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「2022年 国際リスクを展望する」(視点・論点)

国際政治学者 イアン・ブレマー

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(聞き手:河野憲治 解説委員長)

(河野)
世界は、新型コロナウイルスの変異株による感染再拡大とともに2022年を迎えました。この一年、国際社会はどんなリスクと向き合うことになるのか。
著名な国際政治学者で、ことしも恒例の「10大リスク」を発表したイアン・ブレマー氏に聞きます。

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【日本語訳】
(質問)
「10大リスク」のトップは、「中国のゼロコロナ政策の失敗」でした。中国のウイルスとの戦いは成功しているように見えますが、なぜ中国は失敗すると思うのですか?

(ブレマー氏)
パンデミックが変わったからです。
最初の2年間、中国はパンデミックの対応に最も成功した経済大国でした。
なぜなら、追跡や封鎖など、驚異的な能力があったからです。
これはワクチンや治療薬がなく、ウイルスの致死率が高い場合は合理的です。
ですが、オミクロン株は違います。
はるかに感染力が強いものの、致死率は高くないため、感染者数ではなく、入院や死亡に焦点を絞る必要があります。

我々はワクチンや治療薬を手に入れました。
中国はゼロコロナ政策を変える必要がありますが、政府は拒んでいます。
感染者数がわずかでも都市封鎖に踏み切っているのです。

オリンピックや習近平国家主席が3期目を目指す党大会を控えて、中国が急に方向転換するのは非常に難しいでしょう。
これは、中国がウイルスにうまく対処できないだけでなく、世界第2位の経済大国は、休業やサプライチェーンの問題に直面し、世界にとってはインフレを意味します。
経済を再開した先進国からの需要に対して、供給を担う中国で休業が続けば、それは世界経済によくありません。

(質問)
つまり、世界にとって重大な問題になるということですね。
ワクチンや景気回復のペースにおいて、発展途上国と先進国の格差が拡大していることは世界にどう影響しますか?

(ブレマー氏)
実際に最もワクチン接種率が低い国は最貧国です。
また、サブサハラ・アフリカ諸国のように最も新しい国々です。
これらの諸国は、パンデミックになすすべがありません。

比較的裕福な南アフリカでもワクチン接種率が低く、人口の多くがすでに感染していました。
このため、オミクロン株の感染拡大でも病院はそれほど新たな影響を受けずにいます。
つまり、医療の側面には対応できるのですが、問題は経済的な打撃の大きさです。

先進国には、貧しい国民を支援できる資金があります。
しかし中低所得国は、それほど速く立ち直ることができません。
ですから、豊かな国と貧しい国の格差や国内での格差の拡大が、コロナによって大きく加速しています。

(質問) 
新興国などにおける政情不安についてはいかがでしょうか?

(ブレマー氏)
拡大するということを認めざるを得ません。
最近のカザフスタンのように、生活への不満を訴えるデモが増えています。
汚職やガス価格の上昇に対する不満が国民の怒りを爆発させたのです。
トルコでは、インフレや失業率が高く社会不安が広がり、政府への不満が強まっています。
このような現象はさらに広がるでしょう。

新興国の債務は増大して金利は上昇し、債務の返済が一層厳しくなります。
これらの国は、自国の労働階級や中産階級をどう支えていくのでしょう。
それらの人々は、政府への不満を抱えるでしょう。
最も不安定になるのは、日本でも中国でもなく、身動きのとれなくなった新興国です。

(質問) 
台湾海峡や南シナ海における中国の活動に関する軍事的なリスクはどうでしょう?

(ブレマー氏)
幸いなことに、今年はないと思います。
台湾に関しては、米中間の信頼はないものの、越えてはならない一線を脅かすことはないと思います。米中の新たな冷戦にはなりません。
世界で最も重要な2か国が表立って戦うことはないでしょう。

(質問)
そして、3番目のリスクとして「アメリカの中間選挙」を挙げ、歴史的な分岐点になるとしていますが、どういう意味でしょうか?

(ブレマー氏)
驚くべきことですが、今やアメリカには自由で公正な国政選挙を行う能力がありません。
これはG7諸国の中でも唯一です。
日本でも最近選挙がありましたが、問題なく公正で、政権交代はありませんでした。
カナダやドイツも同じです。フランスはもうすぐ選挙で、韓国も問題ありません。

世界で最も強力なアメリカで公正な選挙ができなくなっています。
同時にG7諸国の中で、経済的不平等、政治的機能不全、ワクチン接種率で最低です。
これら3つは自ら招いた結果で、中間選挙にも影響するでしょう。

共和党は大差で下院を制し、僅差で上院も支配できるでしょう。
主な州の知事選や議会選挙でも勝つでしょう。
これらは、2024年の大統領選挙の勝敗の鍵を握る州です。
トランプ氏は、いまも共和党を支配し、選挙は「盗まれた」ものだったとうその主張をしています。
つまり中間選挙の結果次第では、2024年の選挙が「ぶち壊しになる」可能性があるのです。

アメリカとの同盟やそのリーダーシップに頼る日本などにとっては極めて難しい状況です。
同時に中国やロシアなど対峙する国は「アメリカがリーダーシップを取らないなら、その状況を利用できる」と考えるでしょう。

2024年から25年にかけて危険な状況になり得るため、中間選挙は分岐点と言えます。
共和党が上下両院を制したら、バイデン政権は2年間、議会での成果は無理でしょう。
上院の承認が必要な判事や政権幹部の人事も決まらないでしょう。

バイデン大統領にとっては、2024年に向けて大きな試練となり、大統領候補者として弱い立場に立たされます。
79歳なので立候補しない可能性も高いですが、大きな問題です。

(質問) 
最後に、「テクノポーラーな世界」を2番目のリスクに挙げています。
聞き慣れない言葉です。なぜ世界にとってのリスクとなるのでしょうか?

(ブレマー氏)
テクノロジー企業が、権利を主張できる国際舞台において、地政学上の主役になりつつあるという意味です。
これらの企業はデジタル世界、彼らが創り出したバーチャルな世界で主権を握っています。
我々が見る情報、購入や行動の履歴を把握し、プラットフォームに参加する条件を決めています。

去年1月の議事堂襲撃事件では、事件関係者に対して政府は何もしませんでした。
ところがテクノロジー企業はSNSサービスを停止し、現職大統領のアカウントを凍結しました。
こうした企業について多くの人が不満を感じ、政府が規制や解体を行うべきだと考えるようになっています。

しかし今年に限って言えば、企業はますます強大になり、政府は追いつけないでしょう。それが「テクノポーラーな世界」の現状です。
以上が私の2022年の展望です。

(河野)
お時間とご意見ありがとうございました。

(ブレマー氏)
こちらこそ。お会いできてよかったです。

(河野)
ブレマー氏は、2つの大国の米中がいずれも内向きになることで、世界の課題解決にむけて指導力を発揮したり、協調して対処しようとしたりする姿勢は弱くなると指摘しています。新型コロナ対策や気候変動といった地球規模の問題だけでなく、各地の地域紛争や人権侵害といった事態にどう立ち向かうのか。
リーダーなき世界で、国際社会は模索を強いられる一年となりそうです。

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