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「コロナ禍の生活困窮への支援」(視点・論点)

明治大学 専任教授 岡部 卓

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新型コロナ感染症は、社会のなかで潜在化していた問題・課題や制度・政策の不備・不在を顕在化させました。
とりわけ、新型コロナ感染症の長期化に伴う経済停滞と雇用悪化は、社会的に弱い立場にある非正規雇用者や零細企業経営者などに大きな打撃を与え、生活困窮が広がりました。平成から続く格差、不平等、貧困や社会的排除が、新型コロナによって、より拡大・進行・加速化したといえます。

そこで、これら人びとの雇用や生活を支える社会保障制度が平時に増して新型コロナ下において機能することが求められることになります。
 社会保障制度は、雇用や住居が確保されていることを前提に生活保障が行われる仕組みです。

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第1のセーフティーネットとしてすべての国民・住民を対象にする社会保険、社会福祉、公衆衛生・医療等の各制度があり、またそれが十分機能しない場合は第2のセーフティーネットである低所得者対策が、そしてそれも十分機能しない場合は最後のセーフィティネットである生活保護制度が対応することになります。

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この間、一般対策から貧困対策までそれぞれの制度が機能し、またそれを補完・補充・代替する対策として臨時的・応急的な新型コロナ対策が実施されています。例えば、税金・保険料の猶予、個人・事業者を対象として給付、貸付け等です。これは個人を対象にして一律給付した特別定額給付金など,また事業者を対象に持続化給付金、家賃支援給付金などが、また低所得対策としてのコロナ特例の緊急小口資金、総合支援資金(生活福祉資金貸付制度)、住居確保給付金(生活困窮者自立支援制度)、生活困窮者自立支援金等がそれに当たります。
そこで、これら対策で具体的にどのようなことが起きているか。

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低所得対策の生活困窮者自立支援制度の中で、自立相談支援件数が急増し、これはコロナ前とコロナ下と比較して全国で3.2倍(R1相談件数/R2決定件数)、また住居確保給付金については全国で約34倍(R1決定件数/R2決定件数)、また、東京では緊急小口等の貸付けは1,009.5倍(R1決定件数/R2決定件数)、総合支援貸付金が17,146倍(R1決定件数/R2決定件数 ※延長決定分を除く)と驚くべき数字となっています。

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最後のセーフティーネットである生活保護制度は、生活保護受給者数は、平成27年3月の207万人をピークにやや減少、そしてここ数カ月は高止まりし2021年8月現在2037,800人となっています。
このようなコロナ下で起きていることは、結論から述べさせていただきますと、第1のセーフティーネットでは十分機能しない、それによって、第2のセーフティーネットである臨時的・応急的な対策で対応することが起きており、最後のセーフティーネットである生活保護制度にはそれほど大きな増加となっていないということになります。別言すれば、新型コロナにおける生活困窮者対策である臨時的・応急的制度で支えている構図になっています。
ここで低所得者対策と生活保護制度の課題について述べます。
生活福祉資金貸付制度のコロナ特例は、貸付であり返済があること、また同制度は法律で定められておらず国の通知(生活福祉資金実施通知は事務次官通知、特例貸付実施通知は、社援局長通知)で行われており機動力を発揮し利用しやすいのですが、これだけコロナが長期化し貸付から再貸付が続けば貸付対象者の返済額が膨らみ、また生活再建の目途がなかなか立ちにくい人たちが多いため、給付を念頭に置くことが必要と考えます。また、膨大な数の相談・申請・決定を行っていますが、それに見合う人員体制がとられていないため、人員不足や労働環境の悪化等を招いています。さらに、これらは福祉事業であり、貸付を行うだけではなく、相談と貸付がセットになっていますので通常の相談支援が行えない事態となっています。また貸付制度による返済は自立に向けた障壁となりかねないため、必要とする人すべて全てに支援が届くよう、公的な給付による所得減少の補填に切り替え、併せて生活の立て直しに向けたきめ細やかな相談支援の実施が必要です。
この点は、生活困窮者自立支援制度の中の自立相談支援機関、住居確保給付金についても同様のことが言えます。
生活保護制度について、制度の周知・活用を図っていくことが必要です。

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昨年の12月、今年8月と厚労省から生活保護は権利であるとして生活保護制度の周知、相談・申請を必要な場合、積極的に相談・申請を行うことをHPで、また自治体にその旨事務文書を発出しています。しかしながら、制度のハードルが非常に高いため、生活保護の相談・申請・決定に至らない人・世帯(要保護者・要保護世帯)が数多くいます。また特例貸付を紹介や奨励する所もあります。要保護状態にある人・世帯については、生活保護行政で積極的に受け入れていく必要があります。
 以上のことから、社会保障制度の見直しで、制度の新たな組み直しをする必要であると考えます。
1962年に出された社会保障審議会勧告では、すべての国民・住民が加入できる一般所得階層対策としての社会保険制度、また貧困対策としての生活保護制度がある。そこでは低所得者対策が不十分であり、その充実を図るべきであると勧告しています。
1962年勧告以降、所得保障制度は、児童、ひとり親、障害児・者のカテゴリー別の社会手当以外はほとんど創設されず整備されませんでした。そのため、従前からある生活福祉資金貸付制度等に依存した対応に終始し今日に至っています。このことは、リーマンショック、東日本大震災においても同様の措置がとられています。
 コロナ禍で問題が顕在化していることで、とりわけ低所得対策の充実化、貧困対策としての生活保護制度の改善が必要なのではないかと考えております。
 最後に、新型コロナ対策は非常時の応急的臨時的対応で、これはパッチワークみたいな形で、弥縫(びほう)策が長期化していることがあります。

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第2のセーフティーネットに生活困窮者が集中し貸付制度等で対応し,また最終的なセーフティーネットである生活保護制度が出動しているとはいえない状況にありますこの点を考えていく必要があるのではないかと思います。
今回の新型コロナを教訓にして、今後の非常時に備え、大規模災害等で所得減となった人たちの生活崩壊の防止、そして早期再建のため、速やかに幅広く生活費等を給付する非常時の所得保障制度の創設が必要であると考えます。また生活保護制度のハードルを下げ、受けやすく出やすい制度への制度改善と行政対応が必要であると考えます。
「平時に有事の備え、備えあれば憂いなし」。新型コロナに対して備えが十分であったかどうか。その有事に備えるべき政策の脆弱性が顕在化したのではないかと考えます。
政府はコロナ対策として経済政策を幾つか打ち出していますが十分とは言えないと思います。
これを機に、人びとの雇用や生活を支える社会保障などのセーフティーネットの張替をしていくことが必要であると考えます。

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