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「途上国の子どもに教育を届ける」(視点・論点)

NPO法人e-Education 代表理事 三輪 開人

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 本日は、アジアの子どもたちが直面する教育課題をどのように解決できるのか、というというテーマでお話しします。

2010年、私たちe-Educationは、バングラデシュという国で活動を始めました。当時のバングラデシュは「アジア最貧国」と呼ばれており、世界銀行のデータによれば、全国で4万人の先生が不足しているという大きな課題がありました。

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特に深刻な課題は、都市部と農村部における教育格差、その中でも高校生の学習環境には非常に大きな差がある状況でした。
 算数教育を例にすると、「足し算引き算」を小学生に教えることに比べて、「微分積分」を高校生に教えることは非常に難しく、先生が不足している農村部において、地元の高校生たちは質の高い教育を受けることができない、そういう仮設を立てました。

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 2010年に初めてバングラデシュを訪れた時、貧しい農村で、街灯の下で夜間勉強する高校生と出会って、この仮説は確信に変わりました。
外で勉強していたのは、彼の家には電気がないから。気温は30度以上、真夏のような暑さの中で、額に汗を書きながらボロボロになった教科書で勉強していました。

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 なぜこんなにも勉強するのか、理由をたずねてみると「どうしても大学に行きたいんだ」と話してくれました。大学に行って良い仕事を得て、家族のみんなを幸せにしたい。自分のためではなく、家族のためを思って勉強する彼らの姿に胸を打たれました。
「彼らの挑戦を応援したい」。そう思った私たちは、かつて高校生の頃に学んだ「DVD授業」のモデルを活用できるのではないかと考えました。

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バングラデシュの首都ダッカには、100以上の予備校が集中しているファームゲートと呼ばれる地区があります。私たちは聞き込みを通じて、クドビ・ザハン先生というテレビにもよく出演されている有名予備校講師と出会いました。

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私たちの想いを伝えると、ザハン先生は二つ返事で快諾してくれ、先生の授業を2か月かけて撮影しました。ザハン先生の呼びかけで他の予備校講師にも協力いただき、私たちは合計45時間分の映像教材を作り上げました。

私たちは映像教材と、日本から寄付してもらった中古のパソコンを持って、街灯の下で勉強する高校生がいた貧しい村に届けました。村の方々も「若者のためなら、学生たちのためなら」と、教室とソーラーパネルで蓄電した電気を無償で供給してくれ、バングラデシュ初となるDVD学習塾が誕生しました。

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初めて映像授業を受ける村の高校生。あこがれの先生が、まるで自分のために授業をしてくれるような新しい学びの形に学生たちはとても喜んでくれ、それから毎日目を輝かせながら、一生懸命勉強に打ち込みました。

そして半年後にやってきた大学受験本番。32人の生徒のうち、18人が大学受験に合格。そのうち1人は、バングラデシュの最高学府であるダッカ大学に合格、進学することができました。

活動を始めて今年で10年経ちますが、これまで250人以上の高校生たちが、現地の難関国立大学に進学しました。それだけではありません。バングラデシュで始まった取り組みは世界各地に広がり、これまで14か国3万人を超える若者たちの勉強と夢を応援してきました。

 もちろん、平坦な道のりではありません。毎日のように発生する停電、激しい交通渋滞によっていつも遅れるミーティング。2016年にはテロ事件が発生して、治安の恐れもありました。
 足りないものが多く、毎日のようにトラブルが発生する中で、私がいつも心がけていることは「悲観は気分、楽観は意思」という哲学者アラン氏の言葉です。
目の前で生じたトラブルは、新しい解決策を見つける絶好の機会でもある。ピンチをチャンスに。現地の仲間たちとこの合言葉を大切に、これまで活動を続けてきました。

 今年、私たちの活動は10年目を迎えましたが、新型コロナウイルスの影響で、私たちが活動するすべての国の教育が止まっています。かつてない困難に直面しています。
 日本では感染者の増加が減り、全国の小中高校が再開した一方で、バングラデシュは感染者が今もなお増加傾向にあり、学校再開のめどは立っておりません。

 学校に行けず、先生に会えない村の高校生。日本とは異なり、オンラインの授業や学校からの課題もなく、学習に大きな遅れが生じています。
そして、困っているのは小中高校生だけではありません。都市部で一人暮らしをしている大学生にも大きな影響が出ています。

e-Educationの元生徒たちをはじめ、貧しい農村から都市部の大学に進学した学生の8割以上が、学費、生活費を自分で稼いで大学に通っています。

ところが、新型コロナウイルスの影響で家庭教師や予備校講師といったアルバイトができなくなりました。私たちが実施したアンケート調査の結果では、95%の大学生がアルバイト収入が減少、80%の学生が収入がまったくゼロに、半数以上の学生が大学の中退を本気で検討していることが分かりました。
このような状況下で、皆さんならどんなサポートを行うでしょうか?

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私たちが新しく始めたプロジェクト。それは学校に通えなくなった農村部の高校生と、学業継続が厳しくなった都市部の大学生をつなぐ「オンライン家庭教師サービス」です。
コロナの影響が出始めた4月から活動を開始し、先月5月の1か月間、実験的に大学生
20人と高校生100人を集めて「オンライン家庭教師サービス」を開始しました。

家庭教師をしてくれた大学生には、毎月1万円の報酬を渡しています。1万円は都市部の大学生がアルバイトで稼ぐ平均的な金額で、彼らは外に出なくても、学費や生活費を得ることができるようになりました。

 新プロジェクト開始から1か月が経ちましたが、毎日のように嬉しい声が日本に、私たちの元に届いています。分からない問題が解けるようになった。大学生活を知ることができて、大学に行きたい気持ちが今までより強くなった。高校生たちからこんな感想をもらっています。
 また、大学生からは、「この家庭教師サービスのおかげで大学に通い続けることができています。大学卒業後も教育に関わる仕事がしたいと言う新しい夢ができた」など、嬉しい感想を毎日のようにもらっています。

 それから予想を超えた感想もありました。ある女子大生から「このオンライン家庭教師は、すべてのイスラム女性にとって不可欠なサービスです」と、そんな話を教えてもらったのです。どういうことでしょうか。
 実はバングラデシュをはじめとしたイスラム教の国では、女性は基本的に夜間外を出歩くことが難しく、夕方以降予備校に通ったり、大学生であればアルバイトをすることができないという課題がありました。

この課題もオンライン家庭教師なら解決することができます。バングラデシュのみならず、今コロナで苦しい状況にあるすべての国、働く機会や学ぶ機会が平等でない国の課題も解決することができる。私はそう信じています。

 「ピンチをチャンスに」。これが私たちe-Educationが10年間信じ続けてきたことであり、今、新型コロナウイルスの影響で苦しい状況下にある全ての人へお伝えしたいことです。
 先生がいない。外に出ることができない。こういったピンチの時にこそ、DVD授業やオンライン家庭教師といった新しい挑戦が生まれるチャンスでもあります。
バングラデシュで実践できて、日本で実現できないわけがありません。もちろん困難も、失敗することもあると思いますが、諦めず挑戦し続ければ未来は必ず変えられます。

一人一人の力は微力でも、決して無力ではありません。ピンチをチャンスに変えられるよう、一緒に頑張りましょう。

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