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「新型コロナ『第6波』への対策」(視点・論点)

東北医科薬科大学 特任教授 賀来 満夫

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 第5波として感染拡大が続いていた新型コロナウイルス感染症は、新規陽性者が急速に減少し、緊急事態宣言・蔓延防止等重点措置は9月30日をもって全面解除となりました。
過去最大規模の感染者が発生し、第5波と名づけられた今回の感染拡大は急速に新規陽性者が減少してきていますが、今後、冬に向けて第6波の感染拡大も懸念されています。
このような状況のなかで、今後、私たちはどのように対応していけば良いのか、本日は、新型コロナウイルス感染症の問題点を整理するとともに、今後取っていくべき対応と、課題などについてお話ししたいと思います。

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新型コロナウイルス感染症は我が国においても、10月4日の時点で170万人を超える感染者、1万7千人を超える死亡者が報告されています。
今回、新型コロナウイルス感染症がここまで感染拡大を起こし、制御することが困難である理由・問題点として4点あげたいと思います。

 まず、1点目は無症状の方からの感染・伝播(でんぱ)があるということです。すなわち、症状が無い人からの感染伝播が起こりえるため、伝播拡大を防ぐことが難しいということなのです。
 2点目は、新型コロナウイルスがマイクロ飛沫により伝播するということです。
新型コロナウイルスは会話などで生じる比較的小さな飛沫・マイクロ飛沫により伝播が起こりやすい状況となります。
会話や大声、歌などによりウイルスが伝播するため、飲食の場などでは特に感染が起こりやすくなるわけです。
3点目は一定の割合で重症化すること、そして治癒したとしても、さまざまな後遺症が発生してくることです。
新型コロナウイルス感染症では、多くは軽症の場合で経過することが多いのですが、高齢の方や基礎疾患などがある方の場合はしばしば重症化し、酸素吸入や人工呼吸器・人工心肺・エクモなどによる治療が必要となってきます。
また、治癒しても倦怠感や息苦しい、嗅覚障害などの後遺症が長く残ることが多く、大きな問題となっています。
4点目は、変異株の問題です。デルタ株とよばれる変異株は、これまでのウイルスに比べ感染性・伝播性が高まっているため、これまで感染を受けにくかった若い世代にも感染が拡大している、といった問題が生じています。

さて、このように多くの問題点がある新型コロナウイルス感染症に対して、どのように対応していくことが必要なのでしょうか。

対応のポイントとして3点挙げたいと思います。
まず、1点目は、感染が拡大した場合でも医療体制のひっ迫を起こさないように、医療体制を整備することが重要です。特に、第6波が懸念される、この冬に向けて、酸素吸入が必要となるような中等症の患者さんに対応できる病床を確保することが重要で、多くの地域で、中等症用に対応できる医療施設の数、ベッド・病床を確実に増やしていくことが必要となります。
2点目は重症化を防ぐために、さらにワクチン接種を進めていくことが重要です。
現在、我が国では、9月30日の時点で2回目の接種を受けた人は59.8%、65歳以上では89.3%となっています。
新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの重症化阻止、死亡率低下の効果は極めて優れており、今後は全年代で少なくとも90%を超えるようなワクチン接種を目指していくことが必要になってくると思います。
また、現在、軽症の人に抗体カクテル療法が導入され、重症化を阻止する優れた効果が認められています。さらに新たな抗体薬も使用できるようになり、このような重症化を阻止する薬剤を、より早く、多くの人に使用できるように、かかりつけ医での外来や往診あるいは自宅での治療が可能となるような医療環境の整備が必要となります。
3点目は健康管理を徹底し、基本的な感染症対策を継続していくことです。
今回、第5波において、急速に感染者が減少した要因として、ワクチン接種の推進に加え、国民の多くの方が基本的な感染症対策を徹底し、感染につながるリスク要因を避けたことが挙げられています。
 ワクチンの接種後、時間が経過するにつれ中和抗体などが減少していくため、ワクチン接種後のブレークスルー感染が認められるようになってきています。
 そのため、今後は健康管理を徹底していく必要があります。

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 東京都でのアンケート調査で多く見られた症状は、発熱や頭痛、倦怠感、せき、のどの痛みなどで、これらの症状が複数みられた場合は、できるだけ早く医療機関に出向き、検査を受けていただくことが必要になります。

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 加えて、3つの密(密閉、密集、密接)となる状況だけでなく、一つの密でも避けること、他の人と接触する場面では不織布マスクなどを確実に着用する:いわゆるユニバーサルマスクの徹底、手洗いの励行、そしてマイクロ飛沫感染を防ぐ換気の徹底などの感染症対策を総合的に継続し、リスクを軽減していくことが極めて重要です。

 最後に、新型コロナウイルス感染症対応についての今後の課題について、お話ししたいと思います。

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 今後、我が国では、ワクチン・検査パッケージが推進されようとしています。
このワクチン・検査パッケージによって、社会活動・経済活動を再開させていくことは非常に重要ではありますが、その前提として考えていかなければならない大切なポイントがあると思われます。
すなわち、ワクチン接種が進む中で、ワクチンを受けることが出来ない方に不利益が及ばないことが重要であり、その点をしっかりと考えていく必要があることに加え、ワクチンの持続的な効果についての検証、検査については、検査の精度管理ならびに、検体採取法などによる検査結果のデータの評価解析なども併せて行っていく必要があると思われます。
さらに、今後とも新たな変異株が出現する可能性があり、現時点での対応では不十分な事態が起こることを考慮に入れた感染症危機管理対応が必要となると思います。
そのため、今後、感染症対応を考慮に入れた医療体制の充実、変異株のモニタリング体制の構築、ワクチンや抗ウイルス薬の臨床評価、さらに新規のワクチンや治療薬の開発推進など、感染症に対する総合的な危機管理対応の充実が望まれます。
特に、医療体制の充実については、感染症の専門家やエクモなどの集中治療などに対応できる専門家の育成、マイクロ飛沫感染に対応できる感染防止機器の開発や医療環境の整備など、ソフト面・ハード面における充実を早急にはかることが重要です。
加えて、さらに、日常生活のなかで、マスクの着用や手洗い、換気などのさまざまな感染症対策を啓発・教育により充実させ、リスクコミュニケーションなどを通じて、感染症対策を社会全体の文化として定着・醸成させるソシアルネットワークを構築していくことなども重要であると思われます。
感染症は個人を超え、施設に、そして社会全体に広がる病気です。
感染症がゼロとなる世界は今後もありえません。そのため、多くの人々が情報を共有化し、連携協力し、支援、リスクコミュニケーションなどに関して平時からソシアルネットワークを構築し、総合的に感染症をマネジメントしていくことがヒューマンワクチンとなることを強調して、本日の話を終わらせていただきたいと思います。

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