NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「withコロナ時代への展望」(視点・論点) 

川崎市健康安全研究所 所長 岡部 信彦 

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2021年12月下旬、世界は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)の真っただ中にいます。
発生から約2年を経て、当初の「原因不明の肺炎」は、その病原ウイルス、病気のメカニズム、症状、治療・予防、疫学状況などについて、かつてないほどのスピードで理解が進みました。開発には数年以上はかかると言われたワクチンは、1年足らずで実用化され、現在国内ではおよそ80%の人たちが2回のワクチン接種を済ませています。

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国内においてはこれまでにない感染者数の急増とそれに伴う重症者数の増加(第5波)が7~8月に見られましたが、9月~10月にかけて急激な減少が見られ、12月中旬には、本年最低の新規感染者数の発生となりました。この状況がこのまま落ち着きに向かうのか、新たな変異株オミクロン株の登場によって再び増加の山を迎えてしまうのかはまだ明らかになっておらず、予断を許さないところですが、ふっと息をつき、良くあたりを見回すことができる時期でもあると思います。

人類は感染症との戦いの繰り返しの中で、かつては病原体の強さの方が際立っていましたが、病気を知ることによって生活の中での防衛方法(手を洗う、食べ物に熱を通す、清潔な生活をする等々)を身に着け、そして科学の力で治療薬やワクチンを手に入れてきました。人の力で根絶できた感染症は天然痘ただ一つですが、感染症が発生してもできるだけ広がらないように、重くならないように工夫や注意を重ねながら、通常の生活を維持できるようにしてきています。
新型コロナウイルス感染症は新たに出現した病(やまい)なので、未知のことも多数ありますが「たった2年足らず」で、日常生活の中での我慢や注意に加えて、ワクチンや治療薬、治療方法などに大きな進歩が見られています。もう少しの間は我慢できるところは我慢をし、一方緩められようになったところは緩めながら時間を稼いで、さらなる対策を進歩させてゆくと、感染症の存在に注意をしながら日常の生活をする「新たな感染症とともに暮らせる時」は遠からずくる、と考えています

改めて「三密を避ける」
新型コロナウイルス感染は、基本的には感染力はそれほど強いものではなく、感染者の約8割は他の人に感染を及ぼさないと考えられるものでした。国内でのクラスターの調査では、換気が不十分な環境(密閉空間)で、人が狭い空間で多数集まり(密集状態)、狭い距離で大きな声でしゃべったり歌ったり(密接)という状態が重なっているほど感染リスクが高まり二次感染者が多くなるということが明らかになりました。ここから「三密を避けましょう」、ということが呼びかけられるようになり、新型コロナウイルスの対策としてすっかり定着しました。密閉とは窓がなかったり換気ができなかったりする場所のことで、対策は何といっても「換気」にあります。最近では、換気がよく行われているかどうかの目安として、空気中のCO2濃度をモニターする簡易測定器などが広く利用されるようになってきました。
ところで、このような感染症対策は目新しいものではありません。インフルエンザシーズンには「人混みはできるだけ避け、エチケットマスクをしましょう。時々窓を開けて空気の入れ替えをしましょう」と呼びかけてきています。
新型コロナウイルス感染者が触れた場所・物などからの接触感染もあり得ると考えられるので、感染者が接触した可能性のある場所の消毒や、またそのようなものに触れた可能性から、手指衛生(手洗い、消毒)をすることは、新型コロナウイルスの感染のリスクを下げるとされていますが、これも感染症予防の基本で、ノロウイルスシーズンや食中毒シーズンには「手を洗いましょう、手指衛生をしましょう」と呼びかけてきたことと大きく変わるわけではありません。
これまでの感染症対策の基本をきちんと行う、このことは新型コロナウイルス感染でも同様のこととなります。

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新たな変異株であるオミクロンは、感染の拡大が早い、これまでに感染した人でもオミクロン株の感染は防ぎきれない、ワクチンの効果が低くなっているのではないか、などの不安な情報もある一方、重症度の増加などはないようで、多くの人は軽症にすんでいるという報告も増加しています。いずれにしても先ほど述べたような感染症対策の基本は、感染症全般に共通であり、新型コロナウイルスについても従来型であろうがデルタ株であろうがオミクロン株であろうが変わりはありません。これらを忘れることなく、そして過剰にならない程度で、日常生活の中に溶け込むと、感染症に対して強い社会になっていくと思います。この点日本は海外諸国に比べすでに浸透している行為・行動であり、これをさらに生かしていくことが重要であると考えるところです。

私の考えるwith コロナ時代
インフルエンザや肺炎球菌性肺炎などを代表とする呼吸器感染は多く、いずれも重症になることは稀ではなく、ことに高齢者にとって命取りになることがあります。また流行が拡がれば、若者、小児にとっても侮れないことがありますが、ワクチンなどによる予防ができ、感染したとしても簡単な検査で早い早期診断、そして早期治療ができれば不安はかなり解消されます。

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新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザと比較してみると、国内でのインフルエンザは1シーズンで数百万にから一千数百万人の受診者数が推定されています。新型コロナウイルス感染症は、この2年間に200万人弱の検査陽性者数なので、新型コロナはインフルエンザほどかかりやすい病気ではないようです。死亡者数は、インフルエンザが大流行すると1シーズンに1~2万人が亡くなると推定されています。新型コロナはこの2年間で約2万人の方が亡くなられています。つまり新型コロナはインフルエンザほどかかりやすい病気ではないけれど、いったんかかるとインフルエンザより重症になりやすく、インフルエンザや風邪並みとは到底言えそうにありません。しかしワクチンや治療薬・治療法の進歩で、致死率が今の1/10以下になればインフルエンザ並みとなるので、その時には日常生活に戻せるのではないかと思います。
ただし、患者数が急速に増えれば、割合は低くても重症者死亡者数も一気に増えてしまうので、やはりできるだけ感染症が拡がらない工夫、人にうつさないようにという気づかい・心遣いは必要です。これは一般の方の力によるところが大きくなります。重症者や重症になりそうな方には適切な入院治療ができるように、軽症者は一般外来や在宅での治療ができるようにする、これは医療の仕組みを整える政治や行政そして患者さんに直接触れる医療者の力によります。保健所は患者さんの相談や医療福祉サービスの提供、疫学調査などをきちんと行う、本来の公衆衛生活動を担うことが必要です。これらがきちんとできれば、落ち着いて通常の医療や予防活動、健康診断などがスムーズに行われるようになります。

つまり、注意をせずに普通の生活ができる、のではなくて、注意をすれば普通の生活ができる、これがwithコロナの時代の状況と考えています。そして「新たな感染症とともに暮らせる時」は多くの人々の努力によって、遠からずくる、と私は考えています。

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