者に丸投げするのではなく、生産者と生産地の課題解決に、私たち消費者を含めた流通全体で取り組む必要があります。
今日は、「生産地域から創る流通の仕組み」である「ローカル認証」についてお話します。

(認証とは?ローカル認証とは?)
商品に表示されるエコラベルを気にして買い物される方もずいぶんと増えました。エコラベルを商品に表示するための審査の仕組みを「認証」と言います。
現在の食の流通では、国内で生産されるものでさえ、どこで誰がどのようにつくったものか見えにくくなっています。わかりやすく言うと、「風吹けば桶屋がもうかる」というコトワザのように、私たちの普段の食事が、生産地では問題を起こしていることも大いにあるのです。認証制度は、エコラベルが表示される製品が、生産地の環境問題に加担していないことを保証する仕組みです。
このような認証制度には、世界中に適用されるものと、地域を限定しているものの両方があります。また、何を目的にしているかも様々です。
地域限定でつかわれる仕組みを「ローカル認証」といいます。ローカル認証のローカルとは、まず、国際的な認証制度に対して、より地域に根差した取り組みであることを表しています。
国際的な認証制度が、グローバルな課題をグローバルに解決しようとしている一方で、地域の課題は、より地域の特色を生かした解決方法を模索することが可能です。
そのため、ローカル認証は、特定の環境課題の解決だけではなく、地域の持続可能性を目指す仕組みでもあります。
さっそくいくつかのローカル認証の事例を見ていきましょう。

(コウノトリの舞)

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一つ目のローカル認証は、兵庫県豊岡市を中心に普及しているコウノトリをシンボルにした仕組みです。
豊岡は、1971年に日本では絶滅したコウノトリの最後の一羽が暮らしていた場所です。
絶滅の理由は複合的ですが、戦後の農薬を多く使用する農業と乾田化が、コウノトリの餌となる生き物を減らしたからだといわれています。
その後、人工繁殖により個体数を増やし、野生復帰が視野に入ってきたとき、餌場の確保が必要となりました。コウノトリは、人の生活の側にある里地里山のトリです。

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そこで考え出されたのが、農家が無農薬や減農薬でイネを育てることにより、同時に田んぼがコウノトリの餌場になる、というアイディアでした。
「コウノトリ育む農法」により、無農薬もしくは、減農薬の場合にも、魚などの水辺にすむ生き物に影響を与えない農薬、を使用するなどルールが決められています。
そのような測定可能な科学的な根拠に加え、「オタマジャクシに足が生えたのを確認してから、中干しする」という基準もあります。これはカエルがほかの水辺に避難できるようになってから、という理由ですが、農家さんが「足生えたか~」と田んぼをのぞき込んでいる絵を想像するだけで、私は楽しくなります。これもローカル認証の良さだと考えています。

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この農法に沿って生産された生産物には、「コウノトリの舞」ラベルが表示され販売されます。
豊岡の環境にあった農法とローカル認証のおかげで、無農薬による稲作面積が年々増加しており、人とコウノトリ両方が住みやすい町となっています。

(サーモン・セーフ)
もう一つ、シンボルとなる生き物を使ったローカル認証として、アメリカ北西部地域で広まっているサーモン・セーフを紹介します。
ワシントン州とオレゴン州をながれるコロンビア川には、複数のサケ科の魚が生息しています。多数のダムの設置や川の水を灌漑用水として利用する農業の広まりから、コロンビア川は徐々に、サケの生息に適したものではなくなりつつありました。
そこで、サケにとって安全という意味のサーモン・セーフ認証が1997年に設立されました。

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サーモン・セーフの最大の特徴は、コロンビア川の「流域」をその認証の範囲としていることです。大地に降った雨は、直接または一度地面にしみこみ河川に流入しますが、その雨が降る範囲を流域と呼びます。画像は、アメリカの河川の流域を色分けして示したものです。左上の茶色の部分がコロンビア川流域で、複数の州をまたぐそのサイズは、フランスの国土ほどになります。
サケに安全な河川環境を守るには、流域で行われている農業やそのほかの活動をサケに安全なものにする必要があるからです。
私が初めてサーモン・セーフを知った時、水辺の生き物をシンボルにしながら、より広い範囲を持続可能にしていくとても賢いローカル認証の設計だと感心しました。
サーモン・セーフの認証基準は、アメリカ北西部地域の気候に合わせて水の量と質を保つように、作られています。

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サーモン・セーフのラベル付き商品には、認証を取得した麦芽とホップを使ったビールもあります。サケに良いビールということであれば、どんどん貢献したくなるのは私だけではないようで、多数のブリューワリーが集ってサーモン・セーフビアフェスティバルが開催されるほどの人気です。
乾燥地帯では、サケだけではなくそこに生活している人々にとっても、水の量と質は大きな課題です。水をめぐる争いも起こりますが、サーモン・セーフはサケをシンボルにすることで流域に暮らす人々の課題を共通の価値へと変えています。

(恩納村)
3つ目の事例は、いままさにローカル認証を始めようとしている沖縄県恩納村からです。
恩納村は、美しい海を求めて年間数百万人が宿泊する沖縄でも有数の観光地です。

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それと同時に、水産業が非常に盛んで、恩納村漁業協同組合が生産するモズクやアーサの品質は非常に高く、また同漁協が長年行ってきたサンゴやアマモの保全も高く評価されています。
そのため恩納村では、観光業、水産業ともに美しい海をいかに保っていくかが重要です。
しかし、台風による大雨時や耕作していない農地からの赤土の海への流出が、以前より課題となっていました。
恩納村では、現在、陸と海をつなげてその課題を解決するために、サンゴをシンボルにしたローカル認証の策定が進んでいます。
恩納村はトロピカルフルーツの生産も盛んですが、近い将来「サンゴに優しいパッションフルーツ」が登場する予定です。
また、空いている農地をお花畑にして、ミツバチにハチミツを生産してもらうハニー&コーラルプロジェクトも進んでいます。なぜハチミツがサンゴを守るの?という「風吹けば」のコトワザのようですが、こちらはとてもポジティブで素敵なアイディアだと思います。

(地産地消と知産知消)
冒頭で、これからは食生産を無責任に生産者に丸投げするのではなく、生産者と生産地の課題を、消費者である私たちを含めた流通全体で共有していく必要についてお話しました。
似たような取り組みに「地産地消」がありますが、例えばアメリカにおける地産地消は、400マイル、つまり640㎞以内で生産されたものとされています。これを日本の国土に当てはめた場合、少し広すぎるように思いませんか。

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そこで、距離の近さにあまりこだわらず、今は地面の「地」という漢字を「知る」に変えた「知産知消」を使い、関係性の近さで考えるようにしています。
つまり、消費者は、生産者と生産地を知って食べ、生産者は消費者がどこにいるかを知って生産する、ということです。

(まとめ)
今日は、そんな関係性を取り戻す仕組みとして、ローカル認証を紹介しましたが、
「食べ物の地域性を保ったまま流通させることが、生産地の地域課題をも解決する」というおいしい仕組みを、私はこれからも応援していきたいと考えています。

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