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山本勲「勤務間インターバル制度とは」

慶應義塾大学 教授 山本 勲

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私はさまざまなデータを用いて、どのような働き方が労働者や企業にとって望ましいかについて、労働経済学の視点から研究をしております。本日は、働き方の中でも、近年、新しい働き方の制度として注目されている「勤務間インターバル制度」に注目してみたいと思います。

勤務間インターバル制度とは、仕事を終えた時刻から次の日に仕事を始める時刻までの間に一定時間の間隔(すなわち、インターバル)を空けなければいけないというものです。たとえば、夜11時まで残業してしまったとします。このとき、インターバルを11時間とする勤務間インターバル制度が導入されていると、翌日は通常の始業時間が朝9時であっても、10時に働き始めることになります。一定のインターバルを確保することによって、十分な休息や睡眠をとり、労働者が健康でいきいきと働き続けることを狙っているのが勤務間インターバル制度といえます。2019年に施行された働き方改革関連法では、勤務間インターバル制度の導入は企業の努力義務に定められました。

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それもあって、図に示したように、勤務間インターバル制度を導入している企業の割合は年々増加しています。
中でも、従業員1000人以上規模の企業での導入割合は約15%にまで増えました。また、図には示していませんが、「日経スマートワーク経営調査」によると、上場企業での導入割合は25%を超えており、4社に1社が導入していることになります。しかし、図でもわかるように、中小企業での導入割合は約6%と低く、企業による差が生じてしまっています。このため、政府は2021年の「過労死防止大綱」において、全企業での勤務間インターバル制度の導入割合を2025年までに15%にするという数値目標を定めています。

それでは、なぜ勤務間インターバル制度が必要なのでしょうか。1つには、勤務間インターバル制度が導入されると長時間労働が是正されたり、休息が確保されたりするため、労働者のウェルビーイング(すなわち、心身の健康や幸福)が向上するからです。もう1つは、それらを通じて、生産性や企業業績も向上する可能性があるからです。

働き方改革などによって日本の長時間労働は是正されつつあります。しかし、それでも日本では週49時間以上働く長時間労働者の割合は男性で直近でも2割を超えています。この割合は先進諸国の中でもかなり高く、日本では長時間労働をする人がいまだに多い状況が続いているといえます。労働時間は働く人の健康と密接な関係があることが数多くの研究で指摘されています。
例えば、同じ人を追跡調査している「日本家計パネル調査・コロナ特別調査」のデータを用いて、コロナ禍でのメンタルヘルスの状態をスコア化した図をみてみましょう。

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これをみると、週60時間以上働いている人のメンタルヘルスは顕著に悪い状態が続いていることがみてとれます。勤務間インターバル制度が導入されていれば、たとえ繁忙期であっても連続して過度な残業が続くことはなくなります。このため、結果的に労働時間は短くなり、健康状態が改善することが期待されます。事実、上場企業のデータを用いて分析すると、勤務間インターバル制度が導入・活用されている上場企業で働く労働者の残業時間は、導入されていない人よりも週2時間程度短いという結果が得られました。

勤務間インターバル制度は、メンタルヘルス以外の労働者のウェルビーイングをよくする可能性があることもわかってきました。例えば、勤務間インターバル制度が導入・活用されていると、睡眠の状態がよいほか、仕事への熱意などを表すワークエンゲージメントや企業への愛着などを表す従業員エンゲージメントもよくなっています。

つまり、勤務間インターバル制度が導入されていると、労働者のウェルビーイングが高まる傾向があるといえます。統計解析の結果、こうしたウェルビーイングの高さは労働時間が短いことを通じてだけでなく、休息の確保などを通じて直接的に勤務間インターバル制度が影響している可能性も見出せました。このことから、残業時間が長くなったとしても、勤務間インターバル制度が導入されていれば、日々の休息が確保され、労働者の睡眠の状態やエンゲージメントが向上することが期待されます。

近年、日本の労働者の睡眠時間の短さやエンゲージメントの低さが懸念されています。

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例えば、OECDのデータで国別に睡眠時間を比較できる図をみると、多くの先進諸国で1日平均8時間を超えているのがわかります。
これに対して、日本の睡眠時間は1日平均7時間半を切っていて、先進諸国の中で最も短くなっています。睡眠は健康を左右する重要な要因と言われています。働く人の睡眠の状態をよくするためにも、勤務間インターバル制度の普及が求められるといえます。

勤務間インターバル制度によって労働時間が減少し、労働者のウェルビーイングが向上すれば、企業の生産性や業績も向上する可能性があることも近年の研究でわかってきました。例えば、働き方改革に取り組んで働き方を総意工夫している企業では、長時間労働の是正は生産性の低下にはつながらず、むしろ生産性が向上し、企業業績がよくなることもあります。また、ウェルビーイングについても、上場企業のデータを用いた私の分析によると、従業員の睡眠時間が平均的に長い企業ほど、その年や翌年の利益率が高い傾向にあることがわかりました。

同じように、従業員のエンゲージメントが高い企業ほど、利益率が高い傾向があることもわかりました。睡眠の状態やエンゲージメントが改善すると、個々人の生産効率が高まることは多くの研究で示されてきました。ここでの分析結果は、企業という組織単位でみても、従業員のウェルビーイングの向上が業績向上につながることを示しています。

近年、いわゆる「健康経営」に取り組む企業が増えています。健康経営とは、企業が従業員の健康を管理するだけでなく、経営戦略として健康の向上を目指し、生産性や企業業績の向上につなげていくものです。これまでみてきたように、勤務間インターバル制度は従業員の健康をよくするだけでなく、企業の業績の向上にもつながる可能性があります。その意味では、健康経営に取り組む企業こそ、勤務間インターバル制度を導入すべきともいえるでしょう。

ヨーロッパでは、インターバルを11時間とする勤務間インターバル制度が以前から導入されています。しかし、欧州諸国の労働時間は決して長くはありません。このため、11時間のインターバルを確保できないことはそう多くはないはずです。ところが、日本では、働き方改革関連法によって残業時間の上限規制が強化されたとはいえ、繁忙期などに例外的に長く残業をすることは認められています。つまり、日本では長時間労働を余儀なくされる機会は少なくないといえます。実は、そうした状況においてこそ、勤務間インターバル制度は必要であり、効果を発揮するといえます。ある程度の長時間労働をしても、労働者が健康を損ねることなく、いきいきと働き続け、同時に、企業業績も高めていく、そのためのツールとして、多くの企業に勤務間インターバル制度が導入されることを願っています。

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