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山野則子「ヤングケアラー対策」

大阪公立大学 教授 山野 則子

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 本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもを意味するヤングケアラー。国の実態調査ではその割合が小学生の約15人に1人、中学生の約17人に1人、高校生の約24人に1人にのぼることがわかっています。学業や友人関係などに影響が出てしまうことがあると厚生労働省は警鐘を鳴らしています。今日はヤングケアラーの実態と、その対策について考えます。

イギリスでは、法定化されており、国のホームページにも「もし、あなたが18歳未満で、障害や病気や精神的問題や薬物、アルコールに関する問題を抱えている家族の面倒を見るのを手伝っていたら、あなたはヤングケアラーです」と明確に書かれています。日本では、法律の規定はありません。まず、注意すべきこととして、家族の犠牲になってかわいそうというイメージが先行することは、偏見を生むだけでなく、家族のことを常に心配している本人の気持ちと一致しないし、苦しんでいる家族を悪者にしてしまいます。それは子どもにとって悲しいことです。何らかの困難を抱えた家族を心配し気づかい、そこから逃れることができない子どもたちのこと、というように本人の気持ちを慮る、理解を生む、とらえ方が必要でしょう。

では、その実態はどうでしょうか。

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国が行った、全国規模の抽出調査において、世話の内容は、小学生6年生の回答は、「食事の準備や掃除、洗濯などの家事」が35.2%、「きょうだいのお世話や送り迎え」が28.5%でしたが、小学校の教師の回答はその逆で「幼いきょうだいの世話」が79.8%と最も高く、「家事」が19.1%でした。この子ども本人と教師の認識のずれについて、学校では家庭状況が見えにくく、教師が気づきにくいことがわかります。ずれの認識を持ち、データに基づく判断が必要です。さらに、神戸市の調査において、経済的に厳しい家庭ほど子どもが世話をしている頻度や時間が長く、世話の時間が長いほど子どもの抑うつ傾向が高くなっています。世話をしている子どもたちの割合はひとり親の方が多いという現状でした。

では、子どもたちの心情はどうでしょうか。ケアすることで成り立ってしまった家族システムのため、自分を優先することやケアから逃れることに罪悪感を持ってしまいます。それぞれの状況が違いますが、友達と遊ぶことや進路を自身の思いで決定すること、学校に行くことさえ、優先すると罪悪感に苛まれたりします。それはケアすること自体よりも苦しかったりするため、あきらめや無気力になっていきます。まさに逃れられない状況です。そして誰にも言えず、孤立した状況になる可能性が高いです。

 では、その対策はどうすればいいのでしょうか。ヤングケアラーとひとことで言ってもその状況やニーズはさまざまですし、年齢によって違ってくることも認識すべきです。ポイントを3点挙げます。

まず第1点、基本姿勢として、特別視するのではなく、つまり過度にほめたり励ましたりするのではなく、ただ聞いてくれて味方してくれていると思える安心感が重要です。世話をしていることをほめられると、つらい本音が言えなくなり、ますます無理をさせることになります。ただ聞いてくれて味方してくれるという支援は、社会福祉では伴走型支援という支援にあたり、本人の思いを中心にしながら無理せずに、半歩後ろを歩いていくような支援です。まず、ここがないと心が開けないし、次に進めず、あきらめになってしまいます。

2点目に、必要なのは情報です。情報とは、ケアの必要な大人のケア情報とヤングケアラーのための情報、両方です。ケアの必要な大人が受けることが出来るサービスや、家族本人が申請しなくても可能な支援方法の情報を家族や子どもに提示する、あるいは子どもの年齢によっては子どもが負担に思わない形でさりげなく各サービスを調整して支援プログラムに参加同行するなどして具体的に届けることが望まれます。ヤングケアラーは、家族への支援がうまくいっていないがゆえに発生しているという根本的な認識を持つ必要があります。世話の必要な家族状況を理解し、決してその方を責めることなく、子どもたちに「子どもとしての時間」を少しでも確保できるよう、柔軟で具体的な支援が必要です。例えば本来のサービスや制度につなぐまでの間の臨機応変なホームヘルパー派遣や食事の宅配サービスの提供、また車いすの押し方や生活に必要なコインランドリーの使い方など必要な事項の具体的な伝達支援が重要です。しかし、現在この問題に取り組んでいる自治体はわずかで、相談窓口設置がやっとです。「相談」の看板を掲げるだけでは子どもには届きません。

 では、どうやって発見していけばいいのでしょうか。

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現在、文部科学省からも打ち出されているスクリーニングYOSSを提案します。YOSSはYamano Osaka Screening Systemの略で、既定の項目から教職員複数名で全員の子どもを確認して、リスクのある子どもを洗いだし支援に繋ぐシステムです。これによって教職員が経験や勘でなく子どもの遅刻や忘れ物などのデータに基づいて学年会議で議論し、支援の方向性を決定するところまで導くものです。このシステムを使用して不登校が3分の1になったり、支援に繋がって遅刻や早退が70%ほど改善したりと結果が出ています。ヤングケアラーの発見も国の調査結果から不可能ではありません。こういったヤングケアラーの発見ができ、支援に繋ぐ仕組みが就学後において全数把握している学校、ここでいう学校は教師という意味ではありません。ほぼすべての子どもが通っている学校という場で取り入れることが出来ると、教職員全員にヤングケアラーの認識が深まり、自然に伴走型支援の方法も周知され、居場所などの支援に繋がる可能性が生じます。元ヤングケアラーの方々が、子どもが家族以外に接する大人の大半は教師で、教師にサインを出してきたのに助け出してもらえなかったと語られます。

 3点目に社会の認識として、人が生きていく上で誰にとっても依存先を増やすことは恥ずかしいことどころか、とても大切で必要なことであるという認識がもたらされることです。どこで困難に陥るかわからない社会において、この認識がもたらされることで、子どもにやさしい社会、また全ての人が生き心地のよい社会を創るために非常に重要なことです。
課題を挙げます。伴走型支援を行い、支援の方向性を学校で出せるスクールソーシャルワーカーですが、スクールソーシャルワーカーの国の制度として正職でないという不十分さから、スクリーニングの場に参加できないこと、例示したようなサービスや子どもたちが安心できる場がなく子どもたちに届かないことなどが挙げられます。
最後に、困難を抱える子どもたち一般に言えることですが、1人でも拾い上げないといけない使命と遂行する過程において、何十倍生まれるであろう「私はかわいそうな子」という自己レッテルについて、十分認識して、子どもを中心に考えて配慮して取り組む必要があります。

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