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「今考える 災害時の避難」(視点・論点)

東京大学大学院 特任教授 片田 敏孝  

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新型コロナウイルスの感染拡大が未だ収まらないなか、今年も梅雨のシーズンとなりました。これから秋にかけて本格的な出水期を迎えます。
一昨年の西日本豪雨災害、昨年の台風19号による災害など、毎年のように災害が発生しているなか、今日は、新型コロナウイルスの感染リスクを避けることを念頭におきながら、あらためて災害時の避難のポイントを考えてみたいと思います。

災害時の避難と言いますと、自然災害の危険が迫った状況で行政から出される避難勧告や避難指示に従って、近くの避難所に身を寄せることが一般的です。しかし、避難所といえば、災害時には多くの人で込み合い、密閉、密集、密接という、いわゆる3密状態になりやすく、ソーシャル・ディスタンスを確保できない状況になりがちです。避難所という性格上、多くの人が集まる訳ですから、どうしても完全な3密対策を行うことには無理があります。

政府は各自治体に対して、雨のシーズンを前に、避難所での3密対策を十分に行うよう通達を出しています。この通達では、十分な避難所の換気や、収容人数を考慮して、従来の体育館ではなく、教室を利用することなど、3密状態を避ける対策を求めています。また、これまでの指定避難所以外にも、ホテルなどを利用することを勧めるなど、出来る限りの感染防止対策を求めています。

これを受けた各自治体でも、新型コロナウイルスまん延下での避難所対策は進めているのですが、私たち自身も、各家庭での対策を今のうちから考えておかなければなりません。
この時、一番大切なことは、災害による避難が必要になった時には、新型コロナウイルスの感染の恐れがあったとしても、避難そのものを躊躇(ちゅうちょ)してはいけない、災害への対応を怠ってはいけない、ということです。新型コロナウイルスの感染予防も重要ではあるのですが、ウイルスのまん延という、社会がいわば慢性の病気にかかっているからといって、同時に社会に併発した災害という急性の病気への対処を怠っていたのでは命を落とすことになりかねません。
新型コロナウイルスがまん延する中での、災害時の避難のあり方を考えるにあたって、まず最も大切なことは、災害への対応を躊躇してはならないということです。

さて、新型コロナウイルスへの感染をできる限り避けながら行う災害への具体的な対応について考えてみたいと思います。
この問題に対しては、わが国の防災分野の最大の学会である、日本災害情報学会が5月15日に提言を発表しています。

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この提言では、まず、『「避難」とは難を避ける行動のことです。避難所に行くことだけが避難ではありません。』とうたっています。このことは、避難と言えば避難所に行くことと固定的に考えているのであれば、まずはその認識を改めることを求めています。この提言の根底には、各ご家庭において災害への対応は積極的に行って頂き、災害による難から逃れて頂きたい。それと同時に、新型コロナウイルスの感染防止を念頭に、できる限り密集を避けるよう考えて頂きたい。という2つの思いがあり、そのための考え方として、分散避難という考え方を示しています。

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分散避難とは、地域全体として密集をできる限りなくして、小規模な単位での避難を実現することで、ウイルス感染の拡大防止を図りながら、同時に、自然災害からの犠牲者を出さないための避難のあり方です。
この提言では、雨のシーズンを前に豪雨災害を中心に分散避難の考え方が示されていますので、豪雨災害を例に分散避難の具体を考えてみたいと思います。

豪雨が降って地域に河川の氾濫や土砂災害などの危険が迫ると、自治体は危険な地域に避難勧告などの避難情報を出します。

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しかし、高台などで明らかに浸水被害が生じない地域や土砂災害の危険がない地域、さらにマンションの上層階などの場合は、明らかに浸水被害や土砂災害の危険が無いと判断できる場合があります。このような場合は、在宅避難、つまり避難しないのではなく、しっかりと事前に検討した結果として家に留まるという判断をするということも新型コロナウイルスがまん延している状況では重要となります。
そして、十分に検討した結果、自宅に留まることに少しでも不安があるのであれば、躊躇することなく、自宅外への避難を考えることが必要です。

このような判断をする時に参考になるのが、ハザードマップです。

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ハザードマップに示される情報は、それぞれのお宅の浸水被害や土砂災害に対する安全性の目安を示しており、確実な情報とは言い切れない面もありますが、概ねの安全性は把握することができます。このハザードマップの情報に合わせて、それぞれのお住いの構造や高さなどを合わせて考え、自宅に留まることが可能かどうかを自分で判断する必要があります。ハザードマップは既にほとんどの自治体で公表されていますので、それを参考に事前にその判断をしておくことが必要です。

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この判断の結果として、自宅に留まることは危険、自宅外に避難する必要があるといった場合にまず考えて頂きたいことは、避難所における感染を防ぐために、避難所以外に避難することができる場所は無いかと考えて頂くことです。
例えば親兄弟といった親族や親戚宅、頼れる場合は知人宅、さらにはホテルなどの避難先はないかを検討することです。そして事前に了解を得るなどして、災害時にスムーズな対応ができるよう準備しておくことが必要です。

自宅外への避難が必要で、親戚や知人を頼ることができず、ホテルなどの選択肢もない場合。この時は躊躇なく行政が準備した避難所に行くことが重要です。相手は目に見えないウイルスへの対策ですから避難所に限った話ではなく、完全な感染予防は難しいのですが、それでも行政が準備する避難所は、新型コロナウイルスまん延下であることを考えて、様々な感染予防の対策を行っています。
入り口での検温や問診はもちろんのこと、密集を防ぐために従来の体育館ではなくて教室を使っての避難によってソーシャル・ディスタンスを確保するようにしたり、自治体によっては、学校の統廃合で使われなくなった学校を利用したり、町の中の空き家を利用する計画を立てている自治体もあります。

避難所における感染を恐れるあまり、避難所に行くことを躊躇して、災害によって命を落とすようなことは絶対に避けなければなりません。自宅に留まることができず、親戚や知人宅、ホテルなども利用できない場合は、個人としても感染対策をしながら避難所に行って頂きたいと思います。

分散避難という考え方は、新型コロナウイルスがまん延している中にあっても、できる限りの感染対策を行いながら、災害への対応を怠らないための重要な考え方だと思います。

新型コロナウイルスがまん延していても、それとは無関係に自然災害は襲ってきます。その時の対応のあり方は、それぞれのお宅の条件によって異なってきます。各自治体も避難所の対策などを行いますが、それであっても対処の仕方は、皆さん自身が事前に十分に検討して、自ら決めなければなりません。
新型コロナウイルスがまん延する中での災害避難という、私たちが今までに経験したことのない事態です。
事前の対策を十分に整えて、この厳しい状況を乗り越えなければなりません。

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