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「コロナ時代のコミュニケーション術」(視点・論点)

宝塚大学 教授 竹内 一郎

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 2020年以降、猛威を振るう新型コロナウイルスは、私たちの生活を激変させました。
とりわけコミュニケーションのスタイルは一変しました。
 先ず、人に会うこと自体が困難になりました。おしゃべりもマスク越しで不便です。会話に不可欠の「非言語コミュニケーション」。表情、言葉の抑揚、アイ・コンタクトで伝えていた「あ・うん」の呼吸が減ってしまいました。
一方で、リモートワーク、オンライン授業が急速に普及しました。満員電車に乗るストレスが減り、自由な時間が増えた反面、アプリや通信の不具合によるストレスも増えました。
  
 今日は、コロナ時代のコミュニケーションのノウハウを、対面、リモートの両面からお話ししたいと思います。

先ず、対面からお話しします。

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人はマスクを付けて話すようになりました。それぞれヘアスタイルだけを変えた顔ですが、マスクを付けると、さらに伝わる情報が減るのです。人が感情を表現する部位は、顔の中で、眉と目と口の三つです。口の動きが見えなくて、前髪で眉が隠れていれば、相手の気持ちは読みにくいものです。

日本人は、もともと表情による感情表現が大きい国民ではありません。
 また、最近の若者には、子供のころからゲームやスマホを長時間やっている人も多く、表情が豊かでない傾向があります。
 最近、大学で、自分は怒っていないのに、「怒っているの?」と訊かれたことがある学生がいるか、アンケートをとりました。少ないクラスでは約7%。多いクラスでは約15%が、そんな経験を持っています。自分の表情に無自覚な人が増えています。
 なるだけ、目を細めて、笑っている感覚をキープしましょう。また、頷きを適度に入れえると、気持ちの変化も出て、表情も付きやすくなります。
「心の窓」である目を、より有効に使って、気持ちを伝達したいものです。

 普段はマスクをしていますから、口が動かしにくいものです。こういう時こそ、一音一音を、はっきり言う習慣を付けるとよいでしょう。

次に覚えていただきたいことは、「話す前に、最も大切な情報を整理しておく」ということ。「この情報は、明日の17時までに完成させてください」という文章なら、「明日の17」が最も大切な言葉です。だから、「明日の17」のところを強調して、相手に伝えることが大事です。

普段、早口の人は、マスク越しだと、より言葉が伝わりにくいものです。
早口の人向けの、即効性のある心がけを、一つ教えます。小学校一年生の担任になったつもりで話すのです。「皆さんは、今日から小学生です。真新しいランドセルが眩しいですね」
ゆっくりと「抑揚」をつけて伝える気持ちを持ちましょう。自然としゃべる速度が遅くなります。

声の小さい人は、耳の遠いおばあちゃんがいて、「おばあちゃんに話すつもり」で話します。「おばあちゃん、歯医者さんに、入れ歯のここが顎に当たるから、痛いっていうんだよ」。
マスクがなければ簡単に伝わったことが、伝わりにくい社会になりました。
マスク時代の今は、自分の伝達力を上げる勉強の時間でもあるのです。

次に、リモートワーク、オンライン授業で注意することをお話しします。リモート社会になってよくなったことも沢山あります。通勤ラッシュがなくなったこと、無駄な会議・朝礼が減ったこと。長すぎる雑談。紙の資料。ハンコ文化や電話の取り次ぎなど。

一方で、課題も出てきました。「同僚とのコミュニケーションが減る」「時間管理が難しい」「つい仕事以外のことをしてしまう」「運動不足になる」「集中力が続かない」「上司に仕事をしていないと思われるのではないかと心配になる」「孤独を感じる」などです。
リモートワークは「自己責任」の世界だといえましょう。
「個」が確立されていることが前提の社会とも言えます。

とはいっても、すべての人が一律にリモートワーク、オンライン授業の社会にいます。
皆が適応できなくてはなりません。
これから技術的に解決できることをお話します。
WEB会議で困ることは、「発言のタイミングがつかみづらい」「相手の表情を読み取りづらい」。これが一位と二位で、それ以外は音声の問題です。

発言のタイミングに関しては、自分が話し終えた時に、「以上です」を付ける習慣があると、次の人が話しやすくなります。

また、オンラインは、画像の動きにライムラグがあるので、表情が読みにくくなります。眉を大きめに動かして、表情を豊かにすると、伝わり易くなります。
音声に関しては次にまとめます。

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この写真は、私のオンライン授業用のセットです。ノートPCは、台に載せると、姿勢が悪くなりません。手前にマイクがあります。安価なものでも、マイクを使うと音質が向上します。PCの右側にスマホを載せる台があります。オンライン授業の時には、学生と同じ画面、つまり学生が見ている画面をスマホで開きます。私が共有画面を開いたときに、「共有画面見えていますか?」と訊く時間が省けます。また、不具合があったときに、送信側の問題か、受信側の問題かがすぐにわかります。

スマホの後ろに大きめのスピーカーが置いてあります。私は、遠方にいる、年老いた母とリモート面会をやっています。母のPCにも、性能の良いマイクを付けているのですが、それでも声が小さくて、聞き取りにくいことがあります。そんな時に、スピーカーで声を大きくすると、聞きやすくなります。マイクとスピーカーの性能を上げると、音声の問題がかなり解決します。

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このように、キー・ボードをPCの下にしまうと、ノートを広げて、書きものをすることができます。

オンライン会議の時には、最初と最後は「生の声」を出し合うのがよいでしょう。「おはようございます」「お疲れさまでした」と、生の声を聴くと、お互いの安心感が増すものです。

オンライン会議で、手に持っている紙を読んでいる人の中には、下を向いている人もいます。顔も情報ですから、正面を向きましょう。

部屋が暗くて相手の顔が見えにくいことがあります。部屋の明るさは必要です。

オンライン会議は対面より疲れます。理由は「映像疲れ」です。音声や映像には、間断なく「ズレ」が生じます。それが現実との不調和を生み、脳に負荷をかけています。
スタンフォード大学の、ジェイミー・ベイレソン教授は「ズームアップされた表情は、見ている人に無意識のうちに圧迫感や恐怖感を与えている」という研究結果を発表しています。アクション映画を見て、俳優の顔に圧迫感を覚えるのと同じ原理です。

コロナ禍による劇的なオンライン環境の変化は、働き方改革を促進しました。コロナ禍を災い転じて福となすには、やはり私たちの知恵が必要です。工夫して、よりよい職場環境、学習環境を作っていきたいものです。

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