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毛受敏浩「外国人の技能実習制度見直しへ」

日本国際交流センター 執行理事 毛受 敏浩

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今年4月、政府の有識者会議では、技能実習制度を廃止すべきとした上で、新たな制度のたたき台として、人材確保を目的とすること、また実習生には雇用先の企業の変更も一定程度認める等を示しました。
今日は技能制度の今後のあり方と、受入れる企業や我々はどうすべきなのかをお話しいたします。

2020年代に入り、日本は人口減少の加速期に入りました。減り続ける人口を何とか維持しようと政府は異次元の少子化に取り組むなど、従来以上の取り組みを始めています。しかし、人口問題はすべての先進国が抱える共通の課題であり、単に少子化対策をとれば解決するという、単純な問題ではありません。
日本以外の先進国のほとんどが少子化対策をとった上で、外国人を受入れて定着を認める移民政策をとっています。日本も大卒以上の高度人材についてはすでに人数制限を行わず定着を認める政策をとってきました。しかし、現場で働く人たちは、単純労働と位置付けられ、外国人を労働者として受入れる代わりに、途上国への国際貢献、人材育成という名目で技能実習制度が行われてきました。
 この技能実習制度は、研修生という立場ではありながら、実質的には人手不足が続く日本の企業や組織のための労働者確保のために使われてきた実態がありました。また研修という建て前のため、職場移動ができず、仮にブラック企業に働くことになっても、転職できないことから、外国人労働者を搾取する制度ではないかとの批判が米国政府や国連から出されていました。
そうしたことを受け、昨年12月に政府は技能実習制度の見直しのための有識者会議を発足し、4月の中間報告では廃止の方向性が出されました。
 そもそも技能実習制度ができたのは1993年です。この頃も人手不足はありましたが、人口減少は問題となっておらず、あくまで景気の循環による人手不足が問題視されていました。その解決を技能実習制度は担ってきたと言えます。
しかし、30年が経過した今、日本は加速する人口減少時代に入りました。人手不足は景気の循環によるものではなく恒常的に人材不足の時代に入りました。日本はモノづくりの国であることを自負していますが、技術者は高齢化し退職をしていきます。一方、その技術を引きつぐべき日本人の若者の数は減り続けます。これは製造業だけではなく、農林水産業もサービス業もすべての分野で起こっていることです。
従来、外国人労働者を高度人材に限定したのは、日本人の職を奪いかねないとの考えでした。今後、AI化が進み雇用が少なくなるのではと懸念されていますが、その影響を最も受けるのは高度人材の分野です。介護分野を含むエッセンシャルワーカーとも呼ばれる現場労働の分野の仕事が減ることは限定的でしょう。人口減少が加速化する日本では幅広い分野で、外国人に活躍をしてもらう必要がありますが、現在の技能実習制度では最長5年で帰国してしまい、仕事に習熟し日本語も覚えた人材が帰国してしまうということになります。
今後、日本では外国人受入れについて長期に定住、活躍してもらう認識が必要であり、その意味で、帰国を前提とする技能実習制度を廃止するというのは理にかなっていると思います。
 一方、技能実習制度は30年間続いてきたせいで、日本の中小企業にとって不可欠な人材確保の手段になってしまいました。技能実習生の給与は各地域の最低賃金に張り付いており、また数年間しか働かないので賃金を挙げる必要もありませんでした。
技能実習制度が長く続いたことで、日本の多くの企業では低賃金労働に依存する状況が生まれました。本来、イノベーションを起こし、高付加価値化、高賃金をめざすべきですが、技能実習制度により低賃金で労働者を確保できることからその努力を怠ってきたともいえます。
雇用者の意識の面での問題もあります。技能実習生の雇用者の一部には、一種のパターナリズム(弱者保護の上下関係)で、自分が彼らを保護する立場であり、彼らに勝手な行動をしてもらっては困るという認識もあるのではと思います。休日でも自由な外出をさせないという一部の雇用者の話がありますが、対等な労使関係ではない前時代的な徒弟制度のような認識が、技能実習制度では見られるのではないでしょうか。
また、賃金の不払いや暴力などといった不当な扱いを行う一部の雇用者がいるのは、技能実習生の多くが日本語が不自由であり、その実態を近隣の日本人に伝えられないこと、さらに日本のさまざまな制度を理解していないことが考えられます。
 では、技能実習生が長期で活躍するためにはどのような仕組みが必要でしょうか。

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一つには、待遇面の改善が重要です。日本人と差別することなく同等の待遇を提供すること、また中長期で働いてもらうには、技能の習得により、賃金が上昇するような仕組みの導入が必要です。
不正が起こらないためには、技能実習生を支援する第三者機関の設置や雇用する企業への人権についての研修も必要でしょう。さらに技能実習制度全体の透明性が重要です。技能実習生が働く現場を近隣の住民が訪れることができたり、技能実習生が地域と交流することが不正の防止になります。
 こうした地域に開かれた制度にすることで、技能実習生は地域のイベントにも参加し、地域に包摂されていると実感すれば、高齢化が進む地方において、防災などの面でも地域に貢献してくれるでしょう。そうすれば職場移動を認めることで懸念されている、都会への大規模な流出は起こらず、将来にわたり定着してくれる可能性も高まるでしょう。
 彼らの生活面での支援では、NPOの役割も重要です。私の勤める日本国際交流センターでは技能実習生を含め、在留外国人を支援するNPOに休眠預金制度により、資金助成、伴走支援を行ってきました。さまざまな事情を抱える外国人一人一人に寄り添う支援は行政では不可能であり、市民によるNPOの活動は不可欠と言えます。その点でNPOが一層、活躍できるための政府の支援が必要といえます。
 島国の日本はそもそも異文化を受入れ、それをテコにして発展してきた国です。さまざまな文化が日本に入る中で、取捨選択し、ある時は日本流にそれを発展させ、独自の文化を作ってきました。日本の人口減少が続き、高齢化がさらに続く中で、外国人を受入れることは日本の本来のアイデンティティに沿ったものといえるのかもしれません。
技能実習制度の廃止は、単なる労働者不足の対応のあり方ではなく、これからの日本社会をどのように描くのかということと直結する話でもあります。人口減少と高齢化で日本の低迷が続けば、日本の先行きが暗いと考え、日本の若者も海外を目指すということにもなるかもしれません。
その逆に、日本を目指して世界中の若者が集まってきたくなる国、さまざまな可能性が広がる国と受け止められようになるのか、また日本人と外国人がウインウインの関係を作れるのかどうか。日本は今、大きなターニングポイントに差し掛かっています。技能実習制度の廃止を機に、今後の日本社会のあり方を人口、労働面だけではなく、歴史、文化を含めて考える機会にすべきだと思います。

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