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坂本威午「フィリピンと日本 現状と未来」

JICAフィリピン事務所長 坂本威午(さかもとたけま)

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2月にフィリピンのマルコス大統領が就任後初めて訪日したことはご記憶にも新しいことでしょう。12月に予定される日本とASEANの友好協力50周年の特別首脳会議にも、マルコス大統領は再度訪日し、出席する見込みです。岸田総理大臣も今年、フィリピンを初訪問することでしょう。

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こうした要人往来ひとつを見ても明らかなように、二国間関係は「史上最高の高み」に到達していると言えます。
今、フィリピンは、「アジア」ひいては「世界」の安定と繁栄の為にも、そして「日本」にとっても大変重要な国となっているのです。

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フィリピンは、飛行機で僅か4時間あまりの、日本に最も近いASEANの国です。日本の命綱であるシーレーンを有し、ともに隣に台湾を控え、地政学的にも非常に重要な隣国です。
私は、「政府開発援助」、ODAを実施する「独立行政法人国際協力機構」、JICAに勤めています。
今日は、開発協力の観点から、フィリピンについてお話しします。

フィリピンとは一体どのような国なのでしょうか?
フィリピンの方々は、音楽がなるとすぐに歌ったり踊りだしたりするような、明るく親しみやすく、そして、礼儀正しくオモテナシの心を大事にする愛すべき国民性を持っています。美しいビーチなど観光地も多く、英語が公用語として話され、最近は日本人の英語学習留学も増えているように、とても魅力的な国です。

人口約1億1000万人と、ASEAN第二の大国でもあり、また、平均年齢も24~25歳と大変若く、マーケットとしても労働力としても将来性は世界有数です。

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コロナ禍にも上手く対応しており、経済状況は概ね良好です。2022年の経済成長率は7%を超えて主要国最高レベルであり、民間格付け会社の高い評価も得ています。

一方で、開発上の課題も未だ多数あります。
例えば、インフラ整備の遅れ、自然災害への脆弱性、教育・保健といった社会開発の遅れ、国内格差といった点では、残念ながらいずれもASEANで最低レベルです。

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また、ミンダナオ島のバンサモロというイスラム教徒が多い地域の自治政府の設立、及び社会安定と経済発展も難しい重要課題です。
なお、このバンサモロ和平プロセスに関しては、日本は20年以上前から一貫して、中立的で積極的な関与と協力を続けてきています。ウクライナ情勢も踏まえて、「武力や闘争に拠らない、協調と協働を通じた和平と社会安定のモデル」として、国際的にも示していくべき取組です。

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因みに、1月にJICAの田中明彦理事長はバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域を訪れたのですが、バンサモロ議会で「外国要人として初の議会演説」という栄誉に浴しました。そして、バンサモロ議会は、これまでの協力への感謝などを内容とする議会決議まで採択しました。「信頼で世界をつなぐ」とのJICAのポリシーと取組が高く評価された証左だと言えます。

フィリピンが安定して発展し、そこに日本が協力することにより、インド太平洋地域のど真ん中に位置する重要国フィリピンとの二国間関係が一層緊密化し、日本を含むアジアや世界の安定と繁栄につながることは、日本にとって計り知れない意義を持ちます。

ビジネス面でも、日本企業の活動は目覚ましく、日本経済への好影響も期待されています。労働者市場も有望なフィリピンで、先ほど述べたインフラや防災などへの課題対応は、この意味でも重要かつ急務です。

こうした課題への対応として、昨年夏に成立したマルコス政権は、積極的な政策を着々と打ち出しています。
財務大臣や国家経済開発長官などの重要閣僚に経験豊富な実力者を配置し、手堅い政権運営を進めています。父親のマルコス元大統領のイメージを重ねてみる懸念もありましたが、世論もマーケットもそうした政権運営に好感を示しています。
彼らの「自助努力」を支えるJICAの協力は、フィリピンの安定と繁栄や、アジア・世界、そして日本へのプラスの影響との観点から非常に重要だ、ということは異論を挟む余地はないでしょう。

したがって、いま日本は、フィリピン向けの協力を広範かつ積極的に実施しています。円借款事業の協力を一例としてみてみましょう。2021年度の最大の協力対象国はインドで、その実績は3200億円強でしたが、2022年度のフィリピン向け円借款としては4000億円以上の貸付契約を調印済です。これら円借款事業では、社会経済開発への寄与に加えて、多くの日本企業も受注し、日本経済への還元も少なくありません。このように、今や、フィリピンは最重要なパートナー国となっているのです。

そして、こうした協力によって、先に述べた各種課題は、翻って「成長への伸びしろ」や「ビジネスの機会」とも捉えられることになります。
例えば、JICAの民間連携事業では、中小企業を含め日本企業からの応募数も採択数も、フィリピン向けは、昨年の前回分から倍増しています。

その他にも、両国間の留学や観光などの交流も活発です。コロナ禍で中断していたJICAのボランティア派遣事業も再開しました。
このように、多重的で多層的な関係が一層強化されてきています。

マルコス大統領は、日本のことを「隣人、友人、戦略的パートナー」と呼んでいます。「トップパートナー」や、「兄弟よりも近い友人」という言われ方も現地ではよくされています。

2月に、日本大使館がマニラで主催したナショナルデーレセプションは、参加者がマルコス大統領も含めた1200名を超える大盛況でした。特定国のこうした行事に国家元首が出席するというのは、極めてまれなことです。
また、3月には、円借款事業における日本企業の契約調印式典が、マラカニアン宮殿で開催されました。これも異例と言えるでしょう。
もう一つ、3月の油流出事故では、フィリピン政府は真っ先にほかでもない日本を頼ってきました。強い強い信頼関係の証です。

このように、フィリピン側は、「日本を、JICAを、特に重視」しているのです。

第二次世界大戦時には、110万人ものフィリピンの方々が亡くなられたと言います。しかし、今ではそうした過去を乗り越え、フィリピンは世界的にも有数の親日国になっているのです。

中国との関係やシーレーンなどを踏まえた地政学上の観点からも、今、フィリピンとの関係強化が、日本の国益に叶う、ということは言うまでもありません。
 互いに尊重し、理解しあい、平和的な協力を通じて、今後の相互の信頼を高めていくべきです。

それが、フィリピンの安定と繁栄に繋がり、日本が世界で生きていく重要な一手となり、ウクライナの情勢や北朝鮮の動向など先行き不透明な国際社会へのポジティブなメッセージにも繋がります。

「揺るぎない特別な重要国であるフィリピン」。
このフィリピンに対して、日本の経験や技術も活用しつつ、これまで培ってきた「信頼」を大事にして、日本ならではの協力を進める重要な局面にあると考えます。

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