NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「ロシア不安定化の懸念」(視点・論点)

外交評論家 河東 哲夫 

s220420_001.jpg

きょうは、いまウクライナで起きている戦争なんですけれども、これが今後のロシアの情勢をどういう風にするかという事についてお話したいと思います。それからそのことが日本にどういう意味を持っているのかについてもお話したいと思います。

s220420_003.jpg

今起きている戦争が今後どういう風に展開していくかという事なんですけれども、どういう風に収拾されるかということですが、今ロシアは、いわゆる東ウクライナを全部おさえようとしているわけです。それができるかどうかはわかりませんけれども、多くの人たちが考えるところでは、もし東ウクライナの制圧に成功したとしても、それを長期にわたって保持していくのは難しいのはないかといわれております。東半分、東部のウクライナというのはハリキウ、ルガンスク、ドネツクなんですけれども、そこを抑えたとしても、ウクライナ本体との境というのは平原ですから、そこでずっと停戦状態が保たれるという保証はないわけです。それから、西方に残ったウクライナの本体ですが、ここはたぶんそういう事態になればNATOに入るでしょう。NATOに入らなくても、ロシアに取られてしまった東のウクライナへの攻勢は続けると思いますので、今回の戦争の結果はなかなか本格的には収拾しないだろうと思います。

その一方、ロシアがどうなるかといいますと、現在すでに、年率で1年間で15%のインフレということになっておりますけれども、これは年末までには20%ぐらいに達するんだろうと思います。生活の実感からいきますと30%を超えるでしょうね。特に貧困層が困ることになると思います。それから政府のほうは、石油とガスの収入がどんどんこれから減っていきます。EU等がこれからロシアの石油・ガスの輸入を減らすからです。そうしますと政府も困る、それから企業のほうは、先端の技術が西側からもう来ませんから、禁輸がかかっていますからそうしますとロシアの経済っていうのはこれから右肩下がりになっていく可能性が十分あります。

その中でロシアは2024年に、大統領選挙を迎えるわけですね。

s220420_004.jpg

プーチンは、5選目をやろうというふうにこれまで考えていましたけれども、これだけ、まあたぶん生活が苦しくなってくると、5選目は難しくなるだろうと思います。

プーチンがそういう方には思わなくても、彼を支えている“シロビキ”、いわゆるシロビキ、これは公安警察であるとか軍であるとか警察とか。いわゆる、力を扱う人たちですけれども、この人たちがプーチンをみこしに担いでいても当選できないかもしれないと、そうすると自分たちが力を失ってしまうと思いますから、違うみこしを担ぎ出すかもしれません。それが誰かっていうのはまだ分からないんですよね。だけれども、適当な人がどうもいないのではないかと思います。

シロビキの眼鏡にかなう人は国民の眼鏡にかなわないだろうし、それからその他としては共産党の候補っていう可能性もありますけれども、それでもおさまらないかもしれない。

そういうふうになりますと、モスクワの権力がちゃんとしていないと地方の方が何をやるかっていいますと、これは1991年ソ連が崩壊する前に起きたことですけれども、地方が、いろんな州がありますけれども、これが中央に税収を、税金を送金しなくなるわけですよね。自分たちでお金を使うようになります。それから、自分たちで大統領だというふうに唱えて、いろんなその国家の主権に等しいような権限をどんどん取り始めます。

まあこういうふうにして、ロシアが空洞化するっていうのかな、分離傾向を強めるおそれがあると思うんです。

ロシアというのは基本的に、ソ連と同じなんだけれども、植民帝国ですから、ウラル山脈から東の方はロシア人の白人の地域ではなかったわけです。これを力でもってどんどん治めていったのがロシアの歴史なんですけれども、こういったところに今でも住んでいるイスラム系であるとか、それから、アジア系の人たち、この人たちが独立傾向を強めますとロシアっていうのは、魚の骨みたいな国ですから魚の背骨に相当するのがシベリア鉄道であって、そのシベリア鉄道を途中で塞がれてしまうわけですよね。そうしますとロシアは東西に分裂気味になります。

こうなりますと、周辺の方の安定にも及ぶわけです。
まずその中国がこういった不安定になったロシア、こう何て言うのかなお荷物になりますしね。それからもしかするとその極東ロシアでの不安定が中国にも飛び火するかもしれないと思うかもしれない。

s220420_005.jpg

そうすると中ロ関係はこれからどうなるかはわからない、と思うわけです。それからまあ周辺というふうに申し上げましたけれども、これは中央アジアであるとか、それからアゼルバイジャン、アルメニアのコーカサス地方の諸国、これはもうロシアは頼りにならないと思い始めています。ロシア軍がウクライナでずいぶん負けましたから、それから頼りにならないどころか怖いと、ロシアってのは何かあると軍でもって攻めてくる国だというふうに思いますと、周辺諸国もロシアから離れていくかもしれない、と思います。

最近の、ウクライナにロシア軍が出たことを見ていますと、我々にとっては信じられないんですよね。文明国なのに、いきなりその他の一応文明国と思われているところから、兵隊が攻めてきて、撃ち殺すと、そういったような同じようなことを我々もやられるのではないかというような、恐怖感を持っておられる方多いと思います。極東のロシア軍に対する恐怖感ですね。ただこれは、あんまり極度に恐れる必要はないだろうと思います。

例えば、極東のロシア海軍の主な軍艦の数を数えてみますと、駆逐艦以上の船というのは7隻ぐらいしかないわけです。ロシアの太平洋艦隊は本当に弱体ですから。それに対して海上自衛隊の駆逐艦以上、護衛艦以上のクラスの船は70隻ぐらいあります。10倍あります。

ですから、海の兵力を考えただけでも、ロシアは脅威ではないんです。ですから、極東のロシア軍に対して、我々は過大に反応する必要はないと思います。

そういう中でその日本の立ち位置なんですけれども、これはやっぱり現在、ロシアに対して制裁をやっているのは、これは必要なことなんで、日本がやらなければいけないことはやっぱりまあいわゆる、西側って言われますけれども、これはその近代文明の諸国ですよね。ちゃんと産業革命を経た。この中の一員であると、いうことを日本は明確に維持していかなければいけないとは思います。ですから、そのロシア制裁に、サボるようなことをやって、日本はけしからん国だというふうに近代文明諸国から思われないように、制裁にも加わっていかなければいけないとは思います。

ただその中で、まあ話はちょっと違うんですが、世界はその近代文明諸国、それから中国、ロシア、インドだけでなっているわけではないので、途上諸国が非常に多いんですよね。
でこういった諸国が近代文明諸国の立場を支持してくれるように、我々はいつも配慮していかなければならないわけです。

これは、経済援助であるとかそれから直接投資、これをもっとどんどんやってですね、途上諸国の気持ちを近代文明諸国の方に引きつけておかないといけないと思います。

それから、日ロ関係なんですけれども、現在、日本の企業がロシアから引くとかそういう話がありますけれども、これまで我々が築いてきたロシアでのいろんな獲得物っていうのはこれは大変なものなんですね。資産です。サハリンの天然ガス、石油、これも大変なお金を使っていますし、こういったものは大事にしなければいけないと思います。

あとは日本におられるたくさんの、正直なロシア人たちもいっぱいいるんですね。
こういった人たちを大事にしていかなければいけないと思います。
ありがとうございました。

関連記事