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仲本千津「ウガンダで目指すジェンダー平等」

社会起業家 仲本 千津

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 アフリカ大陸の東の内陸に位置する、世界三大湖の一つであるヴィクトリア湖に面した国ウガンダで、私は現地の女性たちと一緒にモノづくりをしています。年中初夏の軽井沢のような気候で緑にあふれたこの国で、女性たちと仕事をする中で私が感じる、ジェンダーにまつわる現状と課題について今日はお話したいと思います。

そもそもなぜ私がウガンダで事業を行うことになったのか、そこからお話させてください。

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国際農業N G Oに勤務していた私は、2014年にウガンダへ駐在することになり、その地を踏むことになりました。そこで一人の女性ナカウチ・グレースと出会いました。
彼女は4人の子どもを抱えたシングルマザーで、ウガンダの首都カンパラの郊外に暮らしていました。しかし、彼女の月々の収入はたったの10ドル。
ウガンダの平均月収は60ドルと言われていますが、それをはるかに下回るレベルで、子どもたち4人を育てるには十分とは言えない収入しか得ていませんでした。運よく土地を借りることができ農作物を育てることができたため、食べるものには困りませんでしたが、子どもたちを継続的に学校に通わせたり、適切な医療にアクセスしたりすることは難しい状況でした。

急速な経済発展が進むサブサハラアフリカでは、同時に人々の間に格差が広がりつつあります。ウガンダの女性たちの置かれた立場も同様に、二極化が進行しています。都市部に暮らす富裕層においては、実は日本以上にジェンダーバランスが取られ、女性が仕事をする環境が適切に確保されています。

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2021年のワールド・エコノミック・フォーラムが発表したジェンダー開発指数では、日本が世界156カ国中120位だったところウガンダは66位と、日本よりも上位につけました。例えばウガンダの国会議員の34%は女性で占められていたり、大きな組織の経営層を新たに採用する際にはジェンダーバランスが必ず考慮されます。また優良組織に勤める女性たちは3ヶ月で産休から復帰し、ベビーシッターを雇い、地方出張などにも帯同させ、授乳をしながら仕事を行うという働き方をしている人もいます。

しかしこれはウガンダ全体のほんの数パーセントの人々の置かれた環境で、その他多くの女性たちは、伝統的な価値観の中で日銭暮らしを余儀なくされています。
農村部ではまだまだ男尊女卑の考えが根強く残り、家庭内の意思決定権は男性にあります。圧倒的に男性の力が強い中で家庭内暴力なども生じやすく、女性が弱い立場に置かれています。
また結婚に対する概念も日本に比べ緩く、ムスリムに限らず一夫多妻制が認められていることなども相まって、家族間で問題が生じたり、HIVや紛争によってパートナーを亡くしたりなどさまざまな理由から、女性が子どもたちと共に家を出て母子家庭となるケースが多く見られます。
17歳以下の子どもたちの中で母子世帯で暮らす子は全体の20%と、日本の約3倍となっています。

都市部における就職事情も厳しいです。
ウガンダは、14歳以下の若者が半分を占め、日本の人口ピラミッドとは真逆の形をした、非常に若い国です。多くの人が「今日よりも明日、明日よりも明後日、生活は良くなる」と信じて、エネルギッシュに生活しているようにも見えますが、日々の生活は厳しいのが現状です。
大学まで進学できる若者は全体の5%ほどで、大部分は経済的もしくはその他の理由で高等教育を受けることができず、ドロップアウトしてしまいます。定期的な収入を得られるいわゆるオフィスワーカーの職種につくことができる人は、有名大学を卒業した人のほんの一部です。つまり大部分の人は、日銭稼ぎを余儀なくされ、その日暮らしをすることになるのです。

教育をまともに受けられず、何らかの事情で子どもを抱えて都市部にやってきた女性たちがまともな暮らしを送れるかと聞かれれば、答えはノーです。
農村での暮らしとは異なり、家賃や食費、医療費、教育費などあらゆる生活コストの負担が女性たちにのしかかり、非常に厳しい状況に追い込まれることは想像に難くありません。最終的にはセックスワーカーとして数百円の稼ぎのために仕事をせざるを得ない状況に
陥る人もいます。

私はこの現状を目の当たりにし、高等教育を受けていなくても、技術ややる気さえあれば生活を向上させられる環境をまずは作りたい、ひいては現時点で技術など持っていなくとも誰もが仕事につくことができ、安心して生活のできる環境を作りたいと考えるようになり、現地で会社を興すことにしました。

(VTR:仲本さん 現地での取り組み)
始めは私に加え3人の女性でスタートした小さな会社でしたが、現在では20人規模の縫製工房となりました。通常ものづくりを行う人は、出来高制で雇用されることが多いのですが、私は正社員で雇用することにこだわっています。
定期的な収入を提供することで、それまでは一日一日を生き抜くのに必死だったのが、長期的に人生の計画を立てられるようになり、貯蓄をするなどの行動変容が見られるようになりました。また緊急時の無利子ローンの提供や医療費の一部補助などの仕組みを構築したことで、子どもたちを継続的に学校に通わせることができるようになったり、親戚などの暮らしを支えたり、彼女たちが一家の大黒柱となって家族を支えるようになりました。
このような目に見える変化も嬉しいのですが、何よりも、彼女たちのマインドセットが変わったことが、私にとって大きな意味を持ちました。

入社する前は、大きな縫製工場の劣悪な環境下で働いていた彼女たちは、満足な収入を得ることができず、日々の生活の支払いに追われ、周囲に頭を下げながらお金を借りざるを得ないような厳しい生活を強いられていました。「自分が教育を受けてこなかったせいで、子どもたちにこのような惨めな生活をさせてしまっている」と自分を責める日々でした。
それが仕事を通じて定期的な収入を得たことで、家族を支えることができ、子どもたちを学校に通わせることができ、また日本のお客さまを喜ばせる商品を作ることができたなどの自負心や自信が芽生え、彼女たちの自己肯定感の向上にもつながったと感じています。「ものづくり」をしようと思い興した事業が、結果的に「人づくり」につながっていることを実感する日々です。

私はこれからも、一人でも多くの女性たちに仕事を提供することで、彼女たちの生活向上のみならずマインドセットの変化を生み出していきたいと考えています。
ウガンダのジェンダー平等、特に生きづらさを感じている低所得層の女性たちの生活を向上させるには、現地に雇用の受け皿を作り、持続的な経済成長を促すよりほかありません。但し、これまでの大量生産・大量消費モデルに則り、生産効率を追求するあまり働き手を劣悪な環境下で働かせることは、問題の解決になりません。
一人ひとりの働き手を適切に経済活動に巻き込み、能力を発揮できる環境を整え、時に企業が社会的セーフティーネットなって生活を支えながら共に成長すること、そのような考えを持つ民間企業を増やす努力をすることで、ジェンダー平等だけでなく貧困の削減にも貢献できるものと考えています。

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