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佐々井司「静かに進む"海外移住"」

福井県立大学 教授 佐々井 司

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日本の人口は減り続けています。
なかでも日本人人口は、低すぎる出生率の長期化と、人口の多い世代の方々の高齢化にともなう、死亡者数の増加によって、近年急速に減少しています。
そして、出生率が、人口を維持するために必要な2人強の水準まで回復しない限り、今後も際限なく減り続けます。

現状で1.3という出生率は日本の人口を大幅に減少させる水準で、今も回復の兆しは見られません。
他方で、日本に住む外国人人口は増加しており、数字の上では、日本人人口の減少幅を幾分補う形で推移しています。
ただし、今後も安定的に増えることを期待して良いものかどうかは、予測が難しい不安定要因でもあります。

このような状況を横目に、静かに進んでいる、注目すべき人口動態が、もう一つあります。
「日本人の“海外移住”」です。

まずは統計によって近年の推移を確認しておきましょう。

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日本の外務省は、“3か月以上海外に在留している日本人の在留届出数“などをもとに、「海外在留邦人数・調査/統計」を公表しています。
これによりますと、海外で暮らす日本人人口は着実に増加しています。

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このうち、海外在留邦人の過半数を占める「長期滞在者」は、留学やワーキングホリデー、ビジネス等を目的として、【海外での生活は一時的なもので、いずれわが国に戻るつもりの邦人】と定義されています。
在留先がアジア諸国に多いことが特徴です。これまでも、9.11、サーズ、リーマンショック、そして直近のコロナ禍によって在留者数は大きく増減しています。
一方「永住者」とは、その名称の通り、当地での“永住”権を取得するなど、“生活の本拠をわが国から海外へ移した方々”、とされています。
在留先は、先ほどの「長期滞在者」と異なり、アメリカやヨーロッパ諸国が多くなっています。

永住者の属性にみられる特徴は、もう一つあります。
男性よりも女性が圧倒的に多い、ということです。
そして、女性の永住者は、コロナ禍を経ても安定的に増え続けており、長期滞在者とは対照的です。

海外で暮らす日本人人口の年齢は、日本に住民票を置く日本人と比べてもかなり若く、平均年齢や中央値でみても10歳程度の開きがあります。

永住権を取得するには、一定の猶予期間が必要になるため、はじめは留学やワーキングホリデー、あるいは海外での駐在など、長期滞在を経験する方が多く、特に女性は当地でパートナーと出会い、永住に移行する方々も少なくないようです。

人口減少が避けられない日本で、若年女性を中心に、海外に永住する日本人が増加するということは、数値でみる限りにおいて、日本国内の少子化と人口減少に、拍車をかけることに繋がります。

さらに、数値以上に重要なことは、海外で暮らす日本人の増加がなぜ起こっているのか、という、その社会的背景ではないかと、考えます。
統計から得られる情報は非常に少なく、限定的です。
しかしながら、アメリカやヨーロッパ、オーストラリアに永住する日本人、なかでも女性の増加が著しい、という事実だけでも、多くのことが示唆されます。

人口動態のなかでも、人口移動という行為は、強い意図や動機がなければ、絶対に起こり得ません。
それだけに、近年、わざわざ日本を離れて海外に移住する女性が増えている、ということの背景には、日本から押し出す、いわゆるプッシュ要因が強く働いている可能性があります。

最近では、ユーチューブ等を通じて、学校の先生や看護/介護の職に就いていた一般の日本人の方々が、海外での生活状況を配信したりしています。その中でもインフルエンサー的な人たちは、忖度の無い意見を発信していますので、影響力も少なくないでしょう。
その内容には当然ある程度のバイアスがかかっているとは否めませんが、決して頭から否定すべき内容の話ばかりではないようです。

異なる世界に飛び込もうとする際、誰もが、言語や生活習慣等への不安を感じることでしょう。さらに近年では、日本経済の凋落と円安などのために、海外に出るための金銭面でのハードルが急激に上がっており、最初の一歩を踏み出すのが、かつてより難しくなっています。
それだけに、日本人の海外移住者の今後の動向は、内外のさまざまな要因によって左右されることでしょう。

今の日本では、明るい未来を展望できるような、希望の持てる話が多いとは、決して言えません。
逆に、雇用、賃金、年金、そして介護に医療、、、、、将来への不安は増している、そう感じている人も少なく無いでしょう。

世界は急速にグローバル化していますが、日本は依然として、国内問題にさえ前向きな打開策を見いだせず、完全に袋小路に入っているように見えます。

なかでも、世界一長寿である日本の女性は、自らの長い人生を見据えながら、希望と現実の距離の開きに、不満や不安を覚えているのかもしれません。
“日本がダメなら、海外で”、そう考える人が出てきても、不思議ではないでしょう。

私の現状分析に、共感や賛同してくださる方がもし居られるとすれば、海外で暮らす日本人人口の動向を、今後も継続的にモニタリングすることによって、日本社会が住み良い環境に向かっているのか否かを、検証する一助になるかも知れません。

日本から海外に移住する人が増えている背景は、未婚化や少子化と、まったく同じだと、と私は考えています。
人口の半数以上を占める女性が生き辛さを感じる社会では、男性も間違いなく生きづらさを感じているはずです。
現次元の環境が変わらないのに、いくら異次元で少子化対策を行っても効果は限定的ではないだろうか?
そう懐疑的にみているのは、私だけでしょうか?

また、海外で暮らす皆さんからは、今の日本がどう映っているのでしょうか?
観光に来てもらうだけなら“安いニッポン!”で十分でしょうが、日本で働き、暮らし続けたいと感じてもらうためには、まずは日本で暮らしている私たち一人一人が、自信と誇りをもって、日々の生活を営んでいるのかどうか、改めて自問してみる必要がありそうです。

断言しますが、これからの日本は人口減少が避けられません。
現状維持にこだわるのであれば、人口減少はマイナスに働くでしょう。
しかし、現状を変える勇気さえあれば、見え方は変わります。
自分の居場所と自分なりの役割を、今よりずっと見つけやすくなる、
一人一人の個性に対してもっと寛容で、もっと生きやすい社会になる。
逆に、そんな人口減少社会をつくっていかない限り、日本に住む日本人は、文字通り“消滅”するかもしれません。

最後に、明日への希望のメッセージを添えて、終わりにしたいと思います。

NHKで放送された、あるドラマの主人公の言葉なのですが、私の今の気持ちを代弁してくれていますので、皆さんとも共有させていただこうと思います。
こんな言葉です。

“今より温暖化して少子化が進んだ未来を、どうか 目いっぱい わがままに生きて、すばらしい世界にしてください。”
私たちも、一生懸命、伴走したいと思います。

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