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「ウクライナ危機の行方と影響」(視点・論点)

日本総研国際戦略研究所 理事長 田中 均

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今日はウクライナ情勢について、これからどういうシナリオがあり得るかという事と、このウクライナ問題が世界に与えるインパクト、この2つについてお話をしていこうと思います。

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最初に、ありうるシナリオについてです。1つは、これは本当に避けたいシナリオですが多くの人が予想するシナリオ、すなわちこのまま戦争が続いていくというものです。しかしロシアが、キエフを占領し、キエフに傀儡(かいらい)政権を建てたとしても、この戦争は非常に長く続いていく戦争になる、ウクライナの人たちの反ロ感情は非常に強くなり、いろいろな形で戦争が続いていくということだと思います。多くの人命が失われるこのシナリオはなんとしてでも避けたいと思います。
もう1つのシナリオは、停戦合意が出来て政治解決がされるというシナリオです。このシナリオを予測する人はあまり多くないかもしれませんが、私はどうしてもこのシナリオになってほしいと思っています。

ただこのシナリオにはいくつか条件があります。
1つ目の条件、これは元々ロシアとNATOの話になりますので、NATOの主要国、アメリカとそれからドイツ、フランスは停戦合意ならびに政治解決に参画していなければならないということです。内容としてはウクライナの中立化ということを考えざるをえません。中立化をしてNATOとロシアが、ウクライナの安全を保証するということです。それによって、ロシアにとってもNATOとの間にウクライナという緩衝ができ、NATOにとっても同じことです。ロシアで国境を接して、その脅威をぶつけ合うということがなくなるということだと思います。このため、そういう形で合意が作られるということが必要です。
もう1つの条件は、長い先の事を考えるとウクライナを挟んでロシアとNATOが角突き合わせているという状況は、危険だと思います。ある意味なんらかの形で信頼醸成の枠組みがつくられる必要があるということです。このような点が合意されれば、ウクライナ問題が一段落つくことになると思います。

それでは世界にどういうインパクトを与えるだろうかという話です。これはアジアへのインパクトも大きいため、それについてお話をしていこうと思います。
3つの点が挙げられます。
1つはアメリカが世界の警察官としての役割を果たして来たわけですが、多分これは望めないだろうということです。実は冷戦が終わった後、アメリカが率いた戦争というのは3つあります。1つはイラクのクウェート侵攻に伴う湾岸戦争。もう1つはテロとの戦いでアフガン戦争。それから3つ目にイラクとの戦争です。これはいずれも侵略したイラクを叩く、テロの拡散を防ぐ、大量破壊兵器の拡散を防ぐ、といった世界の警察官としての役割だったわけです。おそらくその中東の長い戦争で、アメリカは非常に大きな、戦争に対する疲れがうまれ国が激しく分断されている状況です。このためアメリカが世界の警察官として振る舞う余地というのは著しく少なくなっていると思います。
では一体どうするかということです。私はやはり外交が力を出す、要するに紛争において外交的な解決を常に諸国は目指していくということが何よりも大事なことだと思います。
それから2番目に核兵器。ロシアは核兵器使用の可能性を匂わせています。恐らく、アメリカに届くような「戦略核」というものについては使われる見通しはないと思います。もし使えば報復で殲滅されます。このため、戦場で使うような「戦術核」の問題がこれから議論されていくことになると思います。放っておけば、どんどんどんどん核兵器が増えていくという状況になるので、核兵器を少なくしていく。「戦術核」であっても使えない状況を作っていく必要があると思います。
3つ目に、これはアジアへの影響も非常に大きいと思いますが、このウクライナ問題が提議した課題というのは、ロシアのような核兵器を持つ大国である限り、アメリカの抑止力は働かないということです。アジアに目を向ければ、中国は同じように核兵器を持っており、ロシアよりも圧倒的に大きな経済力を持っています。もし中国が行動しよう、例えば台湾に攻撃をするといったようなときに、もはやアメリカは介入できないのではないか。アメリカの抑止力はないのではないかと、こういう議論はされているわけです。
実は、私はそうは思いません。もしアメリカが台湾に対して介入しない、中国が台湾を攻めた時に軍事介入しない、ということであれば、アメリカの存在意義は一体何なのかということになると思います。ですから、私はもしも中国が行動すれば、アメリカが軍事介入すると考えます。しかしながら同時に、中国は今の段階で台湾を統一するために軍事的な行動を起こすことはないだろうと思います。
それはなぜかというと、中国の最大のプライオリティーは今、経済成長です。その経済成長を担保していくためには、やはり諸外国との相互依存関係は必要なわけです。もし台湾を攻略するというようなことになれば、ロシアと同じように厳しい経済制裁がかかるということです。ロシアは、恐らくこれからGDPマイナス10%を超える状況になっていくはずです。そういう意味では、中国はこれをじっと見ている。したがって大事なことは、ロシアに対する経済制裁をきちんとやってくということが非常に大事になります。今すでにSWIFT、貿易の決済手続きをするための銀行間の取り決めからロシアを除外していくとか、エネルギーの輸出をアメリカが輸入禁止にする、ヨーロッパは将来的にはそうしていくといったような動きが出てくると思います。さらにロシアから企業がどんどん引き上げていくことに対して、ロシアがその企業を接収するというようなことになれば、未来永劫ロシアに投資をする人はいなくなります。また、ロシア機の上空の飛行を除外するといったことも行われていくと思います。冷戦が終わった後ロシアはいろいろな国際機関にも入ってきた訳です。これからの流れの中で、例えば世銀やIMFからロシアを排除していくような動きにもなりかねないと思います。

それでは、日本としてどういう態度をとるべきか、ということについて少しお話をしていきたいと思います。
2014年にクリミアの併合をロシアが行った時に、日本は北方領土問題、平和条約交渉があると言ってロシアに対する制裁を手控えたわけです。その結果として、果たして北方領土問題が解決したか、というとそれはそうではないわけです。とりわけその2014年の頃から、ロシアは北方領土というのは、アメリカとの対峙において戦略的に極めて重要な要衝であると考えたわけです。なぜかというと、オホーツク海から太平洋に出ていく場所に存在しているからです。そういうことから考えると、今のプーチン体制の元で、北方領土問題解決する見通しというのは残念ながら、私はないと思います。この体勢が変わらない限り、北方領土問題が解決する見通しが出てこない。したがって、ロシアに対して経済制裁をしていくことについて日本は躊躇があってはならないと思います。
今極めて大事なことは、さきほど申し上げたアジアへの影響から考えても、きちんとした経済制裁をG7の中で、日本も協調して行動していくことだと思います。それに加えて、日本はこれから、何としてでも政治的な解決を図りたいと主張していかなければなりません。この件について、米国やEU諸国に対してもきちんと話をしていくべきだと思います。以上です。

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