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「ドローン+センシング技術が農業の未来をつくる」(視点・論点)

京都先端科学大学教授 沖 一雄

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 この数年、ドローンが急速に普及して、身近に活用されるようになってきました。スマートフォンで簡単に操作できるドローンが登場したり、鳥からの視点のように上空から見下ろした映像を見た方も多いと思います。
私はこのドローンとリモートセンシングという技術を組み合わせて、農業分野での活用を研究し、実際に試しています。

皆さんは、ドローンは知っているが、リモートセンシングについては知らないという方がほとんどだと思います。
そこで今日は、これらがどのような技術で、農業にどう役立つのか、また未来の農業がどう変わる可能性があるかについてお話ししたいと思います。

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 リモートセンシングは、簡単に言えば離れた場所から対象としている物体の状態をセンシング、つまり測定する技術です。
例えば人工衛星に搭載された各種センサによって、雨雲の状態や海水温などを計測している技術もリモートセンシングの一つです。これらは、天気予報や漁業などに多くの役立つ情報を提供しています。センサは人工衛星ばかりでなく、航空機、そしてドローンなどにも搭載されます。

 私の専門はこのリモートセンシングと呼ばれている分野で、主に農作物の状態、森林伐採、湖沼、河川などの水質、そして農作物を荒らす鳥獣の頭数などを計測する手法の研究をしております。その中で、特に近年、天気が悪い、すなわち雲が多いと観測できない人工衛星と違って、いつでも・どこでも・気軽に使えるドローンに高度なセンサを搭載させ、農作物の管理に役立てる研究を進めております。

 私はこれまで、主に人工衛星を使ったリモートセンシングで、農作物の管理や、森林伐採などの環境の変化を見ていく研究を、長らく行ってきました。しかしながら、私が利用していた人工衛星は数週間に1回しか対象地点を通過しませんし、それも対象地点の上に雲がかかっていたり、空間分解能が悪く細かく見られません。農作物の場合、少なくても1週間に1回くらいは観測していって、ようやく役に立つ情報が得られるので、しばしば歯がゆい思いをしていました。それが、ドローンの登場により、状況は大きく変わりつつあります。
<VTR ドローン飛行 ナッツ畑を観測> 
これは、ドローンがアリゾナの広大なピーカンナッツ畑を観測している映像です。
いつでもどこでも気軽に飛ばすことができるし、雲の下でも飛ばすことができます。早く飛ばすことも、低く飛ばすこともできるので、空間分解能も上がり、葉の虫食いなども見ることができます。いろいろな飛び方をさせて、さまざまな観測データを得て、そのデータ解析から農作物の全体像を捉えようとしています。
このドローンは、前もって決められた高度120メートルのコースを飛び、観測が終わるとスタート地点に戻ってきます。そして観測したピーカンナッツの樹木画像から、生育状況を把握します。

s200907_012.jpgのサムネイル画像

ドローンにはさまざまなセンサが搭載されています。これは800メートル四方の中にある、約9000本の樹木を計測したものです。左の図はNDVIといって、近赤外光と可視赤色光の反射率を計算しています。中央の青い図は、熱赤外で葉の温度を計測したデータです。これらを解析することで、ウイルスに感染している可能性の高い樹木の抽出や、活性度、つまり植物の元気さが分かります。

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これも同じく800メートル四方の中にある木々を、高さで色分けしたものです。成長具合を評価して、一本一本管理することができます。

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左下の図を拡大してみると、青色の部分が樹高が低い、つまり生育が悪い木々があることが分かります。特に、ドローンを使うことで少ない人数で管理することができます。

<VTR ドローン平行移動 実の数の計測>
また、この映像はドローンを樹木に接近させ、ピーカンナッツの実の数をAIで自動で数えさせています。これによって、どのくらいの実ができているかが、収穫する前に把握することが可能になります。さらに、収穫でどのくらいの取り損ねがあるかも把握できます。

 一見良いことばかりのように思えますが、次に現状におけるドローンの課題についてお話します。
 いちばんの課題は、衛星に比べて圧倒的に観測範囲が狭く、限られていることです。これはバッテリーの問題ですね。飛べても20分くらいです。無線給電ができるようになるといいと思います。または掃除ロボットのように、バッテリーの残量が少なくなってきたら、ドローン自ら充電器のところに戻ってくる、そして充電したらまた自ら飛んでいくといったシステムがあればいいですね。このようなシステムの研究はいろいろなところで行われているようです。

 また、複数のドローンを一度に飛ばして、広域を対象とした情報を得るという研究も行われています。ドローン同士が通信しながら、相手の位置と進む方向を確認して安全を確保しながら、大量のデータを取得する方式です。複数のドローンの運行方式やルールは、ドローンの活躍の場が広がった時点で、非常に重要になります。

 そういうものができたら、ドローンの使い道は大きく変わるでしょう。ただし今は、法律上の問題があります。ドローンは、それが見える範囲でしか飛ばしてはいけないことになっています。例えば、ドローンで物を運ぶ研究にしても、目的地までの間に人が立っていて、「今、通った」と確認しながら実験を行っています。技術的にはかなり遠くまで安全に飛ばせるレベルに到達していると思うのですが…。
 ドローンを含め、リモートセンシングで大事なことは、データを取るだけでなく、それをいかに役に立つ情報に変換して、人々に利用してもらうかということです。地球を観測する衛星の中でも、気象衛星は私たちに天気を教えてくれますが、他のものは科学研究の役には立っても、一般の市民に役立つ情報を提供してくれるものは少ないですね。これは人工衛星の今後の課題です。
ドローンを、電気や水道、インターネットのようなインフラとして社会に組み込んでいくことが重要ではないかと思っています。ドローンが飛んでいるのが当たり前で、その情報を使って、私たちの生活レベルを上げることのできる社会を実現していきたいと思っています。

 最後に、こうした課題が解決できた時に、未来の農業がどのように変わる可能性があるか、お話ししたいと思います。

農業は、今後後継者がどんどん減っていきます。

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これは今私が研究している、ドローンによって、農業のプロが現場にいなくても果樹園を管理できるようにするシステムです。まずドローンが農作物を3次元計測し、取得したデータをVR・バーチャルリアリティ化します。そのVRを、農場にいない農業のプロが見て、いつどんな作業をすべきかを決めます。作業内容はゴーグル型のコンピューターに送られ、そのゴーグルをかければ、農業に詳しくない人でも、指示に従って作業することができます。やがてはこのプロの判断も、AIで行うようにします。そうなれば、農業経営に参入するハードルがぐっと低くなります。

このようなシステムによって、10年後、20年後には少ない人数で広域な農地を管理し、収量を落とさずに、品質の高い農作物を作り出せると考えています。
そのためには、農地の在り方も今とは違い、ドローンなどの機械化を念頭においた、すなわち高度なセンシング技術を取り入れたドローンなどの機械が働きやすい、例えば整然と樹木が並んだ新たな農地整備などが必要であると考えます。

是非、明るく開けた農業の未来をつくり出していきたいと考えています。
ありがとうございました。

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