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「地域の課題をチャンスに変える」(視点・論点)

NPO法人canbio理事長 後藤 高広

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私は兵庫県の多可町という町に生まれ、住み続けています。15年前に父親の金属加工会社を継ぎました。そして2011年にNPO法人を立ち上げ、町で捕獲された鹿の肉を利用してドッグフードを作る事業を始め、多くの障害者の人たちに働いてもらっています。きょうは、こうした事業を通じて地域の課題をチャンスに変えていく取り組みについてお話します。

兵庫県多可町は内陸部にあり、大阪市内から車で約1時間半ほどでたどり着きます。伝統的な播州織や酒米「山田錦」の生産で知られる人口およそ2万人の小さなまちです。
大きな産業はなく、働ける場が少ないことが課題になっていて、特に、障害者の場合はいっそう深刻です。私は父親の会社を継いだあと、障害者が安心して働ける場を作りたいと思い、2011年にNPO法人を立ち上げました。
障害者に働いてもらう形態としては、障害者総合支援法に基づき、「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」があります。A型は雇用契約を結んだ上で働くことが可能な福祉サービスです。私が最初に運営を始めた事業所はA型でしたが、この場合、精神障害のある方は、休みがちになった時に「クビになってしまう」と不安になる傾向があることもわかりました。そこで、私は次に、雇用契約を結ばないで自分のペースで働ける「就労継続支援B型」の事業所も作ることにしました。「工賃をもらって働く喜びを得ること」「高いクオリティを目指すこと」プラス「社会と孤立しない事業所にすること」が目標でした。
そして、この新しい事業所で何か目標が実現できる事業ができないか、を考え始めました。そこで当時、町で捕獲される鹿の処分に困っていることに注目しました。多可町では、鹿が田畑を荒らして農作物に被害が出るため、年に約400頭の鹿が駆除されています。この鹿の肉を活用してドッグフードを作れば、ペットブームにも合い、本格的な事業にできるのではないかと思ったのです。そこでさっそく町長に会って相談すると、町では、捕獲した鹿を埋めたり、焼却したりする処分の費用が大きな負担になっているといい、即事業に賛同頂きました。そしてさらに動物栄養学の研究をされている大学の教授や森林研究所、地元の猟友会などに話を聞いて回りました。
一方、町では、人口が減ったことで活用されなくなった施設が多いことも課題になっていました。

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そこで、そうした施設の1つである給食センターを借りて、鹿の肉の解体から精肉まで一貫生産ができる施設を作ることになり、町議会でも議決されました。

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このように、「障害者の働く場の確保」、「捕獲した鹿の処分」、「遊休施設の活用」という町のさまざまな課題を結び付けて、「地域になくてはならない事業所」が多くの賛同者を得てスタートすることができました。大都市ではできないスピード感だったと思います。

現在、このドッグフード生産施設では10人の障害者が働き、連携の自治体も増え年に約10トンのドッグフードを生産しています。
特徴は高タンパク低カロリーな鹿肉と地元野菜などのブレンドで、無添加フードとし主に自社のネット販売や、ふるさと納税の返礼品ともなり、お客様は関東圏が多いです。
この自然豊かなまちの地の利をいかし、有害だったはずの鹿を財産として活用することができています。「こんなことをやってみよう!」とビジョンを描いて動き出すとき、“できない理由”を考えてしまったり、他の人から突きつけられたりして、うまくいかなかったことはないでしょうか?でも、“できない理由”は、逆手にとれば“活動資源”になるのかもしれないと、私は実感しています。

そして、この事業が軌道に乗ったことで地域で注目を集め、私どもの元へはさまざまな相談が寄せられるようになりました。

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その中の1つが、地元の公立高校の食堂の運営が難しいという課題でした。企業の社員食堂の場合、定食は1食500円を上回る価格が一般的で、福利厚生の一環で会社側から補助金が出る例もありますが、それでも経営が苦しく撤退する業者がいると聞きます。高校の食堂の場合、定食は500円以下が多いですが、成長期の生徒だけに量は減らせません。また、以前よりもおいしさや安全性をうたって保護者の抵抗感も薄まっているコンビニ弁当もライバルになってきています。さらに調理を担当する人手の不足や、後継者がいないといった厳しい状況にもあります。
私たちはこのような高校の食堂の運営を支援できないかと考え、やってみることにしました。とはいえ飲食業の経験はなく、まして障害者が食堂の調理を担当するのは兵庫県の県立高校では初めてのケースになります。それでもチャレンジしたのは、食堂がないと困る親や子どもたちに対する思いとともに、障害者のさらなる働く場所づくりと自立支援の一環になればという思いからです。

まず、障害者の皆さんに食堂勤務の希望を募り、常時3名体制で食堂を切り盛りできるようにしました。障害者の親御さんが『将来の自立のために……』と食堂で働くことを希望されたケースもありました。
食堂で勤務する障害者のほとんどは、炊事の経験もない状態からのスタートでした。そのため、ご飯の炊き方やうどんの茹で方などの練習を積んで、基本的な調理方法をマスターしていきました。
心身に障害のある方は一気に仕事が増えたり、イレギュラーな対応を迫られたりすると混乱してしまいかねません。そこで担当を決めて調理を分担するとともに、タイマーや工程を工夫することで、できる限りスムーズに作業できるよう心がけて 自然に挨拶や接客も出来るようになりました。調理や接客を担当することは、生活力をつけたり、経済の仕組みを知ったりすることにもつながります。
食堂を利用する生徒たちは食べ盛りの年頃なので、から揚げ丼がとくに人気です。たまにご飯やうどんの量が多かったり少なかったりしますが、それも愛嬌というか、子どもたちには高校時代のちょっとしたハプニングとして思い出に刻んでもらえれば嬉しいです。
そして、大事なことは、高校生にとっても日常生活の中で障害者と関わりあえることで、偏見を持つこともなくなることだと思います。
食堂の運営も5年目を迎え、新型コロナウイルスの感染対策を行いながら続けることができています。来年度からは、地元出身でUターンしてくる管理栄養士も採用する予定で、地元のスーパーと連携して売れ残った食品を活用したり、スポーツ部員の食事管理を行ったり、活動を広げていきたいと考えています。

障害者の仕事ぶりを知らないがゆえ、雇用に二の足を踏む企業は少なくありません。この町で障害者が実際に働く姿を見ていただき、活躍できる人材として一般企業が積極的に受け入れる機運を高めていき、さまざまな地域で一翼を担ってもらう。それが私の今後の目標のひとつです。多可町は小さな町だからこそ、フレンドリーなところもあり、都会に比べて、地元の経営者や行政との距離が近いこともあります。
「小さな町だからできない」ではなく、「小さな町だから動きやすい」という長所もあります。人口減少や財源不足など多くの課題を抱える地方で、それをチャンスに変えていくことができることをぜひ知っていただきたいと思います。

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