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「豪雨災害多発時代にどう備えるか」(視点・論点)

東京理科大学 教授 二瓶 泰雄

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 今年の梅雨の期間は長く、全国的に大雨となりました。特に、熊本県球磨川の大規模水害を始めとして、国が管理する筑後川や最上川などで氾濫する事態となりました。これらの水害では多くの人的被害が発生し、被災地では、現在も日々大変なご苦労をされている方々が多くいると思います。2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号に続き、今年も大規模な豪雨災害が発生しました。球磨川の豪雨災害を踏まえて、“豪雨災害多発時代”にどう備えるかを考えていきます。

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【球磨川の洪水氾濫の特徴】
 今年7月の球磨川における洪水氾濫被害の特徴は、1.予測が難しい線状降水帯が夜間に発生、2.広範囲・長時間の越流、3.多くの家屋流失、4.合流部の氾濫リスクが挙げられます。では一つ一つの特徴を見ていきます。
まず、ひとつめの特徴は、線状に伸びる雨雲が同じ場所に停滞する「線状降水帯」が球磨川の流域全体に長時間かかったことです。
VTR1(線状降水帯)
線状降水帯は、災害が起こった前日の7/3夜から発生し、翌朝にかけて400mmを超える大雨をもたらしました。線状降水帯による災害は、2014年の広島県の土砂災害や、2015年の関東・東北豪雨による鬼怒川の洪水氾濫など、多くの被災事例がありますが、「線状降水帯がいつ、どこで発生するのか?」を予測することは現在でも難しいです。今回も、事前に予測されていなかった線状降水帯が、夜間に発生したことが被害を大きくした要因の一つと考えられます。
 この大雨により、大規模な洪水氾濫が球磨川で発生し、特徴2のように、非常に長い区間で、最長半日程度も河川からの氾濫が発生しました。

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球磨川沿いに設置された18箇所の水位計のデータを分析したところ、18か所のうちの14か所、距離にして約60キロの範囲で氾濫が発生しました。水位が最も高い場所では堤防を5メートルも上回った上、氾濫していた時間は最も長い場所で半日にわたっていました。その結果、最大の深さが9mに達する浸水が非常に広い範囲で発生しました。

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この写真のように、元々の川の位置が分からなく、川と周辺の住宅地の境目も見えなく、谷の底全体が川となるような大規模氾濫が発生しました。
 特徴3として、河川周辺の住宅街でも川のようになったため、多くの家屋が流されました。一般的な洪水氾濫では、堤防決壊地点付近において河川から氾濫した激流により家屋が流される例は多々ありますが、決壊地点から離れれば家屋が流される事例は多くありません。
VTR2(住民動画)
今回、住民が撮影した動画を解析したところ、流速は3m/s以上に達し、これは、堤防決壊地点近傍で生じる流速の大きさです。このような速い流れから家屋は大きな力を受けたため、家屋は流失してしまったものと考えられます。そのため、1階から2階に逃げる垂直避難が通用しない洪水氾濫となりました。早めに、避難所や近くの高台などの安全な場所への水平避難が必要となります。
 最後の4つめの特徴は、合流部の氾濫リスクが高いことです。今回、老人ホームで14名の方が被害にあわれました。
VTR3(合流部の氾濫リスク“千寿園”・シミュレーション)
この老人ホームは、球磨川の支流の脇に立地し、その支流が球磨川に合流する地点のそばにありました。氾濫シミュレーションを行ったところ、老人ホームの周辺では急激に浸水が進み、1時間に1m以上と極めて大きなスピードで水位が上昇し、結果として、浸水してからの避難は困難であったと思います。この合流部付近では、球磨川とその支流、背後の山に囲まれ、水の逃げ場がなかったことが、浸水が速い要因です。合流部では、毎年のように顕著な被害が出ており、氾濫リスクが高い場所といえます。日本の各地に合流部は数多くあるので、近くに住んでいる人は、普段から水害への備えを心がけてほしいと思います。

【国の取り組み 流域治水への転換】
このように豪雨災害が多発する状況に対して、国は、これまでの治水対策の考え方を転換して、「流域治水」を推進しています。

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これまでの治水対策では、主に河川改修やダム整備等を行い、なるべく水をあふれさせない対策が主流でした。一方、流域治水とは、気候変動の影響や社会状況の変化などを踏まえて、これまでの河川改修やダムに加えて、遊水地や霞堤などで水を貯める場所を作るなど、川だけでなく流域全体で水害に備えるものです。そのため、国・都道府県・市町村・企業・住民などのあらゆる関係者が協働して、流域全体で洪水に備える必要があります。具体的な対策メニューとしては、河川整備や堤防強化、遊水機能向上等の「氾濫をできるだけ防ぐ対策」に加えて、土地利用規制やリスクの低いエリアへの誘導・住まい方の工夫などの「被害対象を減少させるための対策」が挙げられます。また、避難体制強化や土地のリスク情報の周知など「被害の軽減・早期復旧・復興のための対策」もあり、ハード対策とソフト対策を一体化して進めています。このように、川だけでなく、流域でも水を貯めて、流域全体で水害リスクを分散させることが極めて重要となります。

【今後への備え:今すぐできること】
 流域治水は重要な考え方であり、今後推進していく必要がありますが、様々な治水対策を進めるには、多くの時間と予算を必要とします。そのため、住民自身が主体的に豪雨災害多発時代に対して備える必要があります。今後への備えとしては、今すぐできる「短期的」なものと「中長期的」なものについて考えます。
 今すぐできる短期的な備えとしては、「3つの知る」を実践することが大切です。

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まず、「今を知る」です。住んでいる地域の浸水リスクを、ハザードマップを見て知る必要があります。ハザードマップには、浸水の範囲だけでなく、浸水の深さや、場所によっては、浸水の継続時間も分かります。ハザードマップの情報から、いざ洪水氾濫が起こった時にどこに避難すべきか、どこが安全な場所かを考えることは、コロナ禍で三密を避けた避難を行う上で重要です。また、大雨の予報があったり、降ったりしている最中には、気象情報や近くの河川の水位情報、避難情報を小まめにチェックしましょう。ハザードマップや河川水位情報はインターネット上で簡単に見ることができます。大雨が発生してから見るのではなく、普段から見慣れておくことも大切です。
 次は、「昔を知る」です。過去、住んでいる地域に何が起こったのかを学ぶものです。最後に、「他を知る」です。他の地域で起こった災害を「我が事」として捉え、「もし地元で同じことが起こったら」と想像してください。「今を知る」「昔を知る」「他を知る」という姿勢で災害を学んでいただき、今後の豪雨災害に備えることが大切だと考えます。

【今後への備え 中長期的な備え】
中長期的な今後への備えとして、我々の住まい方を見直すことが挙げられます。例えば、浸水想定区域に住んでいる場合は、2階以上の頑丈な建物にすることが考えられます。また、いきなり住まいを変えるのは難しいかもしれませんが、引っ越しや家の建て替えのタイミングで、浸水が想定されていない地域に移ることを検討していただきたいです。国や自治体は、このような建て替えや移転に対する補助を出すなどの支援や仕組みづくりが求められます。
豪雨災害多発時代に、防災・減災だけでなく、災害を受けない暮らし方に変える、このことを実行する時期に来ていると思います。

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