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「日本と世界のバリアフリー事情」(視点・論点 )

バリアフリー研究所 代表 木島 英登

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私は高校3年生の時、ラグビー部の練習中に下敷きとなり背骨を骨折。脊髄を損傷し、車イス生活となりました。大学1年の夏、アメリカにホームステイしたのをキッカケに、中東、アフリカなど、27年間で世界175ヶ国を訪問。旅はライフワークとなっています。

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初めての海外・アメリカは驚きの連続でした。まずトイレに困らなかった。いわゆる障害者用トイレは無いのですが、どこにいっても車イスが入れる広いトイレがあるのです。
どのお店、レストランにも入れました。そもそも段差がない。スロープを使う必要もない。バスや地下鉄も自由に使えました。帰国したとき、自分に障害があることを思い出しました。
アメリカでの1ヶ月は、車イスに乗っていることを忘れて生活していたのです。

世界中を旅していくと、それぞれの文化、習慣、常識が違うように、バリアフリーについての考え方、設備も世界で異なる事が分かりました。車イス対応トイレの整備についても、違いがあります。

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日本、アジア、ヨーロッパでは障害者専用のトイレを作ります。メリットは重度の人でも使いやすいことです。デメリットは、数が少ないこと。設備にお金も場所もかかること。維持管理に手間がかかります。

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 これに対して、北米、中南米、オセアニア、南部アフリカではトイレの一番奥を車イス対応として広くしています。メリットは、数が多いこと、どこにでもあること。設置にお金もかからず場所をとらないことが挙げられます。デメリットは重度の人が使いにくい。異性の介助者が入りづらいことです。

次に、ホテルの車イス対応客室を見ていきましょう。日本では2006年から、50室以上のホテルや旅館を建築する際、1つ以上のバリアフリールームの設置を義務付けています。しかし、新築ではない古いホテルは対象外。何100室もある大きなホテルでも1つしか作らないのが実状です。ようやく昨年の9月になって、客室の1%以上と義務基準が改正されましたので、今後に期待したいところです。

観光バリアフリーの国際会議によく出席しますが、世界では100室に1つを車イス対応にするのが共通認識です。トルコ、南アフリカでは、50室に1つ。フランスの大手ホテルチェーンは、各階に1つという設置をしています。

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部屋の大きさは他と同じで、バスルームが少し広い。特別な優遇がないので数を沢山作れます。こちらの画像のように、バスルームにシャワー椅子、壁に「ロール・イン・シャワー」を取り付けるのが、他の部屋との違いです。アクセシブル・ルームと呼ばれ、障害者専用になることはなく、予約も簡単です。お風呂文化の日本ではバスタブを設置して、2部屋を1つにして車イス対応部屋を作ることが多いため、経営側としては数を増やしたくないのが本音でしょう。

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更に、情報開示ついても課題があります。新しいホテルで対応客室があるはずなのに、ホームページに何も記載がないことがあります。情報がなければ、使うこともできません。情報がない=バリアフリーではない。歓迎されていないと判断されます。こちらのホテルのように利用者が判断できるようバリアフリー情報を、ホームページで開示してほしいと思います。

次は競技場やコンサートホールの車イス対応について見てみましょう。訪れたい施設に車椅子席があるのかないのか、利用者として知りたいのは、当然の事です。日本では情報公開が適切にされていない事が多く、イベントの主催者によっては、車イスで座れる席があるはずなのに、販売しない場合もあります。

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野球場の車イス席の設置数を見てみましょう。公式ホームページによると東京ドームは、22席。甲子園は35席です。アメリカ、サンフランシスコの野球場では、300以上の車イス席がどのエリアにも設置。ヤンキースタジアムも500席以上。桁が一つ違います。こちらの画像を見ていただきますと、車イス席がどのエリアにも用意されているのが分かるでしょう。一般席と同じようにどこにでも座れ、利用が出来るため、障害者割引もありません。車イス席もネットで簡単に買えます。良い席に座りたければお金を出す。安い席がよければそこに座る。車イス利用者だけでなく、階段昇降が苦手なお年寄り、肥満の人、ベビーカーなど、座りたい人が自由に利用します。

専用のバリアフリーか、兼用のバリアフリーか、考察します。日本では障害者スポーツセンターがよく整備されていますが、アメリカの大学にいたとき、大学のジムは地域住民にも開放、障害のある人も多く利用していました。私も混じってトレーニング、水泳をしていました。イギリスでも、車イスの友人が属するカヌークラブに同行したら、地域にあるジムのプールでした。障害のある人も一緒に地域スポーツクラブに属する仕組みになっています。知的障害の人も来ていました。オーストラリアの車イスラグビーチームを訪問する機会があり、練習場所は地域のスポーツセンターでした。共生ですね。

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共に生きる。こちらの写真をご覧ください。日本ではサービスの現場で障害のある人を見ることはありませんが、海外では、チケットのもぎり、案内所、土産物屋さん、スーパーのレジなど、働く車イスの人をたくさん見ました。 共に働く! 共に学ぶ! 共に生活する! バリアフリーな社会を実現するために、これが単純明快な方法です。東京オリパラ。予定通り開催されるのなら、障害当事者のボランティアを沢山採用して、現場で活躍して欲しいと願います。

 バリアフリーに対する意識。全ての要望を満たそうとする日本、最低限の保障をする欧米。違いがあります。「質」と「量」。その線引きが難しいところです。利用者も完璧を求めすぎているのではないでしょうか? 100人いれば、100のバリアフリーがあります。すべての人が満足できる設備やサービスを追い求めるのではなく、費用に対する効果の視点も考慮した、現実的な妥協点も必要です。

介助や対応の仕方。心のバリアフリーですが、大げさで別案内も多い日本と違って、自然な振る舞いで、周囲の人々も気軽に、手助けしてくれることが多いのが、海外の特徴です。100点満点でなくても、60点70点でもいいから、広く浅くどこでも対応できることがあっても良いと思うのですが、「障害のある方はこちらで対応します」という、狭く深い対応で、特別視をし過ぎる気がします。足し算のバリアフリー「何があれば便利か」ではなく、引き算の考え方「何があれば十分か」。そのような考え方も必要ではないでしょうか?

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 せっかく作ったバリアフリー設備やサービスも、利用者がいなくては持続可能なもの(sustainable)にはなりません。施設側と利用者、互いの対話を通じて、トライ&エラーを繰り返し、よりよい設備やサービスにしていく必要があります。2016年に施行された障害者差別解消法でも、勝ち負けではなく、話し合い・対話の中での実現可能な落としどころ、合理的配慮を提供するべきとしています。

バリアフリー社会の実現へ。特別ではないもの。専用ではないもの。一緒に使える施設・サービス。 もっと気軽に! もっと自然に! 誰にでも住みやすい、バリアフリーな社会が実現することを願っています。

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