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「危機に直面する中小企業」(視点・論点)

東京商工リサーチ情報本部長 友田 信男

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日本の企業約358万社のうち99.7%、357万社が中小企業です。世界中で事業を展開する企業も増えていますが、そうした企業を足元で支えているのは中小企業の技術力です。
同時に、日本で働く人の70%、約3,220万人が中小企業で働いています。中小企業は日本全国で雇用の受け皿の役目を果たし、技術だけでなく日本の社会基盤と経済を支えています。
今日は、こうした中小企業がいまのコロナ禍で置かれている状況や必要な支援策についてお話します。

新型コロナウイルス感染拡大は3年目に入りました。いったん落ち着きを見せていましたが、新たな変異株「オミクロン株」が急速に広がりました。
コロナ禍はそれまでの私たちの生活を一変させました。マスク着用、三密回避、移動制限などが浸透し、企業は事業規模や業種に関係なく大きな影響を受けています。特に、対面型サービス業と言われる飲食業、旅行・宿泊業、ブライダル業などの影響は深刻です。
コロナ禍で急激に市場が縮小したことで中小企業の売上は大きく落ち込み、経営が一気に厳しさを増しました。
そこで国や自治体では、持続化給付金や雇用調整助成金などの給付型支援に加え、実質無利子・無担保融資(いわゆる「ゼロ・ゼロ融資」)などの貸付を実施しました。
こうした資金繰り支援の効果は大きく、2021年の企業倒産は6,030件と57年ぶりの歴史的な低水準に抑えられました。
しかし、その一方で多くの企業が「過剰債務」という新たな問題を抱えることになりました。

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さて世界の先進国に成長した日本経済ですが、1990年代のバブル崩壊から2020年の新型コロナ感染拡大まで、ほぼ10年おきに「100年に一度」と称される未曽有の経済危機に見舞われました。
コロナ禍の特徴は、地域、業種、規模を問わず、真っ先に中小企業が打撃を受けました。リーマン・ショックの時は、まず都市部のグローバル企業や金融機関、大手企業に影響が出ましたが、コロナ禍では規模が小さい企業ほどまず影響が広がりました。
地道に事業を続けてきた中小企業は、収益力や生産性の向上などへの取り組みが遅れていました。そこに急激な売上減少が襲い掛かりました。

2021年3月期決算の減収企業率は55.8%と、半数以上の企業で売上高が落ち込みました。また、本業の儲けを示す営業利益率は3.53%に落ち込み、4社に1社が赤字を計上。
借入金は月商の8.2倍に膨らんでいます。
中小企業はコロナ禍前から構造的な課題を抱えていました。一つは生産性向上の遅れ、もう一つは事業承継です。いずれも事業継続には欠かせない取り組みですが、10年ごとの大きな景気のうねりの中で生き残りに精いっぱいで先送りされてきました。
高齢の経営者は、生産性を上げるための投資には後ろ向きで、むしろ過去の成功体験が教科書になりがちです。しかし、少子高齢化が進む中での事業承継は「待ったなし」の状況です。経営者の年齢は年々、高齢化が進み、2020年の平均年齢は62.49歳でした。
休廃業した会社の経営者の年齢は71.0歳で、70歳を超えています。後継者がいないことが理由で倒産した企業は、2021年は過去最多の381件に達しています。

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2020年の休廃業は4万9,698社でしたが、コロナ禍の2021年は4万4,377社と前年より10.7%減少しました。それでも年間倒産の7.3倍に達します。
一方で、2021年の国内のM&A(企業合併・買収)件数は4,280件(速報値、レコフ調べ)と、過去最多を記録しました。
規模の大きい企業ほど先行きを見通し、M&Aや事業譲渡を進めていることがわかります。
しかし、コロナ禍で業績が悪化した中小企業は、持続化給付金などのコロナ関連支援で休廃業の判断を先送りしたとみられます。
ただ、経営者の高齢化は進んでおり、2022年はオミクロン株の感染状況にもよりますが、休廃業などを先送りした経営者が決断する年になるかも知れません。
休廃業は倒産より影響が小さく思われますが、取引先が消え、従業員は働く場所がなくなります。社会的な損失という意味では倒産と変わりません。
休廃業が増えると、人口減少が続く地方ほど雇用や税収面で影響が深刻です。技術開発力、市場開拓力などを持つ企業が、休廃業に追い込まれないように後継者育成への支援が必要です。また、企業が生き残るための事業譲渡やM&Aでは、国や自治体は情報やノウハウ提供だけでなく、M&A仲介に伴う手数料などの補助も有効と思います。

中小企業を立ち直らせるには、売上増と収益改善を同時に実現する抜本的な方策が必要です。
事業再構築は企業だけの動きには限界があり、国のイニシアティブ、金融機関の支援が欠かせません。

今の一番の課題は、過剰債務の解消です。過剰債務については、全国銀行協会が「中小企業版の私的整理ガイドライン」の検討を進めています。ただ、どのような活用条件にするのか、まだ具体的な提示はありません。財務内容や資産の有無という外形的な判断でなく、企業の将来性を示す事業性評価とあわせた判断が必要です。さらに地域経済を絡めた議論も必要でしょう。
こうした政策はどうしても予算だけでなく、借金減免などで利害関係者との調整も出てきます。そのためには政府主導で私的整理の円滑化に向けた法整備も必要でしょう。ただ、数万社の過剰債務を解消できたとしても、中小企業全体からみると氷山の一角に過ぎません。私的整理のガイドラインとは別に、大多数の中小企業が得られる幅広い支援も必要になります。
企業側も自主的な事業再構築への取り組みが求められます。扱い品の市場性が見込めない場合、あるいは従来のビジネスモデルでの業績回復が難しい場合、思い切った業種転換は避けて通れません。その場合、現在の業務の知見、経験を生かせる親和性の高い分野から始めるとスタートしやすくなるでしょう。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)やデジタルインフラの整備、ロボット化の推進も欠かせません。
こうした投資効果を最大化するためにも過剰債務の解消は急務です。

コロナ禍もいずれは収束し、必ず景気回復への道のりが見えてきます。
その場合、売上増を支える運転資金を調達できないと、売上が伸びて資金繰りに行き詰まる、いわゆる「黒字倒産」が現実味を帯びてきます。

過剰債務の企業には、ABL(売掛金や在庫を担保にした融資)や、売掛債権買取りのファクタリングなど、多様な資金供給策が重要になってきます。ファクタリングの場合、手数料を政府が支援すると50兆円を超える「ゼロ・ゼロ融資」と同じ水準の資金供給が、1割以下の予算枠で可能になるかも知れません。
中小企業は日本の経済成長を縁の下で支え、雇用や個人消費など地域経済の中核でもあります。
その中小企業がコロナ禍で窮地に立たされています。この時期だからこそ、中小企業の抱える問題を国や自治体、金融機関、中小企業が一体となって、成長する中小企業に転換する契機にすべきと思います。

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