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「福島復興の到達点と課題」(視点・論点)

福島大学 教授 川﨑 興太

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1.福島原発事故と福島復興政策
 2011年3月に福島原発事故が発生し、大量の放射性物質が広範囲に拡散しました。原発の周辺に位置する11市町村には国によって避難指示が発令され、住民は避難を余儀なくされました。
それから11年が経ちました。この間、政府は膨大な予算を確保し、福島の復興に向けた政策を市町村や福島県と実施してきました。その復興政策は、一言でいえば、除染とインフラの復旧・再生を実施することで避難指示を解除し、避難者がふるさとに帰還することが可能な法的・制度的な状態をつくりだす政策でした。
この福島復興政策は、実は、過去の自然災害の被災地などで実施されてきた復興政策と大きく異なるものではありません。市町村が国の補助金を得て被災地で公共事業を実施することで、被災者による自力での生活再建を可能にするという政策です。
復興政策の対象は被災地という空間であり、公共事業によって市町村の「空間の復興」、すなわち被災地の復興・再生を進めれば、結果として「人の復興」、すなわち被災者の生活再建が実現されるという前提に基づく政策です。福島復興政策は、こうした復興政策に、原子力災害に特有の要素としての除染や損害賠償などが付加された政策だったといえるでしょう。

2.福島原発事故から10年後の福島復興の到達点①:避難指示の解除と住民の避難・帰還
 こうした福島復興政策が10年以上にわたって実施された結果、福島はどのような状況になったのでしょうか?
 まず、放射能汚染状況は大幅に改善しています。

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現在、多くの地域では1年間の追加被曝線量は1ミリシーベルトに満たない状況です。
これに伴って、避難指示は2020年3月までに、放射能汚染がきわめて深刻な帰還困難区域を除いて解除されました。
しかし、福島の復興が進んでいるかといえば、必ずしもそうではありません。

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避難指示が発令され、解除された地域に、どれくらいの方々が戻ったのかといいますと、原発事故から10年後の2021年3月時点では、11市町村全体で22%です。避難指示解除の時期が遅かった市町村ほど、多くの方が避難し続けている傾向が見られます。
さらに深刻なのは、避難し続けている方々の多くは、ふるさとに戻らないと決めているということです。原発周辺の市町村は、自治体存続の危機に陥っているといっても過言ではありません。

3.福島原発事故から10年後の福島復興の到達点②:被災地の空間変容
次に、被災地の空間変容の状況を見てみましょう。

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ここで取り上げるのは、双葉郡8町村の中では最も人口が多かった浪江町の中心市街地です。多くの店舗や住宅などが建ち並んでいましたが、浪江町は原発事故によって全町避難となり、すべての建物が空き家になりました。

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中心市街地では、原発事故から6年後の2017年3月に避難指示が解除されました。住民の方々は帰還し、事業所も再開できる状況になりましたが、避難指示の解除から半年が経過した後でも空き家が多いことがわかります。

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その後の変化を1年ごとに見ますと、年々、空き家が減少し、空き地が増加していることがわかります。これは、長期にわたって避難している間に家屋が荒廃したことから、国が所有者の申請に基づいて家屋を解体していることによります。

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建物の数は、2021年9月時点では原発事故前の40%にまで減少しました。原発事故から10年以上が経過しましたが、復興が進んでいるというよりは、むしろ空き地がどんどん増えており、まちが溶けつつあるような状況です。
ここでは、浪江町の中心市街地を取り上げましたが、特に避難指示の解除が遅かったところでは、同様の現象が生じています。

4.これまでの福島復興政策の限界性
以上が、これまでの福島復興政策による復興の到達点です。
さきほど、福島復興政策は、公共事業によって市町村の「空間の復興」を進めれば、結果として「人の復興」が実現されるという前提に基づく政策を基本とするものであったと述べました。こうした復興政策が有効であるためには重要な条件があります。それは、被災者による被災地での生活再建の需要があり、少なくとも市町村という単位では「人の復興」と「空間の復興」が重なり合うということです。
しかし、原子力災害は、自然災害とは異なって、原因者の存在、被害の広域性と長期性、避難の広域性と長期性を特質としています。被害が市町村という空間単位を超えて広域におよび、しかも長期におよぶため、避難も広域かつ長期にならざるをえません。
このため、「人の復興」と「空間の復興」は重なり合わない場合が多くなります。もちろん、福島復興政策は、将来的な住民の帰還をめざして進められてきたわけですから、今なお評価を行うには時期尚早かもしれません。しかし、少なくともこれまでの11年間に関しては、「空間の復興」の実施による「人の復興」への直接的な効果という点では、決して十分ではなかったと言えるでしょう。多くの復興政策が実施されてきた被災地に、被災者がほとんどいないのですから、当然のことです。

5.福島の復興に向けた課題
それでは、これからの福島の復興にはどのようなことが求められるでしょうか? 課題を3つ提示して終わりにしたいと思います。
第一に、原子力災害の特質に即した長期にわたる「人の復興」と「空間の復興」の支援の実施です。「人の復興」については、昨年、私が実施した福島県外の避難者を対象とする調査によれば、生活再建の度合いは原発事故前の半分にも至らないと考えている方が半分を占めています。また、ふるさとに帰還した方々を対象とする調査によれば、帰還に伴って避難者ではなくなりましたが、買い物や通院などが困難な環境のもとで暮らす被害者であり続けています。避難者と帰還者の両方の生活再建状況に関する調査を行い、一人ひとりの生活状況に応じた再建支援を長期にわたって行うことが必要だと思います。他方、「空間の復興」については、除染が実施されましたが、県土面積の7割を占める森林は手つかずのままですし、また、避難指示は解除されましたが、自治体は存続の危機に陥っています。現在、新たな住民の移住を促進するための政策や、新たな産業基盤の構築をめざす福島イノベーション・コースト構想が進められていますが、被災地の復興に向けた長期にわたる支援が必要だと思います。
第二に、原子力災害の復興に関する総合的な検証と原子力災害対策基本法の制定、そして災害対策を一元的に担う国家行政組織の創設です。原発事故の発生後に、複数の検証委員会によって原発事故に関する検証が行われましたが、原子力災害からの復興に関しては検証が行われていません。「人の復興」と「空間の復興」を実現するためには復興に関する総合的な検証が必要であり、検証の結果を踏まえてしっかりと教訓を導き出し、そして、その教訓を原子力災害対策基本法という形で法制度化するということが検討されてよいと思います。あわせて、その法律を所管し、災害対策を一元的に担う防災・復興省といった国家行政組織の創設も検討されてよいと思います。
第三に、国民の一人ひとりが福島の問題を自分の問題として考え続けることができるようにするための条件の整備・充実です。原発事故やその後の復興は、福島だけの問題ではないにもかかわらず、いつのまにかローカルな問題になってしまっています。しかし、福島の問題を考えることは、私たちの暮らしのあり方を見つめ直すことでもあると思います。福島県や市町村は、廃炉や除染土壌の県外最終処分などの重たい課題を背負いながら、新たな総合計画や復興計画を策定し、自分たちで未来を切り拓こうとしています。福島には、被災地の復興と自分の人生を重ね合わせながら自己実現をめざす若者もいますし、平穏な日常もあります。また、おいしいお酒が日本一そろっています。ぜひ、みなさまには福島に関心を持ち続けていただき、できれば福島に来て、自分の目で見て、こころで感じていただければと思います。

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