NHK 解説委員室

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「大人になるということ」(視点・論点)

作家 鈴木 るりか

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 この4月から民法改正により、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことについて、お話させていただきます。

 この改正により、現在18歳19歳の人は、4月1日一斉に成人になりました。私もその一人です。この「18歳から大人になる」という話は、かなり前、中学生ぐらいの時、耳にしてはいましたが、今ひとつ実感がありませんでした。
でもここに来て現実となり、「やっぱり本当にそうなったんだ。大丈夫かな」という戸惑いや不安を感じているのが正直なところです。
 20歳が成人だった頃は、多くの方は高校を卒業し、進学や就職をした先で、二年かけて成人になる準備をしていったのだろうと想像します。その猶予がいきなりなくなってしまったわけですから、私のように不安や戸惑いを感じている方もいらっしゃると思います。
 私は3月に高校を卒業しましたが、在学中、この件に関して、先生がお話をしてくださったり、プリントや冊子が配られたりしました。けれどその時は進路のことで手一杯で、とりあえずこの事は私の中で、後回しになっていました。

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改めて、成人年齢が18歳に引き下げられたことにより、何ができるようになったのか、どこが変わったのか見てみますと、親の同意がなくても、携帯電話の契約やローンが組める、クレジットカードが作れる、一人暮らしの部屋が借りられる、10年間有効のパスポートの取得、国家資格の取得が可能、女性の結婚年齢が16歳から18歳に引き上げられる、性同一性障害の人が、性別の取り扱いの変更審判を受けられる等があり、飲酒や喫煙、公営ギャンブルは、これまで通り、20歳になってからです。
この中で特に注意したいのが、親の同意なしに、いろいろな契約ができるようになることです。クレジットカードやカードローンで借金をする契約も一人で出来てしまうわけです。
これにより社会経験の未熟な新成人をターゲットにした悪徳業者との接触が懸念されています。
これまでは「未成年者取消権」があり、未成年者が親の同意を得ないで結んだ契約は、親か本人がその契約を、原則、理由なしで取り消しができました。しかし成年になると、この取消権が使えません。現在消費生活センターに寄せられる消費者トラブルは、成年となった20歳、21歳の相談件数が急激に増加しています。この層が、より経験値の低い新成人18歳、19歳にシフトされ、消費者トラブルが更に増えることが予想されます。
 では私たち新成人はどうしたらよいのか? まずはそういう悪質な業者がいること、彼らがどのような手口で近づいて来るかを知り、もし関わってしまった場合には、どうしたらいいのかという手立てを考え、様々なケースに対応できる防衛力を自らに蓄えておくことが大事だと思います。先輩や知人などのつながりを利用して誘われた場合も、きっぱりと断る力と覚悟を備えておく。しかしそれでもトラブルになってしまった時は、相談できる窓口があることを知っておく。このようにして私たち新成人も、自身の防衛力・対応力を高めておけば、おおごとになる前に防げることも多いと思います。
 
では18歳成人の良い点はなんでしょうか? 日本は長い間、20歳を成人としてきましたが、先進国の多くは18歳を成人としていることから、決して無理な年齢設定ではないのだと思います。先に決めごとがあり、それを意識することで、自立を促し、精神的な成熟を促進させる面もあると思われます。私たちの世代は、ちょうどその変わり目に当たったので戸惑いがありますが、これが例えばもっと小さい頃から「18歳が成人だよ」と教えられて育てば、成人となる心構えも余裕を持ってできるでしょう。それが当たり前になれば、「昔は20歳が成人だったんだって」「へえ」というような会話もなされるかもしれません。こうして日本が世界標準になるのは良い事だと思います。

 しかしそもそも「大人」とは、どういう人でしょうか。「今日から大人です」と言われても、いきなり別人になるわけではありません。日々のニュースなどを見ていると、何かことが起こった時、世間的には、人の上に立つ、要職に就いている人でも、妙に子供じみた言い訳をしているのを目にします。大人なのに、子供の喧嘩みたいなことをしている人もいます。大人の成熟度にも、個人差があるといったところでしょうか。

私が考える「理想の大人」は、「自分で蒔いた種は自分で刈り取れる人」です。
自分の言動に責任を持ち、何かしでかしてしまった時には、冷静な判断力できちんと適切な行動・後始末ができる人です。
しかしこうなるまでには経験が必要で、苦い思いをしたり、失敗したりして学ぶことも多い。「転ばぬ先の杖」を用意することも大事ですが、転んでわかることもあるし、転ばなければ見られなかった風景もあると思います。
最初にあげた「消費者トラブルにどうやって備えるか」と、矛盾するようですが、どんなに用心しても、人間は失敗するものなのです。

 小説は失敗した人を描いている、といわれます。
確かに、『舞姫』の豊太郎も、『坊ちゃん』の坊ちゃんも、『異邦人』のムルソーも、みんないい年の大人なのに、失敗しています。私の書く小説にも、何かしらしくじってしまった大人が度々登場します。
先ごろ出した『落花流水』にも、周りからは「理想的な大人」と思われていたのに、取り返しのつかない過ちを犯してしまう人が出てきます。でもその後も人生は続きます。子供の何倍も大人として生きなければならない。私も大人になっても、間違い、失敗し、悩み、それでも少しでも自分が考える「善い大人」に近づけるよう、もがきながら歩んでいくのだろうと思います。結局完璧な大人になれなかったとしても、そこに向かって試行錯誤する過程が、人としての成長なのだろうと思います。

 最後に、一足早く大人の世界で仕事をしてきた私が感じたことを少しお話させていただきます。私が飛び込んだのは出版界でしたが、一冊の本には、こんなにも多くの人が関わっていて、その人たちの手を借り、助けられ、ようやく世に出せるのだ、と知りました。本だけでなく、暮らしの中にあるすべてのものがそうなのだと改めて実感させられました。考えてみれば、交通も販売も流通も医療も教育も福祉も、世の中は大人が支え、回している。大人の働きがなければ生活が成り立ちません。何かと物事を斜めから捉えがちな私でも「なんだかんだ言っても大人ってさすがだな」と素直に感じます。そのような大人の仲間入りをするかと思うと、責任感と緊張感で背筋が伸びる思いです。

 そんな大人の皆さんにお願いがあります。若さというのも、諸刃の剣で、若いというので注目され、評価されることもあれば、「若いからダメだろう」と端っから決めつけられることもあります。同じ発言をしても、若いと「生意気だ」と言われることもあります。

どうかこれから世に出る新成人が萎縮しないような、のびのびと活躍できるような社会、出る杭を温かく見守ってくれるような寛容さのある社会にしていただきたいと思います。
 この春から、初心者マークをつけた成人になる者の一人としてお願いいたします。

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