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油布佐和子「教員の働き方改革」

早稲田大学 教授 油布 佐和子

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 最近、教員不足と教員志望者の激減が問題になっています。その背景には、教員の過重労働という、ブラックな職業イメージが影響しているのではないかといわれています。
今日は教員の過重労働を改善するための「教員の働き方改革」の現況と課題について考えてみたいと思います。

教員の過重労働は、今に始まったことではありません。すでに30年以上も前から病気休職者の増加や、過労死が報告されてきました。2013年、OECDのTALIS調査では、日本の教員がとびぬけて長時間労働であることも明らかになりました。しかも、この長時間労働に対して、ある意味特殊な勤務条件が存在する問題も改めて浮上しました。
給特法による時間外労働と「教職調整額」の支給という問題です。管理職は、修学旅行などの学校行事や職員会議などの4項目の役割を除いては、教員に、超過勤務を命じることができず、原則として、教員には時間外労働が生じないことになっています。そのため残業代は支払われず、代わりに給料の4%に当たる「教職調整額」が、一律に、支払われています。給特法は1971年に制定されて半世紀もの間、施行されてきました。ただしこれを厳密に適用すると、現在の教員の長時間労働のほとんどは、自分で好きでやっている「自発的な行為」ということになってしまいます。果たしてこれは、妥当なのでしょうか。

このような状況下で、「教員の働き方改革」では、2点、大きな改善策を提示しています。
第一は、長時間労働の改善のために、労働時間管理を進めることです。第二は、教員の役割の境界を明確にして業務の適正化を図るというものです。
教員の仕事は、マルチタスクで、無限定・無定量性に特徴があるといわれています。これは、学習指導や生活指導だけでなく、校務分掌と言われる学校運営の仕事、また、各種の専門家や地域・保護者との連携に係る領域など、多種多様にわたること、そしてどの領域に関しても、やろうと思えばきりがないことを指しています。
「働き方改革」では、ノー残業デーを作ったり、部活日を限定したり、勤務時間という概念があまりないままに働いている教員に、時間外勤務時間の上限を設定し、時間管理を徹底することが求められました。

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また、「基本的には学校以外が担う業務」「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」を明示して、教員が多様な領域にわたって仕事をしている状態を解消しようと試みました。そのために、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーといった専門職はもちろん、部活動指導員を配置したり、学習準備や支援を行うサポートスタッフを導入したり、スクールロイヤーの活用を促進するなど、学校教職員の強化充実を盛り込みました。
ただしこうした改革は、目立った成果を上げていません。

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今年4月28日に公表された勤務実態調査の結果では、前回平成28年度の調査と比べると、教員の在校勤務時間は小・中学校ともに平均して30分ほど短くなっていました。しかしながら持ち帰り時間は、逆に10分ほど増えています。在校勤務時間の平均は相変わらず10時間を超え、時間外労働の上限設定である「月45時間」を超える教員は、小学校で64.5%、中学校で77.1%と高い数値になっています。特に中学校では月80時間以上の時間外労働という、過労死レベルの教員が36.6%もいる実態が明らかになりました。
もう一つの改善策である業務の適正化についても、期待されたような成果は示されませんでした。分業したくても、それに該当する人材が必ずいるとは限りません。また、そうした人材との交渉をめぐる雑務が負担増となって表れます

過重労働の改善がうまくいっていない理由は2点あると考えられます。
一点目は、マルチタタスク以前に、本務である学習指導や生活指導が、非常に大変になっていることが、あまり注目されていないことです。
新しい学習指導要領の施行によって、授業時間は増えています。また、児童生徒が個別に抱える課題も多く、以前に比べると教員にはきめ細やかな対応や指導が求められています。日課をこなすだけで一日が終わってしまうという声は、多くの教員が語っています。このような状況の中で、勤務時間を厳守するような改善策が提唱されれば、仕事を持ち帰るか、あるいは、在校時間内で、活動の過密化を招くしか方法はありません。
二点目は、教員が役割をどのように遂行しているかという特殊な状況があまり理解されていないことです。
教員の仕事は確かに多種多様ですが、それを単純には分業できないという、活動上の特質をもっています。給食指導は、ちゃんと手を洗っているか、清潔な服装になっているか、というような給食係への指導から始まり、配膳が適切に行われたか、食事中の環境は安全に、楽しく保たれているか、後片付けも含めて、時間内に終了するようなタイムマネジメントができているかというように、いくつもの作業工程と活動に分かれます。不慮の出来事に対する責任もあります。このとき、作業工程の一部をサポートしてもらっても、丸ごと委ねるのでなければ、何らかの活動は残ってしまうことになります。業務の負担としては、大きく軽減されるようなものではありません。むしろサポートする人との連絡調整という活動が付加され、負担は余計に増えるかもしれません。
このような重要な点を見落としているのは、「働き方改革」が教員の過重労働を軽減するよりは、現実の時間外労働に対する手当をどうするかという、財政上の問題に焦点を当てているからだと思われます。
所定労働時間を超える労働に対して、教職調整額の改善を図るのか、それともこれを撤廃して残業代を支払うのか。いずれにせよ多大な支出が求められます。できるなら、教員に、時間の使い方の自覚を促して、時間外労働をできるだけ縮減したい、というのが本音だったのではないでしょうか。
時間外労働に対する手当の問題は、早急に改善されるべきです。しかしながら、それで教員の過重労働が解決されるわけではありません。
必要なのは、肥大化し続ける今の学校で、学校の役割を精選すること、そして、本務遂行のために、一人の教員が担当する授業時数、十分な指導ができるクラスサイズを確認し、教員の適切な配置を決定することです。古い枠組み自体を再検討するという、そういう時代に来ているのだと思います。

最後にもう一つ追加したいと思います。こうした本質的な問題をそのままで、教員の業務の一部分を、非正規雇用の職員や、ボランティアなどに委ねるのも問題があるでしょう。非正規雇用職員の増員は、その人たちの生活や健康・安全という問題や、組織の管理運営など、別の問題を招くからです。
人を雇うことは財政の問題であり、簡単ではありませんが、人の善意に頼るだけで公教育が維持されると考えるのは、教育の在り方として問題だと思います。

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