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「国際エネルギー情勢の行方」(視点・論点)

日本エネルギー経済研究所 専務理事 小山 堅

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 ウクライナ危機の下でロシアのエネルギー輸出の先行きに不安感が高まり、原油価格などエネルギー価格が高騰しています。今後、ロシアのエネルギー供給が大きく低下するような場合、国際エネルギー市場は一気に不安定化し、欧州や日本などにとって、エネルギー安定供給に重大な問題が発生する可能性も懸念されています。この事態に直面し、世界的にエネルギー安定供給が重視されるようになっています。日本は、今後、脱炭素化を進めると共に、市民生活や経済活動にとって必要不可欠なエネルギーの安定供給確保の取組みを改めて強化していく必要があります。

 2月24日の軍事侵攻開始以来、ウクライナで激しい戦闘が続いています。ロシアの攻勢にウクライナが激しく抵抗しており、軍事紛争の今後の先行きに予断は許されません。多数の民間の死傷者も発生し、大量の難民が隣国・欧州に流入するなど、人道危機の状況も深刻化しています。この状況で、ロシアの侵攻を止めるため、欧米を中心とした国際社会はロシアを強く非難し、厳しい経済制裁をロシアに科しています。ウクライナ危機が緊迫する中、世界の石油輸出の約1割、ガス輸出の4分の一を占めるロシアの輸出に供給支障や途絶が発生するのではないか、との懸念が高まり、国際市場のエネルギー価格が高騰し、不安定化しています。

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 原油価格は、米国がロシアからの原油などを禁輸対象としたことを受けて、一気に高騰、一時は1バレル130ドルを超えるなどリーマンショック後の最高値を記録しました。その後、中国でのコロナ禍拡大による石油需要の低下の可能性や一部中東産油国の増産の可能性が報道されると原油価格は100ドルを割るまで低下しましたが、その後再び上昇、100~120ドル前後での高値で乱高下が続いています。

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 原油価格以上の高騰が見られるのが欧州のガス価格と液化天然ガス(LNG)のアジアのスポット価格です。原油価格が130ドル超の高値を付けたとき、欧州のガス価格は原油換算では400ドルを超える凄まじい高騰を示しました。欧州ガス価格と連動性を強めるアジアのスポットLNG価格も同様の高値となっています。特に欧州では、ガス価格高騰が電力価格高騰をもたらし、エネルギー価格が全体として大幅上昇する状況となっているのです。
 今後、ロシアからのエネルギー供給に支障や途絶が発生する場合、原油や天然ガス価格のさらなる高騰は避けられないでしょう。また、天然ガスの場合は、供給不足で消費者がガスを入手できないような場合も考えられます。エネルギー価格の高騰と供給不足は、世界経済にとって重大な負の影響をもたらします。市民生活や経済活動が直撃を受け、石油消費国・輸入国経済が大きく減速することになり、特にロシア依存度が高い欧州の国々にとっては、極めて重大な問題になると考えられています。
 そこで、欧州や日本などでは、エネルギー価格高騰への対策やエネルギー安定供給確保のための政策が強化されています。ウクライナ危機によって、エネルギー安全保障の確保が喫緊の重要課題となったのです。
 価格高騰対策としては、欧州や日本などで、昨年後半からのエネルギー価格上昇に対応して、特に低所得層への対策を念頭に、消費者保護のためエネルギー価格や料金に対する補助制度が導入されてきました。ウクライナ危機を踏まえ、さらにその取り組みを強める動きが続いています。

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 また、ロシア依存度が高く、万が一の供給支障の際には最も甚大な影響を被る可能性がある欧州では、特に強力なエネルギー安全保障対策が打ち出されてきています。
 第1には、エネルギー輸入におけるロシア依存度を引き下げる政策です。これはさらに2つに分かれ、ロシアからの輸入を減らすためエネルギー需給構造を変えていくエネルギーミックス対策と、ロシアからのガス輸入などを代替する供給源を確保する対策から構成されます。前者は、かねてから気候変動対策のため推進してきた再生可能エネルギーや省エネルギーを一層加速し、電力化を進め、水素などの導入をさらに進めようとするものです。また、ウクライナ危機の前から、エネルギー価格高騰に対応してフランスが原子力発電の新設を再開する方針を発表するなど、原子力の活用を進めようとする動きも出ています。後者の代替供給源については、米国やカタールなどからのLNG供給拡大に期待が寄せられています。先月発表された「REPowerEU」と称される計画などでは、2030年あるいはそれより前に、ロシア依存からの脱却を図る野心的な目標が発表されています。
 第2には、緊急事態への対応策を強化する取組みです。原油価格の高騰に対して、国際エネルギー機関は合計6000万バレルの備蓄放出を決定しました。また、3月31日には米国が国家備蓄である戦略石油備蓄を最大1億8000万バレル追加で放出する計画を発表しました。消費国の協力による石油市場の安定化の取組みは今後も重要です。またロシアの石油輸出に支障が出る場合、その代替供給源として、サウジアラビアやアラブ首長国連邦などからの原油増産も市場安定化の鍵を握ります。消費国にとって中東産油国などとの連携強化も大事なのです。ガスについては、石油以上に状況が深刻なため、欧州では天然ガスの在庫を確保すべく在庫量の義務化やガスの共同購入に向けた取組みの動きも出ています。また、供給支障が発生した場合、国際市場全体で柔軟でタイムリーな需給調整が必要となり、LNGの緊急融通や供給柔軟性の高い米国LNG輸出の重要性が高まっています。また、国際エネルギー市場が不安定化する場合には、消費国・産油国全体としての協調・協力が不可欠になるため、ウクライナ危機を踏まえ、国際エネルギー協力の取組み再強化が今後必要になっていくものと思われます。日本もこうした国際エネルギー協力の推進に当たっては、積極的に、戦略的に働き掛けを行い、国際エネルギー秩序の維持・強化に貢献していくことが求められて行くでしょう。

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 今回のウクライナ危機は、エネルギー自給率が低く、エネルギー安全保障に脆弱性を持つ日本にとって対岸の火事などではありません。エネルギー価格高騰やエネルギー市場不安定化が発生すれは、日本経済や私たちの暮らしは大きな負の影響を被ります。エネルギーの安定供給は日本にとっても最も重要なエネルギー政策の目標です。2050年のカーボンニュートラル実現など気候変動防止に取り組むことはもちろん大事ですが、エネルギー安定供給と気候変動対策を両立させていく必要があります。再生可能エネルギーと省エネルギーの推進を加速し、安全性の確認された原子力の再稼働を進めるなど、日本にとってのベストエネルギーミックスの追求が今まで以上に重要になります。また、化石燃料の安定供給確保も不可欠で、米国・欧州・アジア太平洋・中東などとの国際協力を推進し、市場安定化のために必要な投資確保の重要性を訴えて行く必要があります。日本は来年のG7サミット開催を睨みつつ、今年のドイツG7でも、ウクライナ危機を踏まえた、エネルギー安全保障と気候変動の両立を目指すエネルギー政策の重要性を積極的に発信し、その実践において国際社会をリードする役割を果たしていくべきでしょう。

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