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坂根宏治「今後のスーダンへの支援」

JICAスーダン事務所 所長 坂根 宏治

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今年4月15日、スーダンの首都ハルツームで国軍と準軍事組織RSFとの軍事衝突が発生しました。なぜ軍事衝突は発生したのか、スーダンは今どのようになっているのか、そして私たちは何をすべきなのか、これらの点について、お話しします。

(1.なぜ軍事衝突は起こったのか)
まず、軍事衝突の背景についてお話しします。スーダンでは2019年4月、30年間続いたバシール政権が民衆のデモにより崩壊し、民主化移行政権が誕生しました。その後、2021年10月、軍事クーデターにより暫定政権が崩壊しますが、西側諸国は新規の開発援助を凍結し、経済は悪化しました。昨年12月、クーデター後の社会の混乱と、国際社会の調停の結果、再び民主化移行政権を作る機運が生まれ、今年3月まで、多くの課題が解消されました。最後に残った課題が、国軍とRSFの統合問題でした。それまでスーダンの軍部は、国軍とRSFが併存していましたが、民主化を進めるにあたり、この並立構造の解消が必要だったのです。しかし、それが両者の緊張を高め、軍事衝突に発展したのです。

(2.軍事衝突の結果、スーダンはどのようになっているのか?)
4月の軍事衝突以降、スーダンでは深刻な被害が発生しています。

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ハルツームでは、主要インフラが破壊され、多くの人々が首都を離れています。スーダン全体では、わずか1か月半の間に、約140万人が国内外に避難しています。特にスーダン西部のダルフール地域では、武装勢力間の衝突、略奪が続き、混とんとした状態が発生しています。

(3.軍事衝突は何を意味するのか?)
今回の軍事衝突は、スーダンの歴史上、転換点となる出来事です。

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スーダンでは、民主化運動の歴史は長く、1956年の独立以降、民衆蜂起により軍主導の政権が倒され、またそれを軍部が覆す歴史を何度も繰り返してきました。今回も、2021年のクーデター以降、民衆の抵抗運動は続けられましたが、4月の軍事衝突以降、民主化勢力の存在感はほとんどありません。今後、スーダンの民主化運動がどのように展開するのかは、注目すべきポイントです。

(4.我々は何をすべきか?)
今回の軍事衝突を踏まえ、私たちは何をすべきでしょうか?
まず、JICAが行ってきた取り組みをご紹介します。

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JICAはこれまで、スーダンで、水、農業、医療、廃棄物処理等の分野で行政官の支援を行ってきました。
行政が国民に質の高いサービスを提供できれば、国民が行政を支持します。国民の支持は、行政官の職務意識を高め、さらに良いサービスを目指すインセンティブとなります。この国民と行政の信頼関係の好循環が、よりよい政府を作るために不可欠と考え、私たちJICAはその実現を目指してきました。スーダンでは、実際にそのような好循環が、いくつもの案件で生まれていましたので、今回の軍事衝突で、その成果が大きなダメージを受けたことは本当に残念なことです。

スーダンの社会経済を概観すると、スーダンでは、軍事衝突以前から、多くの課題があり、2021年のクーデター以降、国家財政が破綻し、人々の生活は苦しくなる一方でした。

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スーダンは出生率が高く、国民の55%が20歳未満ですが、十分な就職機会がなく、失業率は30%を超えていました。昨年の時点で400万人が栄養失調の状態にあり、また教育システムも十分機能しておらず、小学3年生レベルの児童の8割が「単純な文章が読めない」状態でした。現在、既に多くの失業人口を抱えるスーダンで、健全な発育が阻害され、十分な教育を受けていない子供たちが成人となった時、どのような社会が到来するのか。スーダンでは、大きな懸念がありました。
さらにスーダンはサハラ砂漠の南端に位置し、将来スーダン全土が砂漠化の波に飲み込まれるリスクがある国です。この砂漠化リスクに対処する必要がありました。
そのスーダンで軍事衝突が発生し、インフラが壊滅的なダメージを受け、多くの人々が避難生活を送る状態が発生しているのです。
今は、スーダン人同士で争っている場合ではなく、一致団結して、これらの諸課題に取り組むべきタイミングです。そのために今、まずやるべきことは、「停戦」と「民主化プロセスの再開」です。どちらも容易なことではありませんが、これなくして、スーダンでは成長と繁栄は望むことができず、紛争の勝者であっても、幸せにはなれません。

最後に、「日本がなぜスーダンにかかわる必要があるのか」について、お話しします。
スーダンの人々は、心が優しく、向上心のある人々です。私はこれまで、スーダンに2年以上滞在してきましたが、スーダン人の優しさは、他国とは比較にならないほど、抜きんでています。一方で、南アフリカのIcikowits Family Foundationが行った調査では、スーダンの若者の7割が、3年以内に国を出ることを希望しています。ナイル川の恵みにより豊かな土壌を持ち、また他者に寛容な文化を持つスーダンの人々が、なぜ自国の将来に希望を見出せないのか。それは個々人の資質のせいではなく、政治リーダーの政治運営、特に武力統治の歴史に原因があると考えられます。私たちと同じ時代に生きながら、なぜこれほどまでに境遇が異なるのか。スーダンの人々の「絶望」を「希望」に変えるため、また同じ時代を生きる者として、この現実を放置してはならないと思います。
スーダンの人々は、民主主義を渇望し、長く民主運動を続けてきた人々です。私たちが民主主義を謳歌し、民主主義の推進を目指すのであれば、なぜスーダンのように民主主義を希求しつつも実現できない人々を支援しないのか。民主主義を標榜する国の責務として、スーダンの民主化を支援する必要があると思います。

皆さんの中には、「日本にも多くの課題があるのに、なぜ海外の問題にかかわる必要があるのか」とお考えの方もいるかもしれません。かつて日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代であれば、他国のことを気にしなくても日本は生きていけたかもしれません。でも時代は変わりました。日本は今、日本だけの力で生きてはいけません。他国に依存し、相互に助け合いながら生きる必要があるのです。そのような時代を生きる今、支援を求めている他国の人に思いを馳せ、支援することは、不可欠だと思います。
私は4月、スーダンから退避するにあたり、スーダンの人々から多大な支援を頂きました。スーダンの人々の日本人に対する親近感は特別です。それは、日本がこれまでスーダンで行ってきた協力の賜物でもあります。でもそれは、現在の私たちの努力ではなく、私たちの先人の努力の成果です。そうであれば、私たちは、先人たちが残してくれた成果を享受するだけでなく、私たちの子供や孫の世代が幸せな未来を築けるよう、現在、世界が抱えている課題に率先して取り組み、次世代のために成果を残していくことが必要です。その努力は、日本の未来のためにも、惜しむべきではないと思います。

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