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尾身茂「新型コロナ対策 新たな段階へ」

新型コロナウイルス感染症対策分科会 会長 尾身 茂

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国内で新型コロナウイルスの感染第一例が確認されてから、3年になります。
日本ではこの3年間であわせて8回の感染拡大の波を経験し、第8波では死者数が過去最多となりました。
一方政府は、来月13日からはマスクの着用について屋内屋外問わず、感染リスクに応じ、個人の判断に委ね、大型連休明けの5月には季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針を決定しました。
これまでの3年間を振り返るとともに、この先、このウイルスとどう向き合っていくべきかについてお話ししたいと思います。

新型コロナの流行が始まって3年になり、多くの人々が、元の生活や社会経済の状況に戻りたいという気持ちをお持ちだと思います。ただ一方で、この病気は100年に一度の感染症です。2003年に、重症急性呼吸器症侯群「SARS(サーズ)」という病気が広がりましたが、当時、「21世紀最初の公衆衛生の危機」と言われました。中国南部で確認が始まり、飛行機を介し、あっという間に全世界に広がりました。しかし、そうした病気であっても、わずか半年で制圧に成功しました。

しかし、コロナは3年たってもまだ流行が続いています。
しかもイギリスのように80%の人がすでに感染していると推定される国でも、感染がまだ収束していません。このウイルスのしたたかな特徴ですが、自然感染やワクチンで獲得した免疫の効果が時間によって下がってきてしまいます。また、免疫をくぐり抜ける特徴を持つ変異株も出てきています。

若い人は極めて重症化しにくいというのは良い特徴ですが、感染して後遺症に悩まされる人も出てきています。直接、重症の肺炎を起こすことは最近少なくなってきていますが、循環器系に影響が出ているという知見も集まっています。この事実を正しく認識してもらう必要があります。

さて、これまでの日本の対策についてみてみましょう。
無症状の感染者から感染が広がるという特徴が早期にわかっていたので、日本では「ゼロコロナ」を目指すことはできないし、目指すべきではないと考え、なるべく感染レベルをおさえ、死亡者数を減らすことを目的にコロナ対策が行われてきました。
日本ではいまのところ、人口あたりの累積の死亡者数は諸外国に比べて低く抑えることができています。

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その理由は3つあると思います。1つは多くの市民が国や自治体の要請に応えてくれて、感染対策に協力してくれたこと。
2点目はさまざまな制約や困難な状況のなかで、保健所や医療関係者の人が頑張ってくれたこと。
そして3つ目は、いちど決めた方針を続けるのではなく、いわゆるハンマー&ダンス、つまり対策の微調整を随時行ってきたこと。そうした対応が功を奏した部分もあるのではないかと思います。
さらに、ワクチン接種が進んだこともひとつの要因だったと思います。

一方で、社会や経済へのダメージが続き、若い人にとっては、青春のかけがえのない時期に対面で授業ができなかったり、クラブ活動が制限されたりしました。

実は2009年に起きた新型インフルエンザの対応でいろんな教訓が生まれ、保健所の強化や検査体制の拡充、リスクコミュニケーションのあり方など、いま問題になっているような課題がすべて議論され、提言書にまとめられていました。しかし、せっかくの提言が、今回のコロナ対応に生かされませんでした。

今回、日本社会全体が大変な思いをしてきました。
「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ということではなく、今回の教訓を生かして、次に必ずくるであろうパンデミックに備えることが必要なのではないかと思います。

これから日本社会が目指す方向についてお話しします。
イギリスでは8割の人がすでに感染しても流行が止まっておりません。
ワクチンを打つ、自然感染するというプロセスを繰り返していくうちに、季節性インフルエンザのようなウイルスに変化していくと言うことが考えらます。ただ、ウイルスの性質が急に変化する可能性もあります。

これまで多くの人たちが、どういう人が重症化しやすいのか、どういう場面で感染が起こりやすいのか、学んできました。私たちが心がけるべきことは、学んできたことをそれぞれが工夫して、「新しい健康習慣」をみんなで作っていくことです。国のほうも、国民のみなさんが、対策を自主的に行ってもらえるような環境作りをすることが必要です。ここは国が汗をかくべき領域です。
例えば、感染している可能性が高い場合には、会社に負い目を感じずに仕事を休める環境作りなど、こういう動きを後押ししていくことも必要です。
社会経済を動かしながら、医療がひっ迫しないようにするために、市民の自主的な努力を国が支えることが重要だと思います。

マスク着用についてです。
マスク着脱については、必要性の有無を国や専門家が細かく示すというのではなく、個人の判断や選択に任せるという時期にきたと思います。しかし、マスク着用を含め感染対策を急激にやめた海外の事例をそのままならうのは、少し慎重にすべきです。

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マスクは万能ではありませんが、感染対策には一定の効果があります。マスク着用の有効性について、各国の研究を解析した結果、▼自分が感染する、また、他人に感染させるリスクが下がる、▼地域の流行状況を制御しやすくなる、という科学的知見もまとめられています。
高齢化が進んだ日本では、なるべく皆で、重症化リスクの高い高齢者たちが感染する機会を減らす配慮が必要です。例えば、混雑した公共交通機関など、高齢者を含め不特定多数の人がいて、換気が悪く、感染リスクの高い場面では、他人に感染させない配慮をもってマスクの着用を判断してほしいと思います。また、地域の感染状況も踏まえていただきたいと思います。

今後のワクチンですが、すべての世代に対してことしの秋から冬にかけて接種を準備すべきだという基本方針がまとめられています。まずは高齢者などの重症化リスクが高い人を第一の対象とする方向で考えられています。

政府は、5月8日から新型コロナを「5類」にすることを決定しました。この決定を受けて、私たちは、「5類」に変わることで、予期せぬ影響が出てくる可能性など、しっかり考えていく必要があります。例えば、いま5類に変えると、個人の医療費の負担が増える可能性があり、これにどう対処するか考えないといけません。「5類」になるとどういう良いこととネガティブなことがあるのか考慮した上で、新しいステージにのぞまなければなりません。

最後に、この感染症への見方が、一般の人々と医療関係者との間で異なってきているという状況をお伝えしておきたいと思います。
医療関係者は、毎日のように感染者や亡くなる人を見ています。しかし一般社会では、特に働き盛りの人たちにとって、近いところでコロナに感染した人が亡くなったという事態に触れる機会は少ないと思われます。一般の人と、医療関係者とで状況の見え方が違っているのです。しかし両方とも真実です。どこからものを見るかで、見える景色が違ってくる。市民がどう考えるか、医療関係者がどう考えるか、簡単に結論を出すのではなく丁寧な議論・説明が必要です。それぞれの当事者にとって「これなら分かる」という納得感と共感がある説明がこれから求められるのではないかと思います。  

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