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「2022年の中国政治」(視点・論点) 

東京大学 教授 川島 真 

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今年2022年は中国にとって、大きな節目の年になると思われます。目下、中国は二つの100年、すなわち中国共産党成立からの100年と、まさにアメリカに追いつき、中華民族の偉大なる復興の夢を実現するという、中華人民共和国成立からの100年という政策上の達成目標の期限を設けています。

昨年の2021年は、中国共産党の成立100年でした。

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そこでは、貧困問題を解決させ、全面的小康社会を実現したと強調し、また秋には習近平総書記が毛沢東、鄧小平以来となる歴史決議を発表しました。そして、コロナの拡大を防ぎ、マスク外交、ワクチン外交などを通じて国際的なプレゼンスを高めた、などしてその政策の成果を強調しています。
これらはある意味で、2022年秋の第20回党大会に向けての布石であったといえます。
この秋の党大会では、習近平が68歳定年制を破棄して中国共産党総書記として異例の三期目へと任期を延長することが確実視されていますが、党主席になるかどうかは未知数です。今年の中国では、北京オリンピックを初め様々な問題がこの秋の党大会の人事に関連づけられて評価されることになるでしょう。
では、今年の注目点について説明したいと思います。
まずは国内政治です。中国は党が国家を指導する党国体制ではありますが、習近平は法治建設や反腐敗運動などを通じて党の国家に対する指導性を従来以上に高め、自らを「党の核心」として、自らに権力を集中させてきました。その習近平政権の政策には、江沢民、胡錦濤政権の進めてきた政策と連続する面が多くありますが、同時に異なる側面も見られます。

第一に、党内民主化の逆行です。習近平政権は2017年の第19回党大会でも党内民主化に歯止めをかけ、また2018年には憲法を改正して国家主席の任期を撤廃し、そして今年68歳定年制についても改めようとしています。今年、個人崇拝だとの批判を跳ね除けて党主席になれるでしょうか。
第二に、共産党政権としての正当性です。習近平政権は、革命、豊かさ、ナショナリズムという、従来からの正当性の源を、習近平流に改めながら維持し、同時に科学技術(テクノロジー)をそこに加えたようです。この科学技術は、経済活動の自動化、無人化を進め、目下の最大の問題でもある人口問題に対処することにもつながります。すでに火星探査にも成功しましたが、2022年にはどのような成果が現れるのか注目されます。
第三に、デジタルな手法を用いた社会への管理統制の強化です。2010年代に入り中国では、国有企業に対して民間企業がイノベーションの面でも、GDPの面でも優勢になっていきました。特に新たなテクノロジーに支えられたデジタル産業は、習近平政権に新たな社会管理の可能性を与えました。ビックデータを通じて把握した社会の動向を踏まえた、まさに人心を踏まえた政策、サイバーセキュリティ法により獲得した個人情報による反政府運動の摘発などを通じ、社会の管理統制を強め、また社会の基層の管理を強化しました。そのことがコロナ対策で功を奏し感染拡大を防いだとも言われます。他方で武漢での医師の告発を肯定的に捉えるネット空間での意見が地方政府の処罰を覆したように、デジタル空間が新たな社会運動を促している面もあるとする見方もあります。
胡錦濤政権期には十分に活用されていなかったデジタルな手法を用い社会への管理統制を習近平政権は強めました。しかし、巨大化したBATHなどのプラットフォーマーをいかに「生かさず殺さず」的に掌握するのかということは今年も大きな課題になりそうです。他方、政治との関係で見れば、デジタルな手法を用い、確かに習近平政権は強固になり、中国共産党の中枢を支持者で固めることに成功しました。しかし、中南海では強くとも、反腐敗運動などに直面し萎縮した地方幹部などは、中央からの指示に対して不作為、つまりサボタージュする向きもあります。これに対して、中央は中国共産党員に忠誠を求めその清廉潔白さを求め、社会に対しても中国共産党や国家への支持を求めていく政策、例えば人気のあるアーチストなどエンターテイメントをも動員した心の内面からの支持を獲得しようとしています。この政策は果たして成果を上げられるでしょうか。これも課題になります。
第四に、習近平政権は民族自治区や香港など特別行政区に与えられた特権を奪う、減らすということをしています。教育現場での言語を中国語にし、社会の管理統制を強化しています。問題は、中国がこうした政策を「国家の安全」や「貧困対策」などの名の下に実施する点です。これらを人権問題と見る国際社会との間の乖離は依然大きいのです。

次に、経済ですが、習近平政権は「二つの循環」政策などを通じて、国内需要に立脚した経済構造を作ろうとし、また共同富裕を掲げて、経済の構造改革を進め、新たな技術革新を推進しながら、富の分配に配慮した政策を進めています。これらは習近平版の「改革開放」政策だとも言えます。ただ、経済改革を進めたい政策集団は、エネルギー供給や脱炭素などの課題に取り組みながら、先進国の事例などを参考にして独占の排除など経済改革を進めて、CPTPPへの加盟を目指しています。しかし、既得権益層も強く、かつ世界的なエネルギー事情の悪化、アメリカからの経済的圧力、また東北部などでの低成長など問題が山積しています。経済問題は本年も引き続き大きな問題になるでしょう。

そして、外交面、対外関係では、国連重視外交や新型国際関係、一帯一路など既存の政策を継続しつつ、政治イヤーですので問題の発生を極力防ごうとするでしょう。アメリカの対中政策が依然厳しい中で、昨年、バイデン政権が気候変動や地域問題などで中国との協力を模索したことを中国は歓迎し、アメリカとの競争や対立を減らし、協力案件を増やそうとしています。長期的に見れば、中国としてアメリカとの正面衝突は避けつつ、経済、軍事、政治などでアメリカに追いつこうとし、同時にサイバー空間などを用いたグレーゾーン攻撃によって先進国への浸透工作を推進するでしょう。台湾については、その統一に必要な軍事力があることを内外に示して台湾社会に圧力を加え、他方で台湾社会、企業に対するあからさまな、あるいはグレーゾーンを用いた浸透工作を続けることでしょう。また香港では、国家安全維持法を前提とした社会の管理統制が進み、また民主派を事実上排除した立法会において、これまで民主派の反対で通らなかった治安、教育などに関する法律が通っていくことが予測されます。
日中両国は今年国交正常化50周年を迎えます。そのタイミングは第20回党大会の少し前なので、中国側は慎重に日本に接してくることが予測されます。米中対立の下で、日本は安全保障の面でアメリカなどと協調することは大前提として、アメリカもまた中国との協力を二国間で進めている面があることにも鑑み、経済安保問題を細やかに、多面的に処理しながら、日本としても中国に対する自らの「是々非々」を作りあげ、是と非との間で矛盾が生じないよう、コーディネーションを作っていく必要があるでしょう。
2022年の中国は、まさに秋の党大会での人事が注目されますが、しかしコロナからの回復もまた大きな課題です。個々の問題に対して習近平政権は正解を求めようとしていますが、そうした個々の「正しい」政策どうしの矛盾や調整は容易ではありません。
また強力とされる習近平政権に対する社会の側からの不作為などの「静かな抵抗」の帰趨もまた重要な論点だと思われます。そうした意味で問題は山積しており、今後とも目が離せない状況にあると思います。

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