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「新型コロナウイルスとこれからの学校」(視点・論点)

川崎市健康安全研究所 所長 岡部 信彦 

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川崎市健康安全研究所の岡部です。この「視点・論点」で今年の1月27日、中国武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の発生について紹介をさせて頂きました。その後わが国ではくすぶり状態のような少数の感染者発生がしばらく続いたのち、3月末から4月にかけて増加傾向が著しくなりました。首都圏の病院などでは退院数を上回る入院患者さんが急増し、医療はパンク寸前と感じるまでになり、4月7日には東京・大阪など7都府県に、4月16日には全都道府県への緊急事態宣言となりました。

その後、感染者数は減少傾向に転じ、5月14日に39県、21日京都府・大阪府・兵庫県、5月25日に残る関東首都圏および北海道について緊急事態解除宣言が行われました。減少に転じた原因はいろいろな要素が考えられますが、なんといっても多くの方々の「我慢」による結果であると考えたいところです。対策にあたった者の一人として、大変な「我慢」をしていただいた皆様に厚く御礼申し上げます。
現在いったんの落ち着きは見せていますが、散発的発生は各地で見られています。ピリピリと心配をし続ける状況ではありませんが、安心しきってよいということではなく、一定程度の注意をしながら、日常生活を徐々に戻していく段階かと思います。

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図は、左側が人工呼吸器を要した患者数の変化、右側は最重症患者への治療である体対外人工肺(ECMO)を要した患者数の変化です。青色は回復した患者、黒は死亡患者、赤は実施中の患者数ですが、4月下旬をピークに実施中の患者数が著しく減少しているのがお分かりいただけると思います。現在では東京都をはじめ、各地とも、患者さんを受け入れるベッドがパンパンに埋まっているという状況ではなく、むしろ空いてきています。つまり、仮にもう少し患者さんが増えたとしても、冷静に対処すればきちんと診ることができる状況であるといえます。そういう意味で、今の段階で毎日の感染者の数の動きに、日々一喜一憂する必要はないと思います。

ところで、長く続いていた学校閉鎖も少しずつ解除に向かい、学校の先生方も工夫を重ねながら、ようやく新学期をスタートさせていると思います。ありがとうございます。学校と感染症は、インフルエンザでもノロウイルスでも常に注目されるところですが、新型コロナウイルスとこれからの学校について、少し私の意見を述べさせていただきたいと思います。

 学校が始まると学校内で少数の感染者が出てくる可能性は確かにあります。

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そのリスクはゼロではありませんが、国内での患者発生の年齢分布をみると小児の発症は極めて少ない状況です。重症者もいません。また学校、幼稚園保育園の子どもたちでの感染例はありますが、これまでクラスター(集団感染)の中心にはなっていません。これは患者数がけた違いに多い海外でも図に見るように、小児の感染者数・重症者数は、極めて少数に留まっています。海外では厳しいロックダウン(都市封鎖)を行い子供たちは学校にいけないので、学校での流行はない、という考えは正しいと思います。しかし、子供たちの感染経路として多い家庭内感染でも、やはり子供たちのほとんどは軽症ないし無症状にとどまっています。その理由はまだよくわかっていないのですが、子供たちの感染=重症、というわけではないので、学校などで一人でも発生すると厳重な警戒と休校、数人の感染者が出たレベルで全市・全地域で学校は閉鎖、という対応は現在のところ必要はないであろう、と私は思います。
少数の子どもさんの発生から直ちに全校閉鎖あるいは地域の学校閉鎖となるとこのデメリットも考えないといけません。子供たちの生活の大部分である学校生活をストップすることのマイナスは大きいと思います。日本小児科学会では、「休所・休園・休校の問題点としては、子どもの教育の遅れ、生活習慣の乱れ、運動不足、それによる体重増加、栄養の偏り、食環境の変化、家庭内での虐待の増加、保育所・幼稚園・学校での福祉活動の低下、保護者の就労困難・失業、祖父母などの高齢者との接触機会の増加などがあげられます。」との意見を表明しています。

再開した学校では、感染対策として一生懸命工夫されたと思うのですが、感染予防のためにマスクの上にフェイスシールドをつけさせたり、さらに机ごとにシールドで囲いを作っておしゃべり禁止にしたりしているところもあるようです。子どもたちは所詮、ぐちゃぐちゃになってしゃべり、おしくらまんじゅうのようになって遊び、みんなで育っていくものです。給食の時も友達と距離をおき、会話を少なくして静かに食べる。昼休みもあまり子供たち同士で固まらない、というようなことをし続けることは、子どものトータルの成長を考えると正常ではないと思います。いまのところは、できそうなこと精一杯考えてやってみた、というところと思いますが、この新型コロナウイルスの流行の様子、特に地域での様子を見ながら、対策も変化させていくことが今後は良いのではないかと思うところです。
例えばマスクは、主には1~2メートルの距離の間の飛沫感染を防ぐのが最大の目的です。

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基本的には「1~2m程度の距離を開ける」、「その距離を開けられない状況なら念のためにマスクをする」、という考え方になります。厚労省による「新しい生活様式」の改訂版では「外出時や屋内でも会話をするとき、人との間隔が十分とれない場合は、症状がなくてもマスクを着用する。ただし、夏場は、熱中症に十分注意する。」となりました。
文科省による衛生管理マニュアルの改訂版においても「基本的には常時マスクを着用することが望ましいと考えられます。十分な身体的距離が確保できる場合、この限りではありません。」とあります。また、「夏期の気温・湿度が高い中でマスクを着用すると、熱中症のリスクが高くなるおそれがあります。マスクの取り外しについては、活動の状況や児童生徒等の様子なども踏まえ、現場で臨機応変に対応することが重要です。」とあります。なお「体育の授業におけるマスクの着用は必要ありません」「熱中症のリスクが高くなるおそれがあるので、登下校時には、人と十分な距離を確保できる場合には、マスクを外すようにします。」などとも記載されています。

子供も大人も人は体を触れ合うことで、人間性ができていきます。犬でも猫でもそばによって、お互いの匂いをくんくんかぎながら、相手は仲良くなれそうか嗅ぎ分けます。距離を離したままではそういう能力がなくなってしまいます。
学校で新型コロナウイルスをはじめとして感染症が発生する可能性はゼロではないので、インフルエンザやノロウイルス対策と同様、基本的な感染対策は必要です。けれども、過剰な不安が先行して、これをやって、あれもやって、さらにあれもこれも、と心配が心配を呼んで何乗にも増幅された対策までにしてはいけないと思います。子どもを守るというのは感染症から守ることだけではありません。子供たちの健やかな成長を妨げるようなそのほかのリスクも十分考えないといけないと思います。
その点を学校関係者の方々、そしてぜひ保護者の方々にもご理解いただきたいところです。

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