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賀来満夫「第8波 同時流行に備える」

東北医科薬科大学 特任教授 賀来 満夫

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変異株オミクロン株により第7波として過去最大の感染拡大となった新型コロナウイルス感染症は現在、下げ止まりの状態にあり、今後、冬に向けて、第8波としての感染の再拡大、そしてインフルエンザとの同時流行が懸念されています。
我が国では、全数把握の見直しや療養期間の短縮、入国時の規制緩和などが相次いで方針として示されていますが、世界に目を向けてみますと、ヨーロッパのドイツやイタリア、フランスなどで、再び感染が再拡大してきており、マスク着用の規制強化などの動きが出てきています。
このような状況のなかで、今後、私たちはどのように新型コロナウイルス感染症に向きあっていけば良いのか、まず、新型コロナウイルス感染症の今後の動向とその動向に影響を与える要因についてお話しするとともに、第8波への対応のポイント、インフルエンザとの同時流行についての課題などについてお話ししたいと思います。

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これから冬に向けて、新型コロナウイルス感染症の動向は予断を許さない状況にありますが、その動向に影響を与える要因として、大きく3点あると考えられます。
 まず、1点目は変異株の動向です。

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第5波の感染拡大は、アルファ株よりも伝播性の高いデルタ株によっておこり、デルタ株よりも伝播性が高いオミクロン株BA.1、BA.2によって第6波が、さらに伝播性が高まったBA.5によって第7波がおこるなど、感染拡大には新たな変異株が関係しています。
現在の主流はBA.5ですが、注目されているのは、BA.2.75、BA.4.6、BF.7、XBB、BQ.1.1などの変異株で、その動向に注意し、監視していく必要があります。

 2点目は、ワクチンや自然感染による免疫力が社会全体で、どれだけ維持されているかという点です。新興感染症である今回の新型コロナウイルス感染症では、特に、ウイルスの細胞への侵入を防ぎ、感染発症を阻止する中和抗体:液性免疫の重要性とともに、重症化を阻止する細胞性免疫が重要であるとされ、特にワクチンを3回接種することで、感染発症阻止効果、重症化阻止効果などが強まることが分かってきました。

3点目は、ワクチンとともに、基本的な感染対策が継続的に守られているか、そして免疫を持たない人達が感染リスクの高い行動をいかに回避できるか、という点です。
 本年6月にNature Communicationsに発表された論文では、新型コロナウイルス感染症を制御するためには先に述べたワクチンとともに、感染対策が重要で、ワクチンによって38%、感染対策によって35%、感染が減少するとのデータが示されています。

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この論文のデータからも明らかのように、新型コロナウイルス感染症制御のためには、3密を避け、マスク着用、手洗い、換気などの総合的な感染対策を継続して行っていくことが重要です。
また、加えてワクチン接種が2回にとどまる人や、ワクチンを接種してから長い時間が経っている人などの免疫を十分保持していない人は特に、感染リスクの高い行動を避けていくことが重要になってきます。
さて、先にお話ししたように、この冬に向けて、日本でも第8波が懸念されています。

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この第8波の感染の波をできるだけ少なくしていくためには、先に述べた感染の動向に影響を与える要因であるワクチン接種と感染対策の意義を十分に理解していくことが重要で、まずは、3回目、4回目のワクチン接種を受けることで、国民全体の免疫力を維持・補強していくことが重要です。
次に、この冬に向けて、これまでと同様に3密の回避、マスク着用、手洗い、換気などの感染対策を継続して実施し、今後、さらなる規制緩和が進むなかで、感染につながるリスク行動を確実に避けていくことが重要です。
また、加えて、新型コロナウイルスに効果がある治療薬には、現在、経口の抗ウイルス薬や注射用の抗ウイルス薬、抗体薬などがありますが、これらの治療薬を日常診療の現場でより早く使用できるようにすることが重要で、そのことで重症化を防ぎ、少しでも、亡くなる方を少なくしていくことが求められます。
今年、南半球オーストラリアでは、過去2年間みられなかったインフルエンザの流行がみられました。この流行をもたらしたインフルエンザウイルスは、死亡や入院が増加するA香港型(H3N2亜型)が約8割であり、国立感染症研究所が調査した、昨年夏に採取した血清でのA香港型に対する年代別の抗体保有率が低くなっていることが明らかとなっています。このため、今年の冬は、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行が発生し、多くの人が発熱外来を受診し、これまでにない規模で、医療体制が逼迫することが懸念されています。

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今回、国は新型コロナとインフルエンザの同時流行に備えた外来診療・療養の流れを公表しました。
その流れ、フローチャートでは、子供、妊婦、基礎疾患のある方、高齢などの重症化リスクの高い方々と重症化リスクの低い方に分けて、診療の流れを示しています。
 この国が示したフローチャートはわかりやすい内容となっていますが、実際の医療現場で現実的に対応できるかどうか、また、多くの国民の方々が実際に発熱した際に、この流れに沿って、行動できるのか、さまざまな課題や問題点があります。
オンライン診療などは、いまだ普及しておらず、電話での相談も、感染拡大時にはつながらないこと、などから救急搬送の要請が多くなることが予想されます。
そのため、今後、受診・診療の流れなどに関して、国民へ丁寧な説明を行い、しっかりと理解していただく:リスクコミュニケーションが重要であると思われます。
最後に、東京都の取り組みを紹介したいと思います。
 東京都では、新型コロナとインフルエンザとの同時流行に備えて、さまざまな課題と、対応の方向性について議論していくことにしています。

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その内容は、発熱患者が急増した場合に、発熱外来を受診する患者を重点化するため、診療・検査医療機関を更に拡大、陽性者登録センターの能力を引上げること、インフルエンザ受診や治療薬を希望する患者に対応するため、オンライン診療の拡充や抗インフル薬を迅速に受領する仕組みを構築すること、通常医療との両立や高齢者向け病床を確保するため、第7波を踏まえた必要な病床の確保や高齢者等医療支援型施設を開設すること、新型コロナウイルス・インフルエンザのワクチン接種を推進するため、高齢者施設等入所者の5回目のオミクロン対応ワクチン接種を促進するとともに、インフルエンザワクチン予防接種補助などを通じて、インフルエンザワクチンの接種も併せて促進していくことなど、まさに重要なポイントを取り上げています。
この冬の、新型コロナウイルス感染症の第8波、そしてインフルエンザとの同時流行に対して、積極的なワクチン接種、継続した感染対策の実践、そして、医療現場における感染症診療のスムーズな対応を行っていくことが重要となります。
そのためにも、国民の方々の理解、連携協力につながる、しっかりとした、リスクコミュニケーションを行っていくこと、そのことが鍵になっていくものと思われます。

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