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「アフガニスタンの課題と日本の役割」(視点・論点)

国連事務総長 特別代表 山本 忠通

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8月15日のタリバンによるアフガニスタン全土制圧は、全世界を震撼させました。今日は、アフガニスタンの現状、特に今の課題、そして、今後アフガニスタンが安定し、再び、テロの温床とならず、地域全体の発展に繋がっていくために、国際社会として、また、タリバンとして、どのような対応が求められているのかを考えてみたいと思います。

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アメリカ軍が、2020年2月の米・タリバン合意に基づき、5月から撤収を本格化すると、タリバンの攻勢も本格化しました。南部や北部での戦いが暫く続いたあと、8月6日に34ある州のうちの最初の州都が陥落しました。そして僅か10日後には、首都カブールが陥落し、ほぼ全土がタリバンの制圧下に入りました。この瞬く間のアフガニスタン政府の崩壊は、殆ど誰もが予想しなかったことでした。制圧したタリバンですら驚いていたようです。
急激な政府の崩壊にアフガニスタンも国際社会も混乱してしまいました。
VTR(カブールの様子)
それまで、政府や外国の軍隊、大使館などに働いていた多くのアフガニスタン人が、タリバンの制圧による報復を恐れ、または、将来を心配して国外へ脱出しようとしました。
テレビなどで、飛行機を多くの人が取りまいている様子をご覧になった方も多いと思います。
タリバンは、この混乱を鎮めて、国民と国際社会の信頼を得るべく政府軍の兵士や外国軍のために働いていた人を含め全ての人への恩赦を発表しました。また、90年代末のタリバンの厳しい統治の再来を恐れる人々を念頭に、女性や少数民族の権利はイスラム法の枠組みの中で認められることを明言しました。しかし、特に政府や軍で働いていた人々や女性を中心に、タリバンが本当に90年代に統治していた頃から変わったのか、約束通りのことを実行できるのかについて、懸念が根強くあります。
20年以上も国の統治から離れていたタリバンが、紛争終結直後の混乱の中で、治安を維持し、国民のために行政を担う大役を果たすのは至難の業です。平時の統治を行う組織に変容していくに当たっては、部内での指導者間の軋轢や葛藤が生ずることは想像に難くありません。しかし、これを乗り越えることが国民と国際社会の信頼を克ち得ていくためには不可欠です

アフガニスタンが今直面している問題を見てみましょう。
最も深刻で、喫緊の課題は、戦火を逃れ避難した人々や貧困にあえぐ人々の救済です。国連人道部門の発表に拠りますと、全人口約3400万人の半分以上の1800万人を超える人々が人道支援を必要としています。12日に開かれたG20首脳会議でも、日本の220億円やEUからの1200億円を含む多額の支援が表明されました。今年は、最近で最も厳しい旱魃とコロナの影響もあり、状況は更に厳しくなっています。11月には冬が到来し、首都カブールは氷点下になります。一刻も早く、必要な資金が供与され、これが、国連職員などにより、困窮する人々に届けられることが必要です。
また国外への避難民も、パキスタンとイランに、それぞれ200万人以上います。国内でも数百万の人が避難民となっています。
次に大きな問題として、国の経済運営が困難に直面し、崩壊する可能性が指摘されています。アフガニスタン政府の崩壊により、経済支援が止まり、また、タリバン内の一部組織と指導者がテロリスト制裁の対象であることから、アメリカにある政府の銀行口座が凍結されています。タリバンも国際社会も、国民を安心させ、社会を安定させ、国際支援を再開させていくために、真剣に取り組むことが必要です。難しい政府承認の問題を避けつつも、経済が回るように資金の流入の方策が考えられなければなりません

タリバンは、治安の維持と行政機能の再開に務めるとともに、何よりも国民と国際社会の信頼を克ち得る努力が必要です。信頼が回復されなければ、政府で働く行政官も戻ってきませんし、教育を受けた有能なアフガニスタン人が国外へ出て行ってしまいます。国際社会の支援も人道支援を除いては容易に回復しないでしょう。周辺国の警戒心も解けないようでは、貿易を含めた関係も回復せず、国の統治が難しくなります。信頼回復のためには、タリバンが、制圧直後に約束したことを実行することが必要です。恩赦などに加えて、新たな政府は、タリバンだけでなく、異なった部族や地方の代表、更には女性をも広く包摂するアフガニスタン全体を代表するものとすることが必要です。テロリストの活動を容認しないことを明確に行動で示していくことも不可欠です。特に、国際社会の強い関心がある女性の権利については、納得のいく対応が求められています。

国際社会の役割も重要です。タリバンに対し警戒心を強めて当たるだけではなく、建設的な将来を見据えた対応を考えていくことが不可欠です。その為には、タリバンに対するメッセージ、即ち、包括的な政治体制、そして女性や少数民族の人権擁護について何を求めるかを、明確で実現可能な形で伝えていくことに加えて、アフガニスタンの経済と社会を安定化させるために、どのように協力できるかを考え、タリバンと話し合い、実現していく方法を探ることが必要です。アフガニスタンが不安定化すれば、日本の1.7倍もある国土の治安維持が難しくなり、テロリストが再び活動することを可能にする恐れがあります。

アフガニスタンの安定と将来に強い関心を持っている国々は多いのですが、利害関係が錯綜しています。タリバンと戦ってきた国々、アフガニスタンを占拠していたことのある国々、直接的な利害関係を有する周辺国は、いずれも歴史を引きずっています。国際社会として偏ることなくアフガニスタンの将来の安定と発展に協力していく為には、これらの国々が協力し合える、乃至は納得する形で行うことを可能にしなければなりません。

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その為に有用な役割を果たせるものの一つに国連があります。特に喫緊の人道支援は、国連が中心となって、各国やNGOの協力を得つつ、取りまとめていくことが必要でしょう。しかし、より大きな政治的な指導力を発揮するためには、国連は、安全保障理事会の決議によって明確な任務を与えられることが必要です。先ずそのために努力することが必要ですが、複雑な利害が錯綜する中では、容易でないかもしれません。このような状況下で、多くの主要関係国や国連と協力しつつ、事態を前向きに動かしていくために有用な役割を果たせる国が幾つかあります。日本は、そのような国の一つだと思います。

日本は、アフガニスタンの復興に、当初から深く携わってきました。
米、欧の主要国と基本的価値観を共有しつつも、アジアなど途上国の考え方も良く理解できます。

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中国やロシアとも深く話し合え、アフアガニスタンを取り巻く国々とは、イラン、パキスタン、インド、中央アジアのいずれとも良い関係にあります。大きな話ですので政治の高いレベルでの意思決定が必要でしょうが、日本は、これらの国々や国際機関と協力して、事態を良い方向に導いていく上で、大事な役割を果たせるのではないでしょうか。故中村哲医師、緒方貞子さんの功績や、アフガニスタンの人々への温かい気持ちは、広く日本国民にも支持されていると思います。
そして、アフガニスタン国民からも歓迎されることでしょう。

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