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遠藤乾「G7広島サミットを振りかえる」

東京大学 教授 遠藤 乾

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先進国7か国の首脳が集まるG7サミットが2023年5月、広島にて行われました。このサミットは、G7サミットの歴史を追ってきたあるカナダ人研究者が「様々な面で力強い成果を挙げた」と評し、1975年からのサミットで2度しかないA評価をつけたものであります。議長を務めた岸田文雄首相も「歴史的な意義」があったと自賛しました。他方で、「広島まで来てこれだけか」と厳しく批判した被爆者の方もおられました。

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実際のところ、何ができ、何ができなかったのか。さまざまな期待が投射されたサミットだっただけに、ここで成果や課題を多角的に考えてみたいと思います。

まずサミットというのは、成果文書を一瞥するだけで分かるのですが、ありとあらゆることを扱います。食糧、気候変動や経済安保、チャットGPTからジェンダーまで、大変幅広い。ここでは、関連する三つに焦点を合わせて参ります。

第一に、核兵器です。このサミットは、世界の多くが知っている戦争被爆地の広島で行われ、広島出身の日本国首相により主催された大変稀なサミットです。非核化の原点でもある地で行われるだけあって、その方向に踏み出せるのか、そこに注目していた人も多かったと思います。しかし、おりしもウクライナ侵略戦争においてはロシアによる核威嚇がなされ、核攻撃の懸念が高まり、中国の核軍拡、北朝鮮の核ミサイル開発が進む中、時代は逆向きだったと言えましょう。G7として初の核軍縮関係文書「G7首脳広島ビジョン」を出し、何とか「核軍縮」の文字を刻んだものの、その具体的な道筋をつけるには至りませんでした。実質的に打ち出せたのは核不使用と核不拡散までで、米英仏というG7の核保有国のもの含め、核軍拡への歯止めの要素は薄かった。

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ただし、逆風の中、G7の首脳たちが広島の平和記念館を訪れ、核被害の実態を目の当たりにしたことは、とくに核保有国首脳の責任の重さを刻印する意味があったでしょう。

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のみならず、サプライズでウクライナのゼレンスキー大統領をヒロシマに迎え、この地で結束して核兵器使用と威嚇反対をモスクワに対して突き付け、加えて中国にも透明性の確保と意味のある核対話を求めました。
米国などはこれとは別に、使ったらひどいことになると「抑止」をロシアにかけるのですが、それとは異なるやり方で、G7+グローバル・サウスの集団で「使うな、脅すな」というメッセージを送ったわけです。ここまで踏み込んだことは人類史的に大事なことと言えましょう。

第二に、ウクライナ侵略が始まって二度目のサミットとなり、進行中の大戦争にどう向き合うのか、これも注目されました。ゼレンスキー大統領が対面でG7に参加し、西側主要国の首脳と結束をアピールし、これを機にF16供与やパイロット訓練が決まり、欧米の兵器供与の段階が一つ上がりました。供与や訓練は時間のかかることであります。つまり、これは長期にまたがる軍事支援に西側諸国がさらに確固たるコミットメントをしたという意義があります。戦争が始まって以来、西側の団結のほころびを懸念する声はずっとあったわけですが、いまのところその気配はないということです。

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また、いわゆるグローバル・サウスと呼ばれる新興国・途上国の首脳がG7に呼ばれていたこともあり、異なる観点からも意義深かったといえましょう。というのも、そうした国々はウクライナ侵略について是々非々の態度を取り、制裁や支援についても消極的ななか、侵略されたウクライナの指導者と会い、直接に戦禍の惨状や平和の構想について議論し、侵略という事態への理解を深めることになるのです。この広島サミットを介したウクライナとグローバル・サウスの連結を、フランスのマクロン大統領は「ゲーム・チェンジャー」と呼び、流れを変えるものと高く評価しました。多くの国の協力なしにできなかったであろうゼレンスキー大統領招聘ですが、それを仲介し、サミットという場で意味のある対話を可能にした日本は、外交という術=アートがもつポテンシャルを十二分に見せつけたと言えましょう。

第三に、アジアで唯一のG7参加国の日本が主催するサミットで、この地域の最大の課題でもある中国について、何を言い、何をするのか、ここも注目点でした。成果文書では中国への「関与」を謳い、「建設的関係」の構築を志向する一方、経済安保から核増強、海洋進出まで、かなり厳しいスタンスを示しました。

「デカップリング」と呼ばれる分断ではなく、「デリスキング(脱リスクないしリスク軽減)」としたのも新機軸でしたが、全体のトーンがそれまでのサミットと比べてもより一層対決調で、日米をはじめ多くの国の中国不信がせり出したかたちです。
さて最後に二点、G7と日本のあり方に引き付け、今後について考えましょう。
G7は21世紀に入ってから世界経済における比重を減らし、現在購買力平価で世界GDPの30%ほどを占め、他方、この間の新興国の躍進はすさまじく、BRICSと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは、あわせて32%を超えたという報道もあります。そうしたなか、かつてのように、世界を寡占的なかたちで指導するわけにはいかない。ただし同時に、かつて世界経済の舵取りを行うフォーラムとして期待されたG20は、米中対立やロシアのウクライナ侵攻とともに機能不全に陥っています。この間、ウクライナをめぐる団結にみられたように、「西側」は縮減しながらも復活を果たしました。国連の安全保障理事会も同様に機能不全にあるなか、世界全体のマネジメントにおいてG7の重要性はまだ十分残っているといえます。
日本は当面G7にあって、一方的に侵略を受けるウクライナの反転攻勢と勝利への後押しを続けることが肝要でしょう。もちろん憲法的立場を超えてまで直接的な軍事支援する必要はありませんが、まずは侵略がペイ(得)するという前例を残してはいけない、そのためにウクライナに対して、インフラ復旧であれ、エネルギー供給であれ、難民の受け入れであれ、あるいは戦争犯罪人の訴追であれ、汗をかく余地はいくらでもあり、そこでは日本は主要なプレイヤーたりうるということです。
これは、回りまわって日本のためにもなります。というのも、ウクライナのように、日本も周りに、核保有した現状変更勢力を抱えているわけです。今回の戦争の最大の教訓は、現状変更の意思、能力、そして独裁の深化という3つが揃うと侵略が起こりうることです。中露はその点類似しています。侵略がペイするという状況は、ウクライナのためにも、グローバル・サウスと言われる諸国のためにも、もちろん日本にためにもならない。法の支配といった普遍的価値に立つというのはそういうことであり、それは日本のためでもあると考えます。
今後を考えるうえでの最大のリスクは、実は米国にあります。一年半後に迫った大統領選で、ふたたびトランプ氏のような内向きなナショナリストが勝利した場合、西側の結束も、もちろんG7も、おそらくNATOも、土台から流動化します。どうなるか分からない米国の内政を頭の片隅に入れながら、いまのうちからリスクをヘッジし、周辺諸国との関係を少しずつ軌道修正しておく必要があるでしょう。

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