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袴田武史「月と地球をつなぐインフラ構築」

宇宙ベンチャー企業CEO 袴田 武史

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普段あまり意識されない方が多いかと思いますが、現在の地球での豊かな生活は、人工衛星を中心とした宇宙インフラによって支えられています。通信、農業、交通、金融、環境維持など様々な産業が衛星などの宇宙インフラに依存しており、今後IoTや自動運転などの発展に伴い、その重要性は更に高まっていくと考えられています。
我々の会社、ispaceは、2010年設立以来、地球の持続的発展のために地球と月が一つのエコシステムとなる世界を目指して活動を続けている宇宙スタートアップ企業です。
本日は、地球の持続的発展に向けた、宇宙インフラを活用した経済圏構築について話をします。

【VTR1(打ち上げ)】
2022年12月11日、米国のフロリダ州ケープカナベラルから、我々が開発する月着陸船がSpaceX社のFalcon9ロケットにより打ち上げられました。これは弊社が行う民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1として実施されました。

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月着陸船は予定航路に沿って2023年1月20日時点で地球から最も離れた地点となる約140万km地点まで航行し、現在は月周回軌道へ到達しています。
ミッション1では、4月下旬に、民間による世界初の月への着陸に挑戦します。また、我々は2022年11月4日付で、内閣府より宇宙資源の探査及び開発の許可を取得しており、この許可に基づき、NASAと契約した月資源の商取引も月面上で行う予定です。月面での採取と所有権の移転に成功すれば、世界初の月資源の商取引となります。

【VTR2(ムーンバレー)】
我々は宇宙インフラを持続的かつ効率的に構築していくための鍵として、宇宙資源の活用に着目しています。特に、月に存在するとされる水を水素と酸素に分解しロケット推進燃料の一つにすることに注目しています。宇宙インフラの構築を支え、地球に住む人々が持続的に豊かな生活を送ることができる世界を実現する。これが我々の目標です。

【VTR3(アルテミス計画)】
世界では今、月を目指す活動が増加しています。米国では2025年を目標に、1970年代のアポロ計画以降初となる宇宙飛行士による月面着陸を目指す「アルテミス計画」が推進されています。アルテミス計画は日本やヨーロッパなど世界から20か国以上が参加する国際的な月探査計画であり、2022年12月にはミッション「アルテミス1」として大型ロケットSLSで打ち上げられた宇宙船「オリオン」が月周回の航行を終え、地球に無事帰還しました。アルテミス計画では月に行くだけでなく、月に長期間滞在し、人類が月で暮らすための様々な研究や開発が計画されており、更には火星に人類を送ることも計画されています。アルテミス計画では月周回に新しい宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設が予定されており、その活動には日本人宇宙飛行士も参加することで日米は合意しています。また、将来的な日本人宇宙飛行士による月面着陸も期待されています。

宇宙開発の分野では、民間企業の活躍が活発化しています。これまでは、世界各国での政府主導による宇宙探査活動が主流でしたが、近年では宇宙技術の成熟化、電子機器などの高度化・小型化による宇宙での民生品活用の拡大、ソフトウェア技術の進化を背景に、これまでは政府主導の宇宙機関に限定されてきた宇宙事業の門戸が民間企業へと開かれてきています。
 NASAを筆頭とする各国の宇宙機関では、地球低軌道における活動等に関する宇宙関連予算の大幅な節約につなげるべく、宇宙開発に民間企業を活用する傾向が拡大しています。また、サービスを提供可能な民間企業に対して政府が発注するサービス調達の形態による宇宙探査活動も活発化しています。特に米国ではその傾向が顕著で、NASAは2008年より商業補給サービス計画を発表しており、国際宇宙ステーションへの輸送を民間企業に委託しています。この政府調達を活用し、SpaceXは事業を大きく成長させてきました。

月に関する複数のミッションが進行する中で、政府系機関だけでなく、民間企業や研究機関などには月に関するデータ取得に向けた科学探査や技術検証などのニーズがあり、我々も民間企業として、高頻度、低コストの小型輸送サービスや月に関するデータを世界中に提供することで月面開発の推進、そして宇宙インフラの構築に貢献します。

日本にとって、宇宙産業はますます重要になっていきます。豊かな生活を支える基本インフラとしても、安全保障分野でも地球の周りの宇宙空間はすでに生活を支える基盤になっています。一方で、地球周りの宇宙は既に世界的企業や複数の企業が参入しているレッドオーシャンとなっており、日本が世界の宇宙開発でリーディングポジションを獲得し続けるには、月までを視野に入れた領域に戦略的に投資をし、競争力を確立するのが望ましいと考えます。米国主導のアルテミス計画に参画するのはその第一歩です。米国はじめ民間企業を活用したスピード感ある宇宙産業の発展に日本企業が存在感を示すためにも、ぜひ日本政府にもこの分野への注力を引き続き推進いただきたいと考えていますし、より多くの民間企業がこの分野に参画して日本の宇宙産業が発展していくことを願っています。
 我々ispaceはミッション1で月周回軌道に到達するまでに様々なデータやノウハウを得ており、後続のミッションへのフィードバックを行い、2025年までに計画している3回のミッションを通して、独自開発する月着陸船と月面探査車の設計及び技術の検証と、月面輸送サービス・月面データサービスの提供という事業モデルを検証し、その信頼度と成熟度を商業化に足る水準にまで高めることを計画しています。

ミッション3では、米国子会社であるispace U.S.が、米国のチャールズ・スターク・ドレイパー研究所のチームとしてNASAの商業月面輸送サービスに採択されています。ispaceの米国子会社は月着陸船の設計を担っており、ミッション3においてさらに2機のリレー衛星を月周回軌道に投入し、一連の科学実験機器を含むNASAが依頼した荷物を月面に輸送し、アルテミス計画に貢献する予定です。宇宙開発が本格的に商業化されるこれからの時代を見据えると、継続的かつ短いサイクルでの技術及び事業モデルの進化が不可欠です。

【VTR4(ムーンバレー)】
冒頭に申し上げた、地球と月が一つのエコシステムとなる世界を構築し、宇宙インフラの活用により地球に住む人々が持続的に豊かな生活を送ることができる世界を実現するというビジョンの実現には、これから多くの課題を解決する必要があります。実証する技術力は当然のことながら、金融、法律、政策、科学、教育、環境保全など、社会システムそのものを新たにデザインしていく必要があります。そのためには、様々なステークホルダーが未来の暮らしを支える宇宙インフラの存在に関心を持ち、発展させるための地球レベルでの協働が求められます。地球上で既に様々な知見を有したあらゆる企業は、宇宙での新たな経済圏でも活躍が期待されます。
宇宙開発のあり方が変化している今、我々はこれからも積極的に世界中の様々な分野のプレーヤーと協業し、全体像を捉えて最適化するシステム的思考を重視し、地球の持続的な発展に向けて宇宙を活用する活動を推進していきたいと思います。

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