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榎並利博「これからのマイナンバーカード」

行政システム株式会社 顧問 榎並 利博

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相次ぐマイナンバーをめぐるトラブルやミス
今年の3月以降、マイナンバーをめぐるトラブルやミスの問題が大きく報道され、なかなか収拾しません。特に、自分のマイナンバーに他人の情報が紐づいていたことで、「マイナンバーは信用できない、廃止すべき」という過熱した議論も起こっています。そして6月には政府が総点検本部を設置する事態となりました。
しかし、すべてが同じ紐付けの問題として取り上げられ、一部で誤解を招いているところがあります。トラブルの事象は複数あり、それぞれ原因も異なっています。どのようなトラブルやミスが発生したのか、そしてその原因と責任はどこにあるのかを明らかにし、信頼回復のために政府や国民は何をすべきかについてお話をします。

今回の主なトラブルは3つありました。

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1つは住民票の誤交付であり、マイナンバーカードを使ってコンビニで住民票を取得しようとしたところ、他人の住民票が交付されたというものです。
2つめは公金受取口座の誤登録であり、マイナンバーカードを使ってマイナンバーと公金受取口座を紐付けたら、他人名義の口座が登録されていたというものです。
そして3つめは保険証情報の誤登録であり、マイナンバーカードで保険証の情報を見たら、他人の保険証情報が紐付けられていたというものです。

 まず、住民票の誤交付ですが、これは紐付けミスによる問題ではありません。起きたのはちょうど引っ越しなどが集中する時期であり、住民票交付の処理が過度に集中するタイミングで起きました。いつどのような状態でも誤交付が起きるわけではなく、これは紐付けの問題ではなくプログラムのミスです。
とはいえ、他人の住民票を交付するという行政の信頼を損なう重大なミスを犯したのですから、システム開発に携わったベンダーに弁解の余地はありません。6月のシステム点検完了後、さらに点検が続いているようですが、あらためて「行政機関で個人情報を扱う」ことの重大さを認識してもらう必要があります。

次に、公金受取口座の誤登録ですが、これは紐付けミスの問題です。ただし、行政側のミスというより、登録作業を行った利用者のミスだといえます。役所の支援窓口に設置されている端末を使って利用者が登録処理をした後、ログアウトを忘れたために起きました。後から来た利用者がそのまま端末を使って登録したために、口座情報を上書きしてしまったことが原因です。
しかし、すべて利用者の責任と言えるでしょうか。支援窓口に来るくらいですから、パソコンの操作に不慣れな方であることは明らかです。登録処理の終了後には確実にログアウトしてもらうなど、支援要員による配慮が必要だったと思います。

なお、この公金受取口座に関しては、家族名義の口座を登録したケースが約13万件あったと報道されました。原則として本人名義と異なる口座に給付金を振り込むことはできません。また、子供のマイナンバーに公金受取口座を登録する必要はありません。これは利用者のミスといえますが、口座を登録すればマイナポイントを付与しますと、政府が国民を煽ったために問題が大きくなったのではないでしょうか。

 最後に、他人の保険証情報が紐づけられているという問題は、紐付けミスの問題だといえます。ミスを犯したのは医療保険者です。報道によれば、健康保険組合などがマイナンバーカードと健康保険証を紐付ける時に入力の誤りが発生し、このようなケースが全国で約7300件見つかったそうです。
しかし、本人がマイナンバーを申告し、しかもチェックデジットの付いたマイナンバーの入力でそれほどのミスが起きるのだろうかと疑問に思います。そこで厚労省の資料を調べてみると、「保険者が個人番号を把握していない者について、住基ネットへの照会により個人番号を取得することを基本とする」と記載されていました。ここでは、マイナンバー取得の原則である厳格な本人確認、つまりマイナンバーカードの表面で身元確認を行い、裏面で番号確認をするという原則が無視されています。
マイナンバー制度以前では、同姓同名による他人口座の差し押さえなどのトラブルが年に何件も起きていました。氏名や生年月日で本人を特定することの危険性があるため、「マイナンバー」が必要になったのです。しかし、自治体の経験が厚労省や医療保険者には伝わっていなかったようです。マイナンバーは住民基本台帳をもとに付番されており、少なくとも氏名、住所、性別、生年月日の基本4情報が合致していることを確認しなければ、マイナンバーの取得においてミスが起きることは明らかなことです。

 今回の誤登録に関して、公金受取口座では氏名を含む口座情報が、健康保険証情報では氏名を含む保険証情報が表示されたため、登録の誤りが発覚しました。しかし、このことは情報連携の機能を果たす情報提供ネットワークシステムのなかを個人情報が流れているということであり、これは情報提供ネットワークシステムでは個人番号など個人を特定する情報を流さないという当初の基本方針に反しています。
 個人情報を流さない設計になった要因として、住基ネット訴訟における合憲判決が大きく影響しています。合憲の一つの理由である「行政事務で扱う個人情報を一元管理できる主体が存在しないこと」が、「情報提供ネットワークシステムにおいて個人情報が流れると、このネットワークシステムを管理している総務省が個人情報を一元的に管理しているとみなされる」と解釈されてしまったからです。
 これに関連したある報道によると、表面化していない紐付けミスの問題が自治体内部で発生しているようです。内部番号の取り違え、マイナンバーと内部番号の紐付けミスなどが起きているということです。そこでの大きな問題は、情報照会しても個人情報が連携されないため、他人の情報が連携されても気づかないという点にあります。
 これらの一連の事象は、マイナンバー制度の当初の基本方針などが大きく揺らぎ始めていることを示しています。そして、マイナンバーカードを普及させようと、政府がかなり前のめりになっていることも気がかりです。基本的な設計方針から見直し、今一度原点に立ち戻ってマイナンバー制度のグランドデザインを国民に提示すべきではないでしょうか。

マイナポイントの付与という政策もあり、この1年間でマイナンバーカードの交付枚数が約3500万枚も急激に増えました。カードやマイナポータルの取り扱いに慣れていない人も多くいると見られ、トラブルに関してはもう少し冷静に見ていくことも必要だと思います。政府は秋までに総点検を完了するとのことですが、これらのトラブルに対して真摯に対応し、国民の信頼を取り戻す必要があります。
 その一方で、国民もすべてを政府に丸投げするのではなく、自分の情報は自分で守るという意識を持つことが重要です。

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マイナポータルにアクセスして、「わたしの情報」や「やり取り履歴」を確認しましょう。マイナポータルとは、政府があなたのどのような個人情報をどの行政機関の間でやり取りしているかを明らかにし、国民に対して説明責任を果たすためのサイトです。そこで疑義があれば政府に問いただし、国民と政府が一体となって制度を良いものにしていくべきだと思います。

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