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「新型コロナ 子どもを感染から守る」(視点・論点)

国際医療福祉大学 教授 和田 耕治

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夏休みが終わり、学校の新学期を目前として、新型コロナウイルスの感染が学校で広がるのではないか、子供たちは大丈夫なのかと不安が広がっています。デルタ株の感染が主流になる中で、幼稚園保育園から高校生の間でどうしたらいいのかについて今回お話します。

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デルタ株が主流になって、感染が広がりやすく、20歳未満でも感染者が増えています。しかし、新型コロナウイルスの感染は、従来の株でもデルタ株でも、大人の間での流行が地域の拡大に最も影響しています。ウイルスの広がりの特徴としては、20代から30代の間での広がりが大きく、そこから更に上の中年の年代や子供たちに広がっています。これまでは高校生以下の年代は比較的感染から守られていました。これは、冬に流行していたインフルエンザが主に10代以下で感染が広がり、そこから成人や高齢者に広がっていた特徴とは異なります。

この夏休みの間に、塾、スポーツ、幼稚園や保育園の場面で比較的多くの感染者が報告されました。しかしながら、大きな感染拡大には大人が関わっていることが特徴として見られています。なかなか休めない大人が新型コロナの症状があるのに仕事を継続したというように、その背景には休んだ場合に変わりになる人が少ないということもあると考えられます。

デルタ株とその感染拡大の影響により、幼稚園や保育園のお子さんからその親に感染するといった事例は以前より増えています。そうしたこともあってか、新学期の再開を延期する議論が自治体で行われています。

地域の流行の規模にもよりますが、自治体で延期を検討する際において留意しておきたいことは、幼稚園保育園から高校生の新学期の再開を少し遅らせたとしても、地域の流行の主体は大人ですので、大人の活動が止まらない限りは、少しの期間を遅らせたとしても感染がさらに拡大し、逆に延期した後の再開の判断が難しくなることもあり得ます。
たとえば、こうした状況において感染対策を再度徹底するために新学期の最初の数日は慎重に半日にするなどして感染対策の確認をするのはよいかもしれません。
学校などを休校にすると仕事に行けなくなる親も増えますし、子供たちの学びの機会が奪われます。子供たちの学校ができるだけ継続できるように大人が努力して感染を減らしていくことが求められます。

幼稚園保育園から高校での感染の経路は4つあります。

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大人(教員や職員)同士の感染、大人から子供への感染、子供から大人への感染、子供同士の感染です。それぞれ特徴が異なります。
新型コロナウイルスにおいては、通常は大人(職員)同士の感染が最も起こりやすいと言えます。
また、大人から子供への感染が次に起こりえます。これらのことから言えることは、特に重要なのは学校にいる大人の感染をどう防ぐかです。
学校の先生は担任を持っていますので、急に体調が悪いからといって休むことが難しい状況にあります。そのため、まずは学校の先生が、体調が悪ければ休めるようにすることがなによりも重要になります。学校の中で教師がお互いにカバーできるようにすること、それでも難しい場合には教育委員会などが支援することも必要かもしれません。ワクチン接種がこれからと言う先生もおられる場合には接種のためと副反応の休みがとれるようにするべきです。

新学期からは、学校の先生が迅速抗原検査という器具を用いて検査をしやすくする動きを政府は支援しています。使い方と、結果の判断は慣れないと難しいですが、こうした技術を工夫して使いながら感染拡大をいち早く防止し、学校をできるだけ止めないようにすることが求められます。なお、こうした検査の器具を生徒に使うことは、その判断や検査の同意などの問題もあり、今後高校生ぐらいから使ってみるということもあるかもしれません。中学生以下の子供たちについてはもう少し検討が必要です。

さらに学校現場で難しくなるのは、学校の中で感染者が確認された場合に保健所が対応できなくなっている地域が多いことです。今後は、感染者がでた場合には様々な判断を学校や自治体がする必要がでてきます。
学校において、感染者の情報の取り扱いには注意が必要です。くれぐれも感染した方が責められたりすることがないようにしたいものです。また、症状の確認を毎日学校で行い、もし症状がある人が増えたり、感染者が確認された場合には学校で一時的な休校などを判断する必要があります。養護教諭や学校医との連携も必要です。

次に子供から大人への感染、子供同士の感染はデルタ株によって増えているかです。

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10歳代以下の感染者の数は増加しています。しかし、18歳未満である特定のこどもの年代の感染者の割合が特に増えているかということについては、デルタ株を考慮しても今のところは明らかではありませんでした。今のところは、地域での感染の拡大によって数の増加が子供の感染者の増加の原因として考えられています。もちろん、今後学校が再開された場合にどうなるかは慎重に見ていく必要があります。

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感染拡大が止まらないような地域では、一時的には接触の機会の多い部活動や授業でも歌うなどの機会は減らす、お昼ご飯の間の黙食の徹底も必要でしょう。教室の換気をこまめにするなどもぜひ行ってください。また、マスクは不織布製のマスクを基本として、ウレタン製のマスクは効果が少ないので避けることも改めて呼びかけたいものです。

さて、家庭において感染対策としてできることがたくさんあります。
家庭に感染が広まるという状況において、親が持ち込むことが多いです。

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会食、会合への参加など仕事やお付き合いで断りづらいこともあるかもしれませんが、できるだけこうした機会を今は減らしていくことが求められます。
毎朝、家庭でお互いに、咳、咽頭痛、発熱、下痢などの症状がないかを確認します。少しでもあれば数日休むなどの対応が求められます。前の晩に熱があったけど、朝おきたら下がっていたからということで出かけるようなことがよく聞かれますが、そうした症状は新型コロナでもよく見られます。ぜひともその後数日は休んで症状の変化を確認したいものです。

幸いな事に子供たちの多くは感染しても症状も軽めのことが多いです。それでも感染者の数が増えれば重症になった方も報告されていますのでその体制整備を地域の医療機関はする必要があります。
ワクチン接種は現在12歳以上が対象ですが、まだまだ重症化しやすい40歳から60歳の年代の接種が十分でない以上はその年代からが優先されます。しかし、接種できる機会があれば親子で話し合って接種することは良いと考えます。

中長期でみると、新型コロナウイルスは冬に流行することが多いです。もしかしたら、この冬はワクチン接種が進んだとしても感染が拡大するかもしれませんし、昨年は流行しなかったインフルエンザが戻ってくる可能性もあります。オンラインなどを一時的に授業として活用できるような体制整備も併せて行っておきたいものです。

子供たちは私たちの宝です。大人たちが感染によるリスクに不安になるのは当然です。だからこそ、家族、教員、そして地域が一体となってできるだけ学びの機会を継続できるように協力しなければなりません。
私たち感染の状況を見ている公衆衛生や医学の専門家は、引き続き、子供たちの感染の状況や、学校での休校などの強い対策が必要であればいち早く発信できるようにしていきます。

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