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「不登校の子どもを学びにつなぐ」(視点・論点)

NPO法人カタリバ 代表理事 今村 久美

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本日は、今増えている学校に行っていない不登校の子どもたちを、誰一人取り残すことなく学びにつなぐためにどうしていくべきかについて、考えたいと思います。

不登校の現状について
まず、不登校とは「1年間に30日以上学校を欠席している」子どものことです。文部科学省の調査では、日本全国で23万人の子どもが不登校です。
また、中学生を対象にした日本財団の調査によると、「不登校傾向」の子どもたちは33万人いるというデータもあります。
保健室に登校している子、遅刻早退が頻繁にある子、教室にいるけど本当は学校が辛い子などです。中学生の10人に1人は、こうした傾向があると言われています。
不登校理由はさまざまです。学校の学習スタイルが合わない子もいれば、集団行動が苦手だったり、先生との相性が合わないケースもあります。
また中には、発達に課題を抱える特性を持つ子や、特定分野において先天的に同世代と比べて突出した才能を持つ「ギフテッド」の子どももいます。最近では、「2E:Twice-Exceptional 」という、発達障害とギフテッドの両方の特性をあわせもつ子どもたちも、不登校になりやすい傾向にあると言われます。彼らの才能はでこぼこがあり、苦手な部分が目立ちやすく、持ち前の才能を見逃される傾向があります。そういった子どもたちの才能をどう伸ばしていくか、文部科学省でも議論がはじまりました。昔は不登校の子どもに対して、「わがまま言ってないで学校に行くべきだ」という意見も、多くありました。しかし、こうした様々な特性を持つ子どもたちが、一律に学校で学ぶことは難しい事実が、だんだんわかってきています。無理な通学ばかりが選択肢ではなく、学校以外に学ぶ場を選択してもいいと2016年に法律でも認められました。個別の特性にあわせた学習環境を保障し、それぞれの良さを伸ばしていく考え方がスタンダードになりつつあります。

現在の不登校支援の問題
憲法26条には、「義務教育は無償とする」と明記されています。「学校が合わないなら休んでもいい」と認めるのであれば、別の形で学び続けられる教育福祉を保障する必要があります。

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現在、不登校の子どもが無償で受けられる公的支援は、教育支援センターや適応指導教室があります。
しかし、設置は約63%の自治体に留まり、残り37%の自治体にはありません。未設置の一つの理由は、自治体の財源不足です。不登校の子どもたちにあわせたカリキュラムを実施する「不登校特例校」も少しずつ増えていますが、全国にまだ17校しかありません。
学校以外の選択肢を探したくても、民間のフリースクールなどがない地域もあります。また利用料金は家庭負担になり、国の調査ではフリースクールの毎月の利用料は平均約33000円。授業料とは別に入会金などが必要な場合もあり、家計に負担がかかっています。オンラインのフリースクールも基本的には有料ですし、WIFIやパソコンなども必要になります。
学校以外の学びの場を見つけるには、保護者の相当な努力と時間、経済負担が必要になります。中には、子どもの不登校を何とかしようと親が仕事をセーブし、貧困状態になる家庭も少なくないようです。
自分にあった教育を受けていたら伸びたかもしれないその子のよさが、今の社会では潰れているかもしれないのです。特に、経済的に困っている家庭や、地方で生きる子どもたちほど、取り残される傾向があります。この状況を続けていていいのでしょうか?
毎年夏休み明けには、「学校に戻りたくない」と自殺する子がいます。ひとりひとりにあわせた学びの環境につないでいくことは、子どもたちの命を守ることともいえると思います。

カタリバの不登校支援の取り組み
私が代表を務めるNPOカタリバでは、島根県雲南市で教育支援センターの運営を2015年より行ってきました。
そこでは、市内にある合計24校の小・中学校を教育委員会の職員と訪問し、「どの子が不登校傾向で、今どんな状況にあるか」を定期的に調べるところからはじめました。
ひとりひとりの状況や特性を把握した上で、学校の先生が関わるか、またはNPOスタッフが家庭訪問をするかを分担し、まったく誰ともつながれていない状態の子どもを少しでも減らせるよう、取り組んできました。

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学校に行くのが難しく家にずっといる子どもに、いきなり施設に来てもらうのはとても難しいことです。スタッフが何度も自宅を訪問し、子どもとゲームをしたり趣味の話をしたりする中で関係性ができだんだん心を開いてくれ、徐々に施設に来るようになりました。また、保護者への子育て講座を行ったり、困りごとは電話で随時相談に乗るなど、家族へのサポートも実施してきました。
こうして丁寧に子どもたちを支援するには、人手が必要です。「できるものなら丁寧な支援をしたいが、予算も人手もない」というような状況は、全国のさまざまな地域で起きています。

オンライン支援という選択肢
こうした状況を改善し、より多くの子どもをケアしていくための取り組みを、今年から経済産業省の支援を受けてカタリバで始めました。オンラインの不登校支援プログラムです。

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2つの特徴があり、1つはSNSによる保護者相談です。SNSやオンライン通話サービスで、抱えている悩みや希望を聞きながら、子どもに合った選択肢を探すプロセスに伴走します。
2つめは、子ども向けのオンラインのサポートルームです。「おはよう!」と朝の会に参加して生活リズムを整えたり、一人でゆっくり学んだり、他の子どもたちとオンラインで話したりできます。また子どもの特性にあわせた個別支援計画をつくり、生活リズムの見直しや学習習慣の定着、そしてオンラインではないリアルな居場所への参加を促していきます。
また経済的に困っている家庭の子どもたちへは、フリースクールに通学するための活動支援金も準備しています。既存の学校がどうしても合わないけれど、フリースクールは高くて通えないという家庭に向けた支援です。
これまでは「家庭でひきこもる」か「学校に頑張って行くか」という2択しかなかった子どもたちに、「オンラインでいつでも見守ってくれる誰かとつながり、学びをはじめられる」という選択肢ができたのです。
また、「オンラインだからこそできること」として、地域を超えて多様な大人や子どもとの出会いがあります。学校にはなかなかいない同じ趣味を持つ子供たちと集ったり、いろんな特技がある大人との出会いがあります。アートやプログラミングの専門家のワークショップや、外国の人と英語で話すようなプログラムにも参加できます。学校だけでは関心のある学びを見つけられなかった子も、興味ある分野を見つけ、意欲を取り戻していけるかもしれません。
オンラインを活用することで、小さな自治体でもコストをおさえて、不登校の子どもの支援がはじめられます。

おわりに
学校に通えないというと、社会はどうしても「足りないところを埋めよう」という目で、子どもを見てしまいがちです。その中で、自信を失っていってしまう子どもや保護者が、たくさんいます。でも、学校に合わないということ自体は悪いことではありません。
「なぜみんなと同じことができないのか」とできないことにフォーカスするのではなく、ひとりひとりの違いを認めてできるところを伸ばしていく関わり方もできるはずです。これだけ社会の当たり前が変わってきています。世間の標準とされることから外れた子どもたちのことを変えようとするのではなく、今の社会のサポートのあり方や私たちのまなざしを変える必要があります。
どんな環境に生まれた子どもたちも、それぞれにあわせた教育を受ける権利があります。
官民で連携したり、オンラインを活用したりと工夫しながら、これまで支援を届けてこられなかった子どもたちへも学ぶ機会を届けていけたらと思います。

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