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沖一雄「衛星リモートセンシングの未来」

京都先端科学大学 教授 沖 一雄

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リモートセンシングの草分けとなった地球観測衛星Landsat1号が1972年に打ち上げられ半世紀以上たちました。Landsat1号はアメリカの衛星で農業、森林、地質、海洋、気象現象などの幅広い分野の情報を集めるために打ち上げられました。
それから半世紀が過ぎ、現在様々な国の宇宙機関や民間会社により地球観測衛星が打ち上げられ運用されています。その地球観測衛星から有益な情報を引き出すために必要な技術がリモートセンシングです。もう少し簡単に言えばリモートセンシングは、離れた場所から対象としている物体の状態をセンシング、つまり測定する技術です。
例えば人工衛星に搭載された各種センサによって、雨雲の状態や海水温などを計測している技術もリモートセンシングの一つです。これらは、天気予報や漁業などに多くの役立つ情報を提供しています。センサは人工衛星ばかりでなく、航空機、そしてドローンなどにも搭載されます。
本日は主に衛星リモートセンシングについてお話させて頂きます。

私は衛星リモートセンシングにより観測された画像から有益な情報を引き出すためのリモートセンシング手法の開発研究をおこない主に農業・環境分野での活用を研究し、実際に試しています。
そこで今日は、この半世紀の衛星リモートセンシング技術の進歩とその社会への応用に焦点を絞って話し、最後に未来のリモートセンシング技術がどう社会に役立つ可能性があるかについてお話ししたいと思います。

まず、この半世紀のリモートセンシング手法の開発とその応用を振りかえりますと大きく3つに分けられると思います。

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ひとつめは、1972年に初めて地球観測衛星が打ち上げられた当初は衛星画像を見て、例えば、グレー箇所が都市域、赤色箇所が森林域、そして水域など研究者が判読解析を行っていた時代がありました。

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その後、2つめとしまして、コンピュータの発達とともに、衛星画像データから有用な情報を引き出す解析手法の開発が盛んになります。
この画像は衛星センサの赤及び近赤域の反射率から計算される最も有名な植生指数で正規化植生指数(NDVI)とよばれるもので植生の有無やその空間変化、そして季節変化を抽出することができます。

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一方、この時代において多くの衛星リモートセンシング画像の空間分解能、すなわち画像を構成しているひとつずつの画素の大きさは数十メートルから数百メートルであるため、一画素内に複数カテゴリが混在するミクセル問題が生じます。
例えば、画像を構成する一画素内に様々な種類の植生が混在していたり、また植生被覆率や土壌被覆率、その他の被覆率が各画素により異なり、その影響によりNDVI値が変化してしまい精度良い解析結果が得られない問題点が指摘されます。

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この空間分解能のミクセル問題を解決するために、ミクセル分解手法という一画素内の各カテゴリが占める割合を算出する土地被覆計測法などが提案されています。
図は、そのミクセル分解の一例として、地球観測衛星Landsat に搭載されているTMセンサにより観測された釧路湿原のハンノキ林の被覆率分布を推定した結果を示しています。乾燥地を好むハンノキ林の増加は、湿原植生の減少を示す指標となるため、ハンノキ林分布を高精度に評価することは重要であります。この図は、一画素内のハンノキ林分布の小さな変化を高精度に抽出できており、湿原内の乾燥状態の評価に大いに役立つと言えます。

この後、機械学習などといったAI手法をはじめ多くの衛星観測データから有益な情報を引き出す様々な手法が開発され、農業、環境、災害分野などで開発されてきたモデルシミュレーションと融合、統合されていきます。
そして、今や、SDGs、気候変動、災害においてこれらのモデルと衛星データが結びついて社会課題に大きく役立ち始めたところです。

そして3つめがその衛星画像データとモデルシミュレーションとの融合による社会貢献についてです。

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"Today's Earth (TE)" は、JAXAと東京大学が昨今頻発する洪水被害の軽減を目的に、共同で開発した陸上の水循環シミュレーションシステムです。河川流量や土壌水分量など、人間社会にとって極めて重要な水に関するデータの配布と可視化を通して、災害監視や水文学研究に役立てられています。
2019年に多数の洪水被害を起こした台風19号(Hagibis)の事例についてToday's Earth (TE)での予測実験結果を検証することで、実際の堤防決壊地点142箇所中130箇所(捕捉率約91%)において、決壊の30時間以上前から警戒情報を出すことができていたことを確認しているシステムで衛星画像データも貢献しております。
今後、このように衛星画像データとモデルシミュレーションとの融合によるシステムが多く出てきて社会への貢献が期待されます。
リモートセンシングで大事なことは、データを取るだけでなく、それをいかに役に立つ情報に変換して、人々に利用してもらうかということです。
地球観測衛星は科学研究の役には立っても、一般の市民に役立つ情報を提供してくれるものはまだまだ少ないのが現状かと思います。その点、Today's Earthは先駆的な取り組みであると思います。

将来(未来)のリモートセンシング
将来的にはひまわりのような静止軌道の衛星に大きな望遠鏡を搭載してひまわりより空間分解能の高い観測ができるようになるかもしれません。
東日本大震災に関する気象庁報告を参考にすれば、観測要求から観測データの配布まで30分以内を目処に完了する必要があります。取得される観測データにより被害規模や範囲を特定する目的に十分に適合し、更に詳細な調査・観測計画や緊急避難指示などを判断するのに不可欠な情報となると思います。また、災害時以外の平時の運用でも、防災、森林、農業、海洋分野において今までの既存の衛星では実現できなかった社会的ニーズの高いシステムが提案可能であることが期待されます。
例えば、収穫時期判断が肝要である農業においては、今までの衛星で問題となる雲による観測不能な状況が、静止衛星観測により雲の少ない画像が取得できる状況に大きく改善されます。このことから平時についても特に時間変化の早い事象についてこれまでにない成果が得られる期待されます。

社会インフラとしての衛星リモートセンシング
最後に、こうした未来の衛星リモートセンシングによる地球観測がどのように変わる可能性があるか、お話ししたいと思います。
未来のリモートセンシングで大事なことは、50年前のように衛星リモートセンシング画像を見て感動するのではなく、衛星リモートセンシングデータから抽出された有益な情報を活用した地球観測システムを提案し戦略的に取り組むことが重要であると考えます。国民サイドからみれば,地球観測は,蛇口をひねると水がでる水道やスイッチを入れると電気がつくのと同様,国民が意識しないほど当たり前となって社会のインフラとして貢献することが重要となると思われます。未来のリモートセンシングは近年高速ネットワークの整備が起爆剤になりインターネットの利用により社会が大きく変革するのに匹敵する役割を持つと期待できます。

是非、衛星からの情報が当たり前で、その情報を使って、私たちの生活レベルを上げることのできる社会を実現していきたいと思っています。
ありがとうございました。

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