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瀬地山角「ジェンダーギャップ 日本が抱える問題点」

東京大学 教授 瀬地山 角

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先日世界経済フォーラムが、世界各国の男女格差を示すジェンダーキャップ指数を公表しました。日本は146カ国中125位となり、先進国で最低です。韓国が105位、中国が107位ですから、アジアの隣国にも及びません。

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今日はジェンダーギャップ指数とは何か、経済・政治、教育など項目別に、このような順序で、この指数と日本が抱える問題点について解説します。

1  ジェンダーギャップ指数ってなんですか?
この指数は経済・政治・健康・教育の4つの項目の平均点で計算され、完全に平等なときに1,完全に不平等なときに0となるように数値化されています。もっともこれは男女間の差にだけ注目する指数なので、日本の女性の暮らしぶりが世界で125位だというわけでは必ずしもありません。全体の生活水準が低くても、そこに男女差がなければ、数値は高く出てしまいます。

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上位には毎年北欧の国が入ります。性差別の解消に早くから取り組んできた結果です。10位以内では東京都よりも人口の少ない国が多く、そうした国ではいわば国全体が都道府県のようなレベルですから取り組みが進みやすいのは確かでしょう。ただ146カ国中125位というのは、日本が深刻な性差別を抱えた社会であることを、突きつけるデータであることに間違いありません。ドイツが6位に入っていて、日本は先進国最低なのですから、日本が生活水準や人口の多さを言い訳にすることは絶対にできません。また台湾は、この世界経済フォーラムのデータには含まれないのですが、毎年政府が独自に数値を公表しています。昨年のデータですが、36位。政治も経済も日本より圧倒的に数値が高く、かつ一人あたりGDPも日本とほぼ同じです。アジアの1位は今回のデータではフィリピンの16位なのですが、生活水準などを考えると実質的な1位は台湾で、共働きのあり方など学ぶべき点も多いと考えます。

2 ジェンダーギャップ指数の項目(経済と政治は深刻)
次に4つの項目別に順位を見てみましょう。

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経済が123位、政治が138位、教育が47位、健康が59位です。健康については、日本は世界でもトップクラスの長寿国ですので、4項目の中では強く問題視する必要はないのですが、経済と政治の順位の低さが突出しています。経済は平均賃金や管理職の比率などが入ります。日本では第1子の出産に伴ってキャリアの断絶を経験する女性が多く、この人たちが非正規に追いやられてしまうため、男女間で収入や昇進に大きな差が出てしまいます。これは女性の問題ではなく、家事育児に非協力的な男性が引き起こしている問題です。

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政治は衆議院議員の女性比、閣僚の女性比率、過去50年間の女性の首相・大統領などの在任期間で計算されるもので、146カ国中138位ですから世界最低のレベルです。これらの数値は野党の力では変えることのできないものがほとんどなので、基本的に政権与党の責任と言わざるをえません。

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内閣府の今年2月の調査で、自民党議員の女性比率が低いことが指摘されていますが、こちらの衆議院の表を見ても自民党は他党に比べて低いことがわかります。韓国では政党助成金の配分に際して女性候補を多く擁立した場合に助成金の比率が高くなる制度を設けていますが、こうした制度も与党が反対していれば導入できません。もちろん女性ならば誰でもよいわけではありませんが、子育て政策や選択的夫婦別姓などの問題について、女性議員の比率がもっと高ければ、導かれる結論は変わるのではないでしょうか。

3 教育における男女差別
残りが教育です。ジェンダーギャップ指数の報道ではいつも政治と経済の話が取りあげられ、教育はほとんど話題とされていません。ですが私はこの教育の問題は、大変深刻だと考えています。
教育の数値は初等教育、中等教育、高等教育の在学者率の男女比で計算されます。ここでいう中等教育は中学と高校で、高等教育は高校ではなく大学・短大などを指します。「日本では学校を卒業したら性差別に直面するけれど、学校にいる間は平等だ」と誤解している人が多いように思います。確かに初等教育・中等教育ではほとんど差はありません。問題は大学などへの進学です。
日本の大学進学率は大学と短大の進学者を足し合わせて計算しますが、国際比較では18歳から22歳の人口を分母にして、高等教育機関の在学者数を分子にする高等教育在学率というデータが使われます。
この数値で比較すると、先進国の多くでは女性の方が男性より高くなります。これは 男性の場合高校卒業後、技術職やブルーカラーなどで就職する人が一定数いるからです。日本の場合、日本の大学進学率の計算でも女性の方が若干低いのですが、短大は圧倒的に女性が多いため、短大の3~4年生がいない分、高等教育在学率では女性の方がかなり低くなってしまいます。実はこの高等教育在学率は前回 2022年のデータでは日本の数値が入っていなかったため、教育全体が1位だったのですが、今年の発表では日本のデータが入り高等教育は146か国中105位になっています。実は今回日本の順位が下がった要因の一つは、日本の高等教育在学率が正しく反映されたためなのです。

4 全国の女子高校生は男子とは違う差別に直面している
東京大学の学生団体、ユアチョイスプロジェクトが行った調査でも地方の女子高校生は男子以上に浪人を避け、自己評価が低く、安全志向が強いことが分かっています。こうしたことが積み重なるため、東京大学の女子学生比率は2割にとどまり、地方から来る層になると1割程度しかいません。ことの是非はともかくとして、国会議員の出身大学では東京大学は圧倒的に多く、女性議員に限っても東京大学が1位です。官公庁や民間企業で管理職になる層を含め、その供給源となる大学の男女比が8対2のままではいつまで経っても女性の少ない状況が改善しない可能性があります。もちろん地方の大学に様々な優秀な人が集まるのは良いことです。ただそこに大きな男女差があるのはやはりおかしいと言わざるを得ません。
そしてこれは当然、東京大学だけの問題ではありません。女の子だから親元から通いなさい。女の子だから浪人しないように。女の子だから短大でいいでしょ。お兄ちゃんが大学に行ったからあなたは専門学校にしてね。これは明らかに女子の方が多く経験する圧力で、第一志望の学校を受けることすら許されていない女子高校生が全国にいるのです。これを放置している限り、将来にわたって日本の政治や経済の格差が解消しないのではないでしょうか。その意味で私はこの146カ国中105位という高等教育の性差別は政治経済の問題と同様に、もしくはそれ以上に深刻な問題だと考えます。

5 日常から国政まで結論が変わる
最後にもう一つ考えていただきたいことがあります。
メディアにおける女性の比率です。日本が146カ国中125位の性差別から抜け出せない国だというこのニュースは、報道に携わる人の半数が女性であったら、間違いなくもっと大きな扱いになっていたはずです。上層部を含め、メディアの女性比率が充分に高いとは思えません。職場でも国会でもさらにメディアでも、そこに半数女性がいたら、この125位の社会の出す結論が変わる可能性がある。今日見てくださったみなさんにはこのことに気がついてほしいと思います。

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